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【完結】ループモブ〜ループに巻き込まれたモブの異世界漫遊記  作者: 明和里苳
1周目

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第11話 護衛クエスト(2)

今回も、読んでくださってありがとうございます。

 ディオンたちが優れていたのは、ビジュアルだけではなかった。休憩を挟みつつ、朝から歩き通しで、汗ひとつかいてない。それは魔術師のガブリエルも同じだ。特に剣士のディオンや他の前衛職たちは、重いフルプレートを着たまま難なく行軍をこなしている。冒険者は体力勝負だ。


 しかし、疲れた体を休めてなんていられない。僕らはこれから簡単に食事を済ませ、交代で見張りをしなければならない。特に僕は一番の下っ端だ。率先して料理を手伝う。まあ、料理と言っても、お湯を沸かして野菜クズと干し肉をスープにするくらいのものだけど。僕は幸い土属性で、ロックウォールのスキルを持っている。まだ戦闘では役に立たないけど、かまどを作るくらいなら、レベル1の土壁マッドウォールで十分だ。




「疲れたろ、アレクシ。よく頑張ったな」


 隊商のリーダー、ハイモさんが声を掛けてくれる。僕は隊商の人たちと食事を摂った。本来はこういう時、依頼主と冒険者は、別で食事を摂るものだ。だけど彼がわざわざ声を掛けてくれたのは、僕が冒険者として同業に舐められないように気遣ってくれたから。そして、他の商人に顔繋ぎして、今後護衛依頼をやりやすくするため。それから、


「君との関係を良くしておけば、君のご実家との取引も円滑になるだろ?」


 だそうだ。初めての護衛クエストが、ハイモさんの隊商で良かった。


 隊商の皆さんからは、有益な情報を聞かせてもらった。今年、南部の穀倉地帯が不作で、穀物の相場が上がり、代替作物の需要が高まっているんだとか。しかし来年また例年通りの豊作になると、穀物も代替作物も、途端に値崩れするだろう。毎回不作の度に、そういうことが起こる。だから値崩れした時に買い込んで、貯蔵したり加工したり。底値で買って高値で売る、どの世界でも商人のやることは同じだ。


 僕もそういったトレンドは、新聞で把握していたつもりだった。ちゃんとノートにも記録していたしね。だけど、実際商人の目線からこういった話を聞けるのは、僥倖だった。今回のループでは、商売や投機で稼ぐつもりはないが、次回以降、この情報がお金に換わるだろう。熱心に耳を傾ける僕に、彼らは「さすが大店おおだなアペールの坊ン」と肩を叩かれた。「兄貴の方は心配だが、弟がこれなら今後も安泰だな」とも。残念ながら、兄の素行の悪さは知れ渡っているようだ。




 その後は夜の見張り。今回は3度の野営を行うので、僕らは3パーティーで順繰りに見張りをすることになっている。初日の夜は、蒼鷹フォコンブルーと一緒に、夜半までを担当した。


「こうして土壁で囲われてるだけで、風除けにもなるし守りやすいよ」


 気遣いイケメンのディオンが評価してくれた。嬉しい。


「それにしてもよ、ピルバグ…おっと、アレクシがそこそこ戦えるとは思ってなかったぜ」


「今流行りの詠唱破棄。アンタ、なかなかやるじゃない」


 エドメとガブリエルが昼間の戦闘について言及する。幸い僕たちは、盗賊の襲撃には遭わなかったが、途中はぐれのゴブリンと、フォレストウルフとの交戦があった。いち早くエドメが見つけ、たまたま近くにいた僕が石礫ストーンバレットで追い払ったのだった。


「僕は本当、アレだけですから…」


「土属性のスキルがあんなに役立つとは思いませんでしたよ。おかげで、ヒーラーの私の出番はありませんでした」


 そう褒められると悪い気はしない。石礫ストーンバレットをLv4まで上げて、ストーンブラストが使えたのが良かった。全体攻撃スキルが欲しかったんだよね。そんな僕の今のステータスは、こんな感じだ。




名前 アレクシ・アペール

種族 ヒューマン

称号 D級冒険者

レベル 27


HP 700

MP 700

POW 70

INT 70

AGI 60

DEX 70


属性 土


スキル

+石礫ストーンバレットLv4

+ランドスケイプLv1

+ロックウォールLv3

+槍術Lv3

+身体強化Lv2


E ハルバード

E 革鎧

E プレートバンダナ

E 革のブーツ

E マント


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 10




 獲物は短槍からハルバードへ。リーチは長く、突いてよし、切ってよし、引っ掛けてよし。だけど、中途半端な感は否めない。そもそも馬上で輝く武器だ。いつか馬が手に入ればいいんだけど。


 中途半端なのは武器だけではない。今のジョブも、槍使い(ランサー)なんだか土魔導士なんだか微妙なところだ。ステータスだって、結局どれを伸ばすか決められず、平均的に上げてしまっている。こういうキャラって、結局終盤使い物にならないよね。キャラ育成を失敗している自覚はある。




 寝ずの番は暇だ。眠ってしまわないように、努めておしゃべりをする。今回は特に僕が一緒なので、蒼鷹フォコンブルーの面々からは僕にたくさん質問を受けた。そして僕もこれ幸いに、今後の進路についてアドバイスをもらった。


「土属性の冒険者自体が珍しいからね。ストーンブラストなんて初めて見たよ」


「そうなんですか?」


「この壁もいい感じよね。いっそもっと丈夫なのでガッツリ囲めれば、見張りなんて必要ないのに」


「それじゃ上からの敵なんて凌げねェぜ」


「天井があれば、雨風も凌げるでしょうね」


「そういえば、土魔法で一瞬で家を建てられるスキルがあるって、おとぎ話で読んだことがあるけど」


「ありますよ、そういうスキル」


「「「えっ」」」


 ここでみんな、僕に釘付けになった。そしてそう言いながら、僕もハッとした。ロックウォールのスキルはレベルを上げて行くと、土壁が岩に、そしてゆくゆくはトーチカや砦が建てられるようになる。


 そうだ。土魔法といえば、どこでも家が建てられるスキル。異世界モノでは定番じゃないか。どうして僕は、今までこれを伸ばそうとしなかったのだろう。いや、レベルを上げるためには魔物を倒す力が必要で、槍術や石礫ストーンバレットのスキルを上げて来たのも、無駄じゃなかったんだけど。


「ちょっ、家が建てられるならそう言いなさいよ!」


「あ、えっと、僕ではまだレベ…修行が足りなくて」


 レベルって言っても通じないよね。


「もしそれが本当なら、旅が快適になるという範疇の話ではありませんね」


「君、各国の豪商どころか王侯貴族と専属契約が結べるかも知れないぞ」


「おう、建てられるようになったらオレらのパーティーに入んねェか?!」


 彼らの視線が俄然熱くなってきた。僕もワクワクする。しかし、スキルポイントは最初に取得する時に10、1から2に上げる時に20と消費して、現在のレベル3からレベル5のトーチカまで90、最低でも9レベル上げなければならない。当然、レベルは上がれば上がるほど上がり辛くなっていくので、この分だとどのくらいで建てられるようになるのか予測不可能だ。修行には時間がかかりそうだと話すと、その場は少し落ち着いた。しかし、僕の当面の目標は決まった。


 土属性スキルで家を建てられる男に、僕はなるッ!




 その後、護衛クエストはつつがなく終了し、僕らは隣領の中核都市で無事解散した。ハイモさんや隊商の皆さん、そして蒼鷹フォコンブルーと他の冒険者との挨拶を済ませ、僕はその足で近くの中級ダンジョンへ向かった。ソロでも修行をしやすいと、ディオンに教えてもらった場所だ。


 僕は領都にも帰らず、C級に上がるための試験も受けず、ここでひたすら魔物と戦った。全体が浅瀬になっており、水棲モンスターが跋扈する不人気ダンジョンなのだが、ロックウォールで足場を作り、ハルバードと石礫ストーンバレットで遠距離から敵を狙える僕にとっては絶好の狩場だった。しばらくして、同じく飛行モンスターばかりで不人気のダンジョンの噂を聞きつけると、狩場をそちらに移した。飛行モンスターの多くは風属性、ロックブラストが当たればスポーン即キルだ。


 そうしてレベルを上げに上げ、やがてトーチカが建てられるようになると、僕の経験値稼ぎ熱は冷めるどころか、いよいよ過熱した。トーチカ、タワーフォートと、スキルレベルが上がれば上がるほど、建てられる建造物のグレードが上がり、居住性も格段に高まる。そんなの、上げるしかないじゃないか。


 ひたすらダンジョンに籠もっては、たまに冒険者ギルドにふらりと顔を出し、倒し辛い飛行モンスターの素材を大量に売り捌く。いつしか僕には、ウィングキラーのあだ名が付いていた。実家とは手紙でやりとりしていたが、最初は帰って来いと矢のような催促だったのに、半年もすると諦めたような様子。兄は僕が遠くの街で冒険者業に精を出しているのを、してやったりとほくそ笑んでいるだろう。しかしもはやそんなことはどうでもいい。僕は建てるんだ、もっと丈夫な砦を!


 そうして久しぶりに街の宿屋に泊まり、良い夢を見ていた僕だったが。


 忘れていた、翌日が10月1日だったことを。

今回も、読んでくださってありがとうございます。

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