第126話 暗躍
ダンジョン周回にお墓参り。本当にこれでループが解消するのかどうかは分からないけど、新要素が見つかったのならやり込んでみるしかない。僕は黙々と打ち込んだ。
しばらく活動を続けて分かったことといえば、こちらでお墓参りを重ねるごとに「祖霊の守護」の称号は進化すること。そして一方で、どれだけダンジョンで非物質系モンスターを倒しても称号に変化は起こらなかったことだ。そのダンジョンがたとえ墓地のようなステージで、モンスターがゾンビやレイス、スケルトンなどであっても。やはりダンジョンは一種の仮想空間のような世界であって、実在する魔物や死者とは別物のようだ。
そのうち僕は、「祖霊の守護」が進化するたびに、見たくないものが見えるようになった。そして自動的に、元いた世界と同じような道に進むことになってしまった。淀んだ空気、薄暗い雰囲気、冷たい感じ、鼻につく臭い。大体、こういったところに「何か」がいる。僕は極力見ないようにしているが、「あ、こいつ見えてるな」って気付かれたら終わりだ。付いて来ちゃう。仕方がないので「鎮魂」、それでもダメなら「解呪」。
気をつけなければならないのは、こちらの世界には魔法があること。僕が何らかのスキルを使っているのがバレたら厄介だ。あっちでは「オカルト」「気のせい」で誤魔化せることが、「コイツ土属性なのに」から面倒ごとになだれ込むのは目に見えている。「見えてはいけない何か」だけではなく、一般人にも気付かれないように活動するのは、案外骨が折れた。しかし、打ち捨てられた墓地、古戦場、いわくつきの幽霊屋敷など、ごっそり浄化して経験値が手に入り、なおかつ感謝される(夢を見る)なんて、割と美味しいバイトとも言える。称号も上がって、スキルの威力も上がるしね。
魔道具作りと錬金術についても進展があった。光属性ダンジョンと闇属性ダンジョンでは、当然魔石以外にもドロップ品はある。天使の羽根は、濃縮付与すると闇属性防御性能を。バジリスクの鱗は光属性防御性能を。天使の光輪はINTアップ、リッチのルビーはMP回復。そして光闇どちらにも出現するゾンビプリーストが、ロザリオや聖水をボトボトと落とす。これらは神殿で販売しているものと同じ、除霊と魔除けの効果があるんだけど、ダンジョンドロップなのでエーテル化と濃縮が出来ちゃう。結果どうなったかというと、
・教皇のロザリオ+Max
→防御力10、重量1、エリアアンチカース(弱・パッシブ)
ロザリオを濃縮していくと、ロザリオ→僧侶のロザリオ→司祭のロザリオと進化して、Maxまで付与したら教皇のロザリオに。そいつに聖水を濃縮して入れられるだけ突っ込んでみたら、常時エリアアンチカースというとんでもないアーティファクトが出来てしまった。まあいい、これを身につけていれば大抵の非実体系モンスターにやられることはないだろう。
他にも副産物として、進化途中の「浄化のロザリオ」やら「引導の魔石」やらが出来た。強さや効果はまちまちだけど、要は「置いとくだけで浄化できる」いわば空気清浄機みたいなものだ。これで、人目を憚ってこそこそとスキルを使って回るより、より効率的に浄化が出来るようになった。
予想外だったのは、この設置型のアイテムで浄化した墓地からも経験値が手に入ったことだ。もうレベル二百を超えて界渡りまで取ってしまったので今更レベルなんてどうでもいいんだけど、ちゃんと「ありがとう」って言われる(夢を見る)のはちょっと嬉しい。そして「祖霊の守護」は小、中、大、極と進化して、やがて「英霊の守護」に変わった。そして進化すればするほど、浄化案件に巻き込まれていく。見えちゃう、浄化しちゃう、見えちゃう、浄化しちゃう、みたいな。
そんな毎日を過ごしている間に、あっという間に一年半が過ぎ去り、学園を卒業することになった。今の僕のステータスは、こんな感じ。
名前 アレクシ・アペール
種族 ヒューマン
称号 アペール商会令息
英霊の加護
英霊の守護
レベル 373
HP 5,000
MP 17,300
POW 500
INT 1,730
AGI 500
DEX 1,000
属性 土
スキル
+斥候術LvMax
+ 剣術LvMax
(石礫)
(ランドスケイプ)
(ロックウォール)
(ゴーレム作成)
(槍術)
(弓術)
(体術)
(投擲術)
(身体強化)
E 私服
E 秋津のブーツ+Max
E 教皇のロザリオ+Max
E 火鼠のタリスマン
E 隼のタリスマン×3
E 風精のタリスマン
E ルフのタリスマン×3
-魔道具
(火)
魔道具・火炎
魔道具・爆炎
(水)
魔道具・氷嵐
(土)
魔道具・ロックブラスト
魔道具・レールガン
魔道具・砦
(光)
魔道具・界渡り
魔道具・治癒
魔道具・範囲治癒
魔道具・浄化
魔道具・範囲浄化
魔道具・解毒
魔道具・範囲解毒
魔道具・解呪
魔道具・範囲解呪
魔道具・ホーリーレイ
魔道具・神の祝福
魔道具・鎮魂(光)
(闇)
魔道具・転移
魔道具・鎮魂(闇)
ステータスポイント 残り 0
スキルポイント 残り 2,630
何度もループを繰り返し、取捨選択してシンプルにしてこれだ。インベントリの中にはお蔵入りになったアイテム、設置型のアイテム、その他魔石や消耗品なんかもいっぱい入っている。
そんな僕の今ループの進路は冒険者だ。両親には「三年ほど自分の目で世界を見て回り、商会の発展に結びつく商機を手にれたい」と説得した。今回はこのために剣術を取り、Maxにした。剣術の優績者なら、騎士や冒険者を志してもおかしくない。
こういうプレゼンも慣れたものだ。なんせこれまで何度もやっているから。そしてループ中の三年間のトレンドや、商機になるような商品もよく知ってる。まあいくらお金を儲けたところで、ループで全部チャラになっちゃうから、あんまりやる気が起きないんだけど。
さて、今日からは毎日が自由に使える。僕は活動範囲を広げ、国中の墓地や浄化が必要そうなところを片っ端から浄化していった。今ループはあと一年、界渡りのチャンスはあと一回。次はあっちでどれくらい時間を過ごすか分からないから、魔石は作れるだけ作って持って行こうと思う。そのために、ループ終了直前まで浄化の旅とダンジョンアタックを続ける予定だ。
忙しくしている間は、何も考えなくていい。本当はいろいろ考えなくちゃいけないんだろうけど、ループ解消法が全く分からない僕がごちゃごちゃ考えたって、分からないものは分からない。一人で抱え込むのは良くないと、信頼できる人に頼ろうとした前回があのザマだ。今の自分が出来ることを無心に試してみるしか方法はない。
光属性ダンジョンと闇属性ダンジョンを高速周回して無数の魔石やアイテムを集め、険しい山中に建てた砦の中で「魔石+3」「浄化のロザリオ」「引導の魔石」を量産。これらは自動エーテル化装置を改造し、不在にしている間も勝手に出来るようにした。「大」の聖句を刻んだ箱に魔石を設置し、エーテル化したいアイテムを一定数投入。下にエーテルを受ける箱を置いて、エーテルを付与したいアイテムを置いておく。アイデアとしては長らく頭の中にあったものだ。もっと早く実用化すべきだった。そうして出来たアイテムを、浄化が必要な場所に逐一仕込んでいく。経験値爆上がり、寝るたびに「ありがとう」の大合唱、そして「祖霊の守護」が「英霊の守護」に、「英霊の守護」が「聖霊の守護」にランクアップしていく。
これまで、とりあえず転移を取るのにレベル100、そして界渡りのためにレベル200を目指すのが定石だった。そのためにはスライムダンジョンで魔石を浚い、初級ダンジョンでトンボを狩り、上級ダンジョンで火鼠を狩ってプレオベールでタリスマンを作って、その後は超級ダンジョンをひたすら攻める、というのが僕の戦略だったんだけど、この設置型のアイテムは革命かも知れない。自動付与もそうだ。寮の部屋や授業中の机の下でちまちま濃縮付与するのとは違う。僕はまた進歩した。未だループ解消には至っていないが、僕はちゃんと前に進んでいるんだ。挫けるな僕。