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第125話 お墓参り大作戦

 善は急げということで、僕は早速マロールの田舎町、メグレへとやって来た。ここはアペール商会発祥の地と言えば大袈裟だけど、元はこの町から領都に進出したのだ。ここには商会の支店があるとともに、父方の祖父母が隠居している。


「お祖父じい様、お祖母ばあ様、お久しぶりです」


 急な来訪にも関わらず、彼らはいたく歓迎してくれた。こちらの世界の平均寿命は元の世界よりも短いので、もっと頻繁に来るべきだったかもしれない。僕がループを自覚し始めたのが学園の高等部二年生。彼らと最後に会ったのは高等部に上がる前だったので、僕からすればもう何十年も会っていないことになる。だけどこうして久しぶりに顔を見ると、ああ僕ってアレクシなんだなって再確認する。やっぱりルーツって大事かもしれない。特にループを繰り返し、自分が何者なのかが危うくなった今なら尚更だ。


 僕は両親から託された手土産を渡し、しばらくお茶に付き合う。今日来たのはお墓参りのためだけど、顔だけ見せて「じゃあ」というわけには行かない。


「学業に精を出しとるそうじゃないか、アレクシ」


「僕ももうすぐ卒業ですし、そろそろ本腰を入れようと思いまして」


 精を出すもなにも、僕はもう学園生活を何度も繰り返している。下手に首席なんか取ったらラクール先生の目に留まってドボンなので(経験済み)、常に手を抜いて二番手三番手を狙っているんだけど、手を抜く方が難しい。


「それよりアレクシちゃん。良い縁談があるのよ。私の友達の孫なんだけど」


「ヒッ!お、お祖母様、早すぎます!」


「あら、アレクシちゃんも16でしょう。何も早くないわよう」


 そうだった。祖母がお見合いおばさんだったのをすっかり忘れてた。だから僕は祖父母を避けてきたわけで…


「それより今日は、お墓参りがしたいと!」


 僕は彼女が釣書の束を持って来る前に、慌てて祖父母宅を出た。危ない危ない。これまで三年間のループの間、彼らは健康でつつがなくやっていたはずだ。今度来る時は、ループが解消してからでいいだろう。




 墓地は教会の裏、森の手前にある。お墓参りをする時には、教会に寄付をしてお祈りをしてから出向くのが一般的だ。僕は受付で寄付を支払って簡単にお祈りを済ませた後、墓地へと足を運んだ。


 こっちのお墓は簡素だ。名前を刻んだ石がごろごろと転がっているが、古いものは苔むしてしまって誰のものかも分からない。うちは祖父母が健在なので、曽祖父母のお墓までは把握しているが、それ以前のものや他の親類のものとなるとさっぱりだ。しかしそれはどうでもいい。一気にやってしまおう。


「エリアアンチカース」


 別に死者の全てが呪われているわけではないと思うんだけど、あっちのお墓でとても喜ばれたので、こっちでもやってみる。やはりゴオオッと強い風が吹いたかと思うと、心なしかお墓全体の空気が軽くなった気がする。その夜、僕はあちらと同じように、無数の人に囲まれて「ありがとう」とお礼を言われた。僕は私利私欲のために魔道具を使っただけに過ぎないんだけど、ちょっとでもお墓に眠る人が喜んでくれたなら、これはこれで良いことをしたのかもしれない。


 そして変わったことといえばもう一つ。 




===


「祖霊の守護」を獲得しました


===




 僕のステータスに、新たな称号が加わった。向こうの「祖霊の加護」とは別に、「守護」。称号は分かれてるみたいだ。こうなると、あっちでアンチカースをブッパし続けたことがループ解消に効果があるのか、余計に分からなくなってしまう。しかし今は、これ以外にループ解消の手がかりがないんだ。とりあえず、アンチカース作戦を試してみなければ。


 翌日、僕は母方の故郷へと足を運んだ。こちらは隣領プレオベールに近い山間やまあいの町。実家は染色業を営んでいるが、家族経営で賑やかしい。父方以上に足止めを食いそうなのは明白だ。僕はこっそりと教会を訪れ、寄付とお祈り、アンチカースを行った。




 経過は順調だ。新学期が始まり、授業の合間にペン型魔道具を量産しながら、僕はあちこちの墓地に出向いてアンチカースを行った。途中からは「鎮魂レクイエム」や「神の祝福ディバインブレッシング」も試してみたけど、「神の祝福ディバインブレッシング」はエフェクトが派手過ぎてちょっとした騒ぎになり、封印することとなった。お墓の人たちは喜んだみたいだけど。MP(まりょく)消費量からしても、「鎮魂レクイエム」の方がコスパがいいみたいだ。


 並行して、魔石の収集も怠らない。魔石はスライムダンジョンでさらえば簡単に手に入るんだけど、スライム未満の魔石を濃縮するよりも、もっと魔素の濃い上質な魔石を集めた方が時短になる。そして魔石のドロップが多いのが、光属性ダンジョンと闇属性ダンジョンだ。


 モンスターのドロップ品は、そのモンスターの特徴に合ったものが多い。鳥なら羽根、竜なら鱗、獣なら牙や毛皮。戦士系なら剣や鎧、魔術師系なら杖やローブなど。だけど光属性ダンジョンの聖霊たち、闇属性ダンジョンのゴーストやレイスなどは実体を持たない。そしてそういうモンスターは、純粋なエネルギー体、つまり魔石をドロップするというわけだ。


 スライムダンジョンの魔石、つまりスライム未満の核は無属性。これはどんな属性の魔道具とも馴染み、スキルの発動を邪魔しないのが強みだ。一方、光属性モンスターの魔石は光属性、闇属性モンスターの魔石は闇属性。光と闇は相剋そうこく関係にあり、お互いに効力を阻害し合って相性が悪い。しかし、魔石を濃縮する際に混ぜなければいいだけの話で、逆に光属性スキルの魔道具には光属性の魔石を、闇属性スキルの魔道具には闇属性の魔石を使うと、効果が倍加する。今の僕に必要なのは、光属性の界渡り、アンチカースを含む回復スキル全般、そして鎮魂レクイエム。それから闇属性の転移に鎮魂レクイエムだ。


 魔道具作り、魔石収集、濃縮。そしてついでにお墓参り。僕の新プロジェクトは順調に進んでいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ゲームなら少ない選択肢から選んだルートをチェック出来ますけど、例えば靴を履くとき右足からか左足からかでさえ選択肢に加えられてしまうのなら、本当に天文学的可能性を試さないといけないんですね…
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