93話「圧倒的降臨! 大災厄の円環王マリシャス!!」
獰猛に燃え盛る巨大な火柱が轟々と天を昇っているモニターを見て、漆黒の魔女アリエルとヤミロは涼しい顔をしていた。
その背後で凄まじい濃密度の邪悪なフォースが集まって、赤紫の集合体から巨大な両目が開けられた。
ただ存在感を現しただけで、全てが震えていく。ズズン!
《余は平和神マリシャスなり!! 我が望みの器はできておるか?》
アリエルは細い目で振り向く。薄ら笑みを浮かべ「いらっしゃぁ~い」と一言。
カツカツと回り込むように歩いていくと、その先の真っ暗だった広場でライトアップがパッと付く。
周囲の木々を虹色のように照らし、中心で生える黄金の世界樹がキラキラと聳えていた。途方もなく巨大で黄金の幹に黄金の葉っぱに、そして艶っぽく反射光で煌く黄金の果実。
《おお……!》
「もちろぉん、貴方様が満足できるよぅ~な至高の器になるでしょぉ~!」
恭しくアリエルはお辞儀。
《その美しい樹は一体……!?》
「魔界オンラインで集めぇてきたエネルギーを糧に栽培した『真理の世界樹』よぉ~!」
《ふむ……、して器はどこに?》
ここは『魔界オンライン』を運営する中枢フロアの一つ。
魔界オンラインで繰り広げられた悪意や憎悪がまみれた闘争による悪のエネルギーを濃密度に集め、それで黄金の世界樹を栽培していた。
前にヤマミに勘繰られるも、はぐらかして答えなかった理由がそこにある。
「お望みの器ぁ~、ご覧にいれなさぁ~い!」
アリエルが指を鳴らすと、黄金の世界樹がビキベキと真っ二つに裂けた。
その中から閃光が放射状に溢れて、金髪ロングの全裸美青年の人間が目を瞑った状態で現れ、逆光となる後光がより神々しさを演出していた。
すると全ての黄金の果実が枝から離れて、肉体の方へ収束されていった。
神々しさが潤うほど神秘的なフォースを纏い、見る者を魅惑させる輝きを放つ。
《おおっ……! 確かに……至高の肉体と感じ取れるわ……!!》
「マリシャス様の為に初回サービスとしてぇ、貴方様の概念時の能力をそのまま奮えるよう調整しておりまぁ~す」
《ほう……、それでは余は肉体を持ちながら、概念だった頃の巨大な力をそのまま奮えるのだな……?》
「もっちろん~! 望みのものはぁ~ちゃんと創り込みますのでぇ~」
ペコリと丁重にお辞儀するアリエル。
気分を良くしたマリシャスは《気に入った!》と目を笑いの形に歪ませる。
「あ、そうそぅ~。注意点がありますぅ~」
《何だ? 申してみよ》
「肉体に入ったら二度と概念化できないわよぉ~? そんな仕様で大丈夫か?」
《大丈夫だ。問題ない》
自信あり気でマリシャスは答えた。
《こちらで調整は可能だ。有限とは言え余に合う肉体さえ手に入れれば、不老不死、転生……、我が力をもってすれば全てが叶う。むしろ概念のままだと、何も触れられず間接的にしか干渉ができないのが不満だったのだからな……》
「それでは心配いらないわねぇ~」
《うむ》
集合していた邪悪なフォースは徐々に肉体の方へシュワシュワ吸い込まれていく。
概念の存在でしかなかった“意思”は特殊な拵えの肉体によって心となり魂となり、次に複数重ねた精神体を創り出し包み込み、それによって物質の肉体と接続していく。脳と神経を繋ぎ血肉が脈動し、生命の鼓動を始めていった。
その“生きている”という実感にマリシャスは喜びに満ちる。
カッと閃光が溢れて、全てを光で覆ってしまう。その眩しさにヤミロは思わず腕で顔を庇う。
アリエルは相変わらず不敵な笑みのまま。
マリシャスの両目がカッと開かれ、真紅の瞳があらわになる。
黄金の世界樹をバックに、闘衣を纏って威風堂々と仁王立ち!
煌くような金髪ロングがたゆたう!
「全ての世界と生命体を統べる『真・平和神マリシャス』降臨!!」
立ってるだけなのに、圧倒的な黄金のフォースが溢れている。ズズズ……!
ヤミロは周囲が軋むような威圧に気圧され、汗が頬を伝う。
あやふやな存在である概念だったものが肉体を得る事で、ハッキリ具現化された威圧があらわになったのだ。この世の誰も届き得ないほどの究極パワーが内包されている事だろう。
「ふふっ! これが肉体というものか……。素晴らしい。こうやって動くのは慣れないが、まぁ直慣れる」
手をにぎにぎしながら、冷徹な笑みをこぼす。
そしてアリエルの方へ掌を向ける。その緊迫感でヤミロはつい身構える。
「もはや、これでお前は用済みとなるワケだが……」
それでもアリエルは目を細めつつも不敵な笑みを崩さない。
その気になれば消す事も容易いとマリシャスは不敵に笑んでいる。不穏な空気が漂う最中、マリシャスは自ら手を下げる。
「ここまで尽くしてくれた忠誠心を無下にするなど無粋か。まぁ良い。これから世界の全てを地獄と化して、その絶望を食らう事を愉しみとしよう……。お前たちはその証人となるのだ。そしてゆくゆくは余が創世神となって全てを統べる存在となるのを目の辺りにするがいい!」
「その心遣い光栄ですわぁ……。貴方様がより素晴らしい人生を歩めるか、私も心が躍りますわぁ~」
アリエルは本当に恍惚と艶かしく笑う。
マリシャスは「人生ではない、“神生”なのだ」としたり顔で返す。
「ふはははははははははははははははははははははっ!!」
「あはははははははははははははははははははははっ!!」
二人の狂気じみた哄笑に、ヤミロは「とんでもねぇ事になったぜ……」とドギマギ。
マリシャスは指を鳴らすと、豪勢な装飾を拵えた王座が具現化された。そこへ腰掛ける。
しかも手元にグラスが具現化されて赤いワインがどこからか注がれてきた。それを口にしてグイッと飲み干す。
「……さてロープスレイ星の終焉を見届けるとしようか」
唯我独尊とばかりに、モニターへしたり顔を向ける。
ついに上層地殻ヘヴンプレートを灼熱地獄に変え、宇宙まで届く火柱の中から大厄災の不死鳥デマイズが抜け出していく。身を翻して、その光景を眺める。
《我ながら美しい光景であるぞ……! 灼熱の業火こそ、全てを凌駕する破壊の蹂躙と美麗の芸術よ!》
しかし! その灼熱が一部弾け飛ぶ!!
不死鳥の胸元の顔が驚きに変わっていく。
《むっ! あれは……!》
青白く灯る球状の障壁が窺える。
それはウロコのようにパラパラと剥がれていって、中から巨体の影が聳えていく!
美しい女体のラインに沿った白銀の鎧を纏い、額にティアラを載せた絶世の美女。流れるような灰色の長い髪が風に揺れる。瞑っていた両目がゆっくり開く。
背中から八つの白い翼が優雅に羽ばたく。誰もが心を奪われるような美貌。
なんと『武勇の女神アサペンドラ』を模した巨大な石像が現れた!
しかもゴーレムのように一歩一歩ズシンズシン踏みしめて動き出す!
それを見たマリシャスは「ほう!」と感嘆する。
「八大王国の水晶魔法炉を核として、勇者の魂波動により起動せし王城の巨神像ねぇ~!」
アリエルはワインの瓶を手に、マリシャスのグラスへ注いでいく。
「余興の前座としては中々面白い」
「のんびりしてるわねぇ~?」
「フッ! 余の“神生”は永久だ。これからこの身で味わうであろう永遠に続く娯楽の始まりだ。急く必要はない」
再びワインを啜る。それをアリエルは細目で見る。
「下界を生きる者の人生も悪くないと思うわよぉ~? 限られた時間の中でぇ懸命に生きるってのも尊いわぁ~」
「それを踏み躙るという意味では確かに尊い物ではあるな……」
「唯我独尊、最強の己が独り歩み続ける永遠の“神生”は逆に寂しいかもねぇ~?」
「面白い事を言う魔女だ。それはお前の体験談か?」
アリエルは首を振る。
「あの忌々しいウニ魔女がいるからねぇ~」
「……ウニ魔女クッキーか。まぁ余が存在ごと消滅してくれよう。永遠に生きるは唯一無二の新生創世神たるこの余が一人いればいいのだ」
「そぉ~?」
薄ら笑みを浮かべるアリエルは見下ろす。
あくまでマリシャスは己の事しか関心がない。それでも敢えてアリエルは奉仕を続けようとする。
「そぉんな事言わないでよぉ~! 後でビッグなプレゼントを用意しているんだからぁ~!」
「それはどんなのだ?」
「……ひ・み・つよぉ~! ロープスレイ星や幻獣界関連全てが終わった時にねぇ~! きっと気に入ってもらえるわよぉ~」
くすくすと艶かしく笑うアリエル。悪女っぽい妖しさを醸し出す。
マリシャスは少し怪訝な目線をよこしたが「まぁ良い」と笑む。
どうせ今にデマイズがロープスレイを灼熱地獄に変えてしまうだろう! もはや誰も抗えぬ運命よ!
故に二つ融合させるこの世界は我が手中に収めたも同然!
それを皮切りとして、次々と異世界を融合させて統一大世界を創り出した後に余が支配して、創世界へ殴り込んで創世神の座を奪う!
その時こそ、唯一神としての勝利と感無量するだろう!!
「ふははははははっ!! 俄然愉しみになってきたわ!」
「それは何よりだわぁ……」
大笑いするマリシャスにアリエルは丁重にお辞儀する。
ヤミロは不安そうに「そんなんでいいのか?」と後頭部に汗を垂らす。
諸悪の根源に最強の肉体を差し上げた挙句、ヤバい思想でもって創世神に成り上がろうとするヤツの手助けすらしているのだ。
それに、マリシャスの器となった肉体には特段細工も何もない。
いざとなれば肉体を爆破して殺せるとか、機能停止させるとか、そういう緊急処置すらしていない。野放し状態だ。
アリエルは平然としているらしいが、いずれヤツは牙を剥くだろう。
マリシャス自身が唯一神って言ったからに、自分以外の神の存在を消滅させようとするのは自明の理。それが早いか遅いか……。
そうなった時の保険すらかけていない。
「ヤベェ事になっちまった……。どうしてくれんだぜ…………」
空間転移してバックれようかなと脳裏をよぎるヤミロだった……。
あとがき雑談w
ついに起動した王城の巨神像は武勇の女神をそっくり模しているのだ!
アサペンドラ「見て見て!! あのカッコよくて凛々しい私の像!!」
ベィエール「恥ずかしげもなく自画自賛を……(ジト目)」
アサペンドラ「なによぅ! 今世代人類初代勇者として活躍してたんだからっ!」
ベィエール「確かに勇者としての戦闘力は一品級だけど、普段はヘタレでしょう」
アサペンドラ「そんな事ないもん!」プンプン!
ベィエールが不意にアサペンドラの頭をナデナデ……。次第にふにゃふにゃしていくアサペンドラ。
ふへへ、と顔を緩ませてて幸せそうだ……。
はたして王城の巨神像はどのような力を発揮するか、お楽しみにっ!
次話『王城の巨神像が大厄災の不死鳥をバッサリ!? 圧倒的な戦闘力!』




