第127話 誤算
こうして浄化活動に取り組んでいると、当然世間の風潮も変わってくる。街を歩いていると、昼なお暗い貧民窟の治安が良くなったとか、人が避けて通っていた曰くつきの幽霊屋敷が明るくなったとか、街道沿いの魔物の出現が減ったとか、ちょくちょく良いニュースを耳にすることが多くなった。心当たりのあるものもないものもあるけども、おおむね世の中が明るい方向に変わっているのは良いことだと思う。
前回の界渡りでアンチカースを使うまで、僕は目に見えない存在のことをほとんど信じていなかった。だけど実際に自分の目で効果を見ると、存在を認めるしかない。浄化の効果と恩恵は、思ったよりも大きい。神殿や教会が人々の支持を集めるのは、ちゃんと理由があったんだ。
この浄化活動も、ループで巻き戻ったらチャラになっちゃうんだろう。だけど、この設置型アイテムは研究の価値がある。今は光属性と闇属性の「鎮魂」や「解呪」のアイテムに限定しているけど、攻撃スキルや回復スキル、他の四属性スキルが同じように運用出来たらヤバくないか。
そうなれば善は急げということで、僕はインベントリに死蔵していたドロップアイテムを駆使して、いくつか試作品を作ってみた。
試作品作りは難航した。まず受動的に自動発動するスキルが少ない。火炎の魔石などは、一度作ったら魔素が尽きるまでずーっと燃えてる。人感センサーみたいなのを付けるとしても、人か魔物かなんてどうやって区別すればいいのか分からない。そしてそもそも、山火事とかになったらヤバい。火属性は封印だ。そして同じように、風属性、土属性、水属性も。近付いたら鎌鼬や弾丸が飛んでくるなんて危険極まりない上、周囲の木や草が切れたり土に埋もれたり水浸しになったり。結局四大属性はポシャった。
次に光属性と闇属性の攻撃スキル。これらは自然現象に関与せずに殺傷力を発揮できる。しかし光属性のスキルは総じてエフェクトが派手で、強烈な発光現象は遠目からでも目立ち過ぎる。一方闇属性の方は目立たずに殺傷力を発揮して非常に優秀だった。しかし人も魔物も無差別に発動するから、人の来る可能性のある場所で無闇に使うことはできない。保留。
最後に回復スキル。しかしこれも敵味方の区別が難しく、どっちも回復しちゃったんじゃ意味がない。アンデッドには効くんだけどね。結局「鎮魂」「解呪」の方が使い勝手が良かった。
うん、人生トライアンドエラー。失敗は成功の母。ドンマイだ。
そんなことを試しながら、魔石を量産しつつお墓掃除。もう国内は随分綺麗になった。そろそろ国外に足を伸ばすか、それとも二度目の界渡りをして岡林くんを探すべきか。結局前回のループでは、バイト先でたまたま彼を見かけて以来、一度も彼に出会うことはなかった。次こそはあのチャンスをものにして、連絡先の交換に持ち込まなければ。
「———見つけたぞ、『宵闇の聖者』」
「うぇっ」
不意に灯りを向けられ、目が眩む。何事?!
「最近国内で、墓地や禁足地に高度な魔道具が残される事例が多発している。お前が持っているそれで間違いないな?」
「ラ、ラクール先生?!」
ちょっと待って。ここは王都。人目が多いので、王都の墓地は最後に回してたんだ。どうしてここに先生が?
「事の発端はマロール。私は特命を受けてターゲットを追っていたのだが…教え子だったとはな。アレクシ・アペール?」
ひえっ、面が割れてる!
「あっあのっ、その、悪気は無かったといいますかッ」
「ああそうだとも。お前のやったことは、国宝級のアーティファクトを国中にばら撒き、土地を浄化して回ったことだ。しかしそのアイテムはどこで入手した?そして同じ手法を使えば、国中でテロを起こすことも出来る。お前に悪気があるとかないとかそういう問題ではない。一緒に来てもらおう」
「ひいい!」
じゃり、じゃり。光の魔道具を手にした先生と黒装束の数人が、少しずつ距離を縮めて来る。考え事をしていたとはいえ、斥候術を持っている僕を出し抜いて包囲するなんて、コイツらヤバい。捕まったら終わりだ。どうすれば———
僕は咄嗟に界渡りの杖を取り出し、素早く振った。




