第107話 7周目の始まり
さっきまで、マロールの学園で授業を受けていた。このパターンは初めてだ。いきなりの巻き戻しに面食らう。
それにしても、ヴァイオレット嬢はそうまでして、フルメンバー8人のハーレムルートに進みたかったのか。まあ、リュカ様は分かるよ。顔立ちも整っているし、成長すれば相当なイケメンになるだろう。性格も可愛らしいしな。だけどもう一人は、多分僕だ。自分で言うのもなんだけど、平凡オブ平凡、キングオブモブ。こんなのがハーレムに加わったって、嬉しくもなんともないんじゃないかな。しかも、今でこそ何回もループを繰り返してチートをいっぱい持ってるけど、最初は単なる小金持ちのボンボンだった。そもそも、アーカートに留学とか考えたこともなかったんだけど。アレかな、ヴィヴィちゃんが言ってた新キャラ実装。だから僕は、ループを自覚し始めたんだろうか。
まあ、考えていても仕方ない。ポジティブに捉えよう。ハーレムルートに巻き込まれるのも御免だし、ハーレムルートを狙う女の子も御免だ。リュカ様を差し出す気もない。次は、他の攻略対象で満足してくれるプレイヤーであることを願うばかり。幸い、悪役令嬢たちはみんな強く逞しい。婚約者がピンク頭に寝取られても、それ以上に活躍出来る力を付けてあげよう。
僕は気持ちを切り替えて、ベッドから起き出した。
10月1日といえば、もうやる事は決まっている。入学式を済ませて、その足でダンジョンに出かけて。ひたすら核を浚って潰し、浚って潰してレベル3。しかし今回は、ここからが違う。
前回は、ネズミ相手に体術で挑んだ。今回は斥候術だ。斥候術は、正確に言えば攻撃スキルじゃないんだけど、前ループでものすごく活躍したのだ。Lv1の奇襲で気配を消して先制し、Lv2の会心でクリティカル。今回は、実家の倉庫からザルやとんかちと一緒に錆びた鉈を持ってきたが、これで十分。無事にレベル5を達成して、インベントリを解放した。
10月2日水曜日からは、ひたすら内職。魔石を濃縮し、不器用ながらも魔道具を作り、鑑定をゲット。そして金曜日の夜から早々に外泊届を出し、ダンジョンへ向かう。
今ループの方針として、まず兄とブリュノをどうにかしない。思い返せば、初めてローズちゃんに介入したのが4周目。裏を返せば、それまでのループは3年間、彼女はマロールの歓楽街に君臨していたわけで、紛争も暴動も起きなかった。せいぜい兄がずっと入れ上げて、お金をいっぱい巻き上げられたくらい。もし、リシャール殿下やラクール先生が危惧するような、国防を揺るがすような事態が起こるようなら、ループが終わってから手伝えばいい。
それから、カバネル先生も放置だ。元々彼に肩入れしたのは、土属性スキルを手に入れようとしたことが発端だった。多少良心が咎めるが、彼とカロルさんがもだもだしているのは彼らの責任だ。こちらも、余裕があれば助力しよう。カミーユ先輩は、レベリングの途中で余った素材を付与すれば良し。
後はリュカ様だが、どうせ僕も暇さえあればレベリングするんだ。ついでに連れて行ってあげてもいいだろう。なんせ彼のお姉さんは悪役令嬢の一人だし、彼自身も隠しキャラだ。関わらないわけには行かない。
まあそれは、言い訳だけどね。彼にはちょっと情がある。何かしら癒やしがなければ、こんなループの繰り返しなんてやっていられない。
10月4日、金曜日。外泊届を出したその足で、獣の上級ダンジョンへ。ここは、飛翔があれば攻撃を受けない。注意が必要なのは、ファイアラットのみ。
僕が作ってきた魔道具は、飛翔と爆炎、砦。まずは入り口辺りに砦を建てて就寝。翌日、飛びながら一方的に雑魚を狩って、早々にレベル23・AGI100・DEX100をクリア。そこで改めて氷嵐の魔道具を追加作成して、ファイアラットのモンスターハウスへ。後は作業だ。ドアを開ける、氷嵐をブッ放す、閉じる。開ける、ブッパ、閉じる。いい加減にコインとドロップが貯まったら、収納して休憩だ。
こんな簡単なことなのに、このダンジョンは不人気だ。なぜなら、普通の冒険者は飛翔を使えない。飛翔は風属性スキルだけど、複数人を飛ばそうと思ったら結構なレベルが必要だ。風属性がソロで挑んだとして、風属性単体では攻撃手段に乏しい。飛翔のレベルを上げて、獣に強い火属性とペアで来たところで、ファイアラットのモンスターハウスに飛び込んでしまうと丸焦げだ。ファイアラットに火属性スキルは効かないし、奴らはこちらが飛んでいても火炎で攻撃してくる。まともに攻略しようとすると、文字通り上級ダンジョンなのだ。
2周目、「塔」に就職した時は地獄かと思ったが、あの時学んだ魔道具作りのノウハウが、今の僕を支えている。そして3周目のウルリカから学んだ付与術もだ。僕は休憩の間に砦に戻り、ファイアラットの尻尾にファイアラットの尻尾を付与。濃縮を繰り返し、上着を火鼠+Maxにした。これで火炎無効、防寒対策はばっちりだ。今後も何かとお世話になる。
10月6日、日曜日。前回はプレオベールに狩り場を移したが、今回はもうこのまま行ってしまおう。寮に戻り、翌日移動する手間が面倒臭い。今回はちゃんと食料も持って来たし、効率でカバーだ。倒して収納、倒して収納。結果、前回は日曜日終了時点でレベル61だったのが、73まで伸びた。
名前 アレクシ・アペール
種族 ヒューマン
称号 アペール商会令息
レベル 73
HP 1,000
MP 2,500
POW 100
INT 250
AGI 100
DEX 280
属性 土
スキル
+斥候術LvMax
(石礫)
(ランドスケイプ)
(ロックウォール)
(ゴーレム作成)
(剣術)
(槍術)
(弓術)
(体術)
(身体強化)
E 私服
E 火鼠の皮衣+Max
E 魔道具・飛翔
E 魔道具・爆炎
E 魔道具・氷嵐
ステータスポイント 残り 0
スキルポイント 残り 230
もう随分とレベルは上がりにくくなっているが、来週は超級にでも挑んで、早々にレベル100をクリアしてしまおう。そうすれば、前ループ敷設しまくった転移マーカーに、どこへでも転移出来る。
こうして、自分を鍛えるだけなら簡単なんだ。もうダンジョン周回も手慣れたもの、欲しいスキルは魔道具にすれば何でも使えるし、その気になれば付与アイテムを量産してガッチガチにドーピング出来る。しかし問題は、あの光属性の令嬢だ。ピンク頭ガチャが厳しい。これまで3人引いて、最初のヴィヴィちゃんが一番マシだったなんて。こんなしょっぱいガチャ、この世に存在していいのだろうか。
いや、めげている場合ではない。今度こそループの終わりを目指して邁進しよう。僕の戦いは、これからだ!