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【完結】ループモブ〜ループに巻き込まれたモブの異世界漫遊記  作者: 明和里苳
界渡り編

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第134話 知らない天井

 知らない天井だ。今回はガチ。アレクシの人生でも怜旺の人生でも、この天井は見たことがない。


 体がギシギシと軋む。何とか首を動かして、辺りを見回す。白く清潔な壁と寝具。簡素な家具だけが配置された殺風景な部屋。病院か?それにしては、機械の類は見られない。ぼんやりとした頭で思案していると、ドアの向こうから足音がして人が入ってきた。


「おお、目覚めたか。アレクシ・アペール!」


 静かな部屋に響く大きな声。ラクール先生だった。




 無事にこっちに戻れて安堵すべきなのか。それともラクール先生に捕まって絶望すべきなのか。


 ラクール先生に見つかった後、界渡りの杖を振るった僕。ラクール先生によると、僕が一瞬光に包まれたかと思うと、その後バタリと倒れ伏して三日も目覚めなかったそうだ。ここは王宮の医務室のうち、下っ端官吏(かんり)に宛てがわれる病室だそうだ。


「酷い打ち身だったようで心配したぞ。体調が悪いならそうと言いなさい」


「はぁ…」


 よく言うよ。有無を言わせる雰囲気じゃなかっただろ。


 一応、僕にも考えがあった。今度界渡りから戻る時には、ラクール先生に見つかる前の時点に戻ればいいんじゃないかと思ってたんだ。しかもこれは、二度目の界渡り。特に親しい人以外、僕のことを覚えていない可能性が高かった。しかし今回ばかりが運が悪かった。ラクール先生は、僕がマロール近辺で浄化をしていた頃から僕をマークしていたらしい。そんなターゲットが目の前で光に包まれて倒れたとあれば、僕のことを忘れてくれようはずもなかった。しかも『宵闇の聖者』だって。何その二つ名。


 僕の身柄を確保したことで安心したのか、彼は間もなく病室を出て行った。僕には転移があるからいくらでも逃亡は可能なんだけど、一応大人しくしておいた。どうせこのループはあとちょっとだ。ラクール先生側のこれまでの動きを聞き出して、対策してから次回に臨んでもいいだろう。


 三日も目を覚まさなかったせいか、それとも僕にかけられたヒールが甘かったせいか。僕の体はあちこちが痛んで、安静にしているように申し渡された。まあ、ヒール一発で治しちゃうけどね。そういえば、あっちで事故に遭った時にヒールを掛けていれば、僕はまだあっちに居られたかもしれない。もしくは、ヒールの魔石を手元に持っていれば。まあ、咄嗟のことだから間に合わなかったろうし、今更たらればを言っても仕方ない。しかし、今度渡る時にはその辺りを用心して行こう。望まない地点にデスルーラは困るからね。




 治癒師が時折病室を訪ねて来る以外は、とても静か。僕は手帳に思いついたことをしたためる。今日は王国歴361年9月13日月曜日、ループ終了まであと半月余り。


 今回は帰還に失敗したけど、任意の時点に渡れるということは任意の時間に戻れるということだ。僕はこれまで渡った時間と同じ時間に戻ること、それから三年後に渡ることは試してみたけど、前に戻ることを思いつかなかった。同一ループ内での界渡りは二回が限度。だけど、ループの終わりにあっちに跳んでループの初めに戻って来れば、同一ループを実質9年ほど過ごすことができる。これが今後どう役に立つのかは分からないけど。


 逆にあっちに跳ぶにしても、小学校三年に戻ることができたわけだ。それならもっと前の時点に戻れば、あっちの人生を長く過ごすことができる。いや、三年生の時点で僕に出来ることは限られていた。お金を稼ぐ手段もないし、一人で行動する自由もない。もっと小さければ尚更だ。そもそも中身が今の僕のまま、また子供のふりをして小学生をやり直すのはもう勘弁だ。いやでも岡林君のケアをするなら、遅くとも中学校入学前には渡らなければならないのか。前途多難だ。


 そうだ、それより僕の寿命と思われる時点より後に跳んだらどうなる?もっとあっちで長く活動出来るんだろうか。いや、界渡りをするためには、その時点その場所の明確なイメージが必要だ。僕が経験していないことを強くイメージすることは出来ない。それとも、強力な守備用回復用の魔道具を作って、あっちでの寿命に対抗してみてもいいかもしれない。長生きしたからって、ループが終わるかどうか分からないけど。


 待てよ。そういえば、こっちの世界でループ開始時点より前に跳んだことは無かったな。もしかして、ループ脱出の鍵はループ前にある?なんてことだ。こんな簡単な問題に気付かなかったなんて。


 それよりも、あっちで一度浄化した場所は、過去に遡っても浄化されていた。これはバグなのか、そういう仕様なのか。そしてそれは、こっちの世界でも同じなのか検証しなきゃいけない。次のループに入った後、これまで浄化した場所を訪ねてみなければ。


 そういうことなら、岡林君の家、いぶかしまれてもいいからアンチカースして来れば良かった。そうすれば、また小学生時代に渡らなくても良かったかも知れないのに。彼は聡明な男だ。メンタルさえ支えてあげれば、勝手に大成していくだろう。いや、彼の精神や体調を長期的に支え続けるという意味では、魔石を渡す必要があった。やはり小学生のやり直しは必須なのか。中学入学時点で間に合わないかな。素行の悪い連中と絡まなければ、何とかなるかもしれない。


 岡林君だけでなく、柄の悪い連中の一部も、ゆくゆくは|Love & Kühnラブアンドキューン社に関わる人材となる。人生、何が起こるか分からないものだ。僕が主体となって作っていた時とは比べ物にならないほどのクオリティ。もしループ解消にあの技術力が必要なら、僕はまたあの頃から彼らと関わって行かなきゃならない。


 とりあえず、こっちでやることは守備用と回復用の強力なアイテムの作成だ。あと半月だと厳しいかな。次ループに持ち越しだろうか。そもそも、回復はハイヒールの効果を持つものを集めて濃縮すればいいとして、守備ってどうすれば。飛翔フライ?いや、飛んだらまずい。風壁ウィンドシールドか。それより対物理なら身体強化や武術スキルで、カウンターや受け身なんかで対応すべきだろうか。




 一心不乱に書き物をしている僕を見て、もう大丈夫だと思われたんだろうか。僕は翌日、ラクール先生に呼び出された。王宮の中を歩くのは初めてだ。一応地方の豪商の息子、それなりの礼儀作法は心得ているものの、僕は何の後ろ盾もない平民に過ぎない。そもそも、国中に魔道具を置いて回った怪しい奴として捕えられたのだ。処刑されたらどうしよう。実家や親類にも責が及んだりしないだろうか。僕は青い顔で、前を歩く事務官の後を追った。

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