⭕ 人間の身勝手さ
マオ
「 本当だよ。
嘘吐くわけないだろ 」
オリバー・デグンス
「 じゃ…じゃあ、それなら──、怪物は何で人間を襲うんですか!! 」
マオ
「 そんなの、野蛮な人間から仲間や家族を衛る為に決まってるだろ。
人間が集落や村を作って暮らすように、怪物にだって勝手に足を踏み入れたらいけない領域や縄張りがあるんだ。
それが分からない無知な人間が、土足で怪物の領域や縄張りへ入って来て、我が物顔で怪物を狩るんだぞ。
怪物にだって、守るべき社会,生活,仲間,友人,家族が居るんだから、体を張って命を懸けて衛る為に、侵入者を排除するに決まってるだろ 」
オリバー・デグンス
「 …………………… 」
セロフィート
「 オリバさんの御自宅の敷地内に凶器を持ち完全武装をした盗賊団が無断で不法侵入をして来たら、オリバさんはどうします? 」
オリバー・デグンス
「 えっ?
急に何ですか??
どうって?? 」
セロフィート
「 潔く諦め、家族共々大人しく皆殺しにされます?
泣き寝入りをし、家族共々皆殺しにさます?
家族を見捨て、自分だけ逃げ延びます?
自分可愛さに家族と財産を差し出し、命乞いします?
かけがえのない大切な家族を守る為、盗賊団へ無謀な戦いを挑みます?
オリバさんは凶器を持ち完全武装した盗賊団を前にして何をします? 」
オリバー・デグンス
「 ………………オレは剣士ですから……戦います 」
セロフィート
「 オリバさんは素手です。
丸裸で丸腰の状態です。
それでも家族を安全に逃がす為、自らが盾となり囮となり、盗賊団へ勇猛果敢に立ち向かいます? 」
オリバー・デグンス
「 ちょ──、一寸待ってくださいよ、セロフィート師匠!
丸裸で丸腰で素手の状態なんですか!?
そんなの完全武装して凶器を持った盗賊団と対峙するなんて、狂気の沙汰ですよ!!
イカれてますよ!!
アホですよ!!
勝ち目が無いのに戦うなんて大馬鹿野郎ですよ!! 」
セロフィート
「 オリバさんは家族を守る為、逃がす為に盗賊団へ立ち向かいません? 」
オリバー・デグンス
「 …………出来ませんよ……そんな事は……。
殺されるの確定じゃないですか!! 」
セロフィート
「 仮にオリバさんが盗賊団に殺されても、大切な家族はオリバさんの尊い犠牲のお蔭で生き延びる事が出来ます。
それでもオリバさんは家族を逃がす為に戦いません? 」
オリバー・デグンス
「 当たり前でしょう!!
丸裸で丸腰で素手の僕が盗賊団に何が出来るって言うんですか?!
何でセロフィート師匠は、こんな意地悪な事を言って僕を困らせるんですかぁ!! 」
セロフィート
「 凶器を持ち、完全武装をしてオリバさんの敷地内へ無断で不法侵入をした盗賊団は冒険者パーティです。
丸裸で丸腰の素手のオリバさんは怪物のリーダーです。
オリバさん、怪物は本能で対峙した冒険者パーティに勝てない事を瞬時に理解します。
それでも侵入者から仲間や家族を守る為、逃る時間を稼ぐ為に、勝てないと分かっている無謀な戦いに挑むのです。
怪物も馬鹿ではなく、知能と恩に報いる心を持っています。
冒険者に倒された怪物が無惨にも解体され、人間に利用される事を怪物も知っています。
それでも怪物のリーダーは、仲間や家族の為に己を盾にし、犠牲にしてでも守る為、果敢に挑んで来ます。
人間が怪物の領域や縄張りに入らなければ、怪物も人間を襲う事はしません。
人間が住み処や餌場へ土足で踏み込み荒らして奪うような事をしなければ、怪物も獣も動物も人間へ危害を加えたりはしません。
人間こそが、自然の調和を乱し、自然の秩序を壊しているのです 」
オリバー・デグンス
「 ………………セロフィート師匠は怪物よりも人間が悪いって言ってるんですか?
人間こそが “ 悪 ” って言ってるんですか?! 」
セロフィート
「 おや?
オリバさんには、そのように聞こえました?
人間の正義が通用し、罷り通るのは人間社会の中でだけです。
人間側の正義は自然界では通用しません。
場合に依っては、人間の振るう正義が、秩序と調和を壊す暴力になる事を忘れてはいけません 」
マオ
「 簡単に言えばさ、人間は怪物を “ 悪だ ” って位置付けて、決め付けて見てるけど、怪物は “ 絶体悪じゃない ” って事だよ。
怪物を倒したら、捨て置くんじゃなくてさ、ちゃんと弔ってやらないといけないんだ。
それが命を奪った側の責務だよ。
感謝の気持ちを抱きながら、なるべく捨てる部分が無いように丁寧に解体してさ、無駄にならないように敬意を持って役立ててあげるんだよ。
それが供養にもなるし、弔いにもなるんだ 」
オリバー・デグンス
「 ……………… 」
マオ
「 全部引っ括めた上で、冒険者として生計を立てるもんなんだ。
オリバもさ、自分の家族を持てたら分かるよ。
オリバの人生は未々これからだから、色んな事を見て,知って,聞いて──、知識を増やして視野を広げると良いよ 」
オリバー・デグンス
「 ………………師匠……それを知ってる冒険者は何れぐらい居るんですか? 」
マオ
「 う~~ん……、居ないんじゃないのかな。
冒険者達に話して聞かせた事もあるけど、全く相手にされなかったしなぁ。
そりゃそうだよな、怪物は脅威の存在だし、絶体悪だと信じて今迄ずっと怪物を狩って来たのに、立場が違うだけで “ 人間と同じなんだよ~~ ” って言われてもなぁ?
聞き入れてもらえる筈がないよな。
欲に駆られて悪戯に怪物の領域や縄張りには “ 入るの止めとけ ” って忠告したのにさ、レアアイテム欲しさにセロの忠告を無視してゴブルコンの巣へ入って行った救いようのない馬鹿な冒険者パーティが居てだな、ゴブルコンの種馬にされてたよ…。
あの時の冒険者パーティの情けない状態って言ったら──、笑ったよな~~~~!! 」
セロフィート
「 そうですね。
結果的に彼等はゴブルコンの増殖を手伝う形になりました。
大量に増殖したゴブルコンの討伐は儲かりましたね♪ 」
マオ
「 ゴブルコンの巣穴から救出した時には、確り搾り取られててカラカラに干からびてたもんな~~ 」
セロフィート
「 彼等はゴブルコンとの行為症に悩まされ冒険者を続けられなくなりましたね。
どうなりました? 」
マオ
「 オレは知らないよ。
風の噂だと廃人化してるとか??
──何はともあれ、冒険者として生きてくつもりなら、オリバも注意しろよ。
欲に目が眩み過ぎて正常な判断が出来なくなる事のないようにな 」
オリバー・デグンス
「 ……………………はい…… 」
セロフィート
「 そろそろ、スライムの生息地へ入ります 」
マオ
「 セロ、オレもスライムが欲しいよ。
オレもスライムの使い魔が欲しい! 」
セロフィート
「 はぁ?
マオにはワタシが居ます。
使い魔は必要ないです 」
マオ
「 はい…… 」
満面の笑顔でセロに完全否定された。
オレだって癒し──じゃなくて、スライムと戯れたいんだよ!!
オリバーが羨ましいなぁ…。