83話「最期まで戦い抜く矜持! それが勇者!」
ロープスレイ星の中層地殻ガイアプレートは、極微の地鳴りが続いていた。
北側の浮遊大陸は下層地殻ヘルズプレートほど極寒ではないものの、それなりに寒冷地だ。大部分は雪に覆われている。
それでも四季は短いものの春と夏と秋があって、比較的まだ農業が可能な所だ。
真冬となると積雪は1メートルに及ぶほど。
そこでもあちこち村や町が点在していて、中心となる王国と交通している。
氷のアイスバーレ王国。
中層地殻を二分している二つの帝国の支配権が及ばぬ独立した大陸の国。
雪が積もった白い風景での道は、無人による静寂を保っていた。
既に民衆は幻獣界へ避難しているからだ。
とある人たちが、残った人がいないか城下町を回っていた。
「いつものより雲が多くて地平線が見えぬ状態……。こんなのは初めてだ。」
遠景を見渡して呟くは“氷河の国勇士”ラルゴ。勇者の一人。
初老で水色のツーブロック髪に鼻ヒゲ、冷静そうな目。暖かい毛皮を身に包み、ふっくらとした毛布のような薄茶のマント。
仲間である中年の僧侶、槍士、魔道士が一緒に歩いていた。
「……下の地殻から大量の水分が蒸発しているようにも思えますな」
「ラティオが言うなら間違いないな」
“烈火の熱々僧”ラティオ。
中年の僧侶。厳格そうな顔つきでベリショの赤髪。モミアゲから伸びて鼻と顎を包むヒゲが特徴的。厚手のコートには僧侶の紋章が入っている。
「そうだとすれば、ヘルズプレートで何か起こっているのは間違いない。余波か、振動が絶えない」
「そのようだな。エルグランド」
“針地獄の護兵”エルグランド。
長身の男。逆だった短めの黒髪には白髪が混じっている。気難しい顔。背中には手製の槍。軽装の鎧に上着のコートを被せた衣装。
「さてさて『察知』広げてたけど、誰一人いませんわ」
「……セレナ。貴方の『察知』は約九〇〇メートルと人類史上最高の範囲。それでいないとすれば、安心だな」
「あいさ! で、やっぱり動かすのかい?」
“氷雪の女豹”セレナ。
サバサバした感じの中年の女魔法使い。肌の手入れが良い為か、ラルゴたちの中でも年下に見える。
体格が太めの大女。フチがフカフカの毛皮の黒いコート。小さなツリ目。赤い唇。紫髪のショートボブ。
そんなセレナへラルゴは頷く。
彼らは長らく冒険を繰り返し死線をくぐり抜けた歴戦の仲間……。
「ああ。多分できるはずだ……」
見回りを終えた彼らが向かうは、雪を被っている重厚な王城……。
橙色の厚い絨毯が敷かれた謁見の間。装飾が目立つ壁には剥製の鹿の頭が飾られている。煌びやかなシャンデリア。
王座で鎮座する王へラルゴたちは跪いていた。
「アイスバーレ王国を治める“氷淵君主”セダン王様! 折り入って頼みがございます!」
「ふむ! 申せ!」
初老で体格が大きく筋肉質である事は厚着であっても窺える。青いマントに青い宝石の王冠。荘厳とした顔付きで鼻ヒゲが左右跳ねている。
ラルゴは頼み事を述べ、セダン王はうむうむ頷く。
「……そういうのなら、断る理由はない」
セダン王は側近の宮廷魔道士に何かを命令。その魔道士は「直ちに伝達します!」と会釈した後、この広場から去っていた。
しばらくしてゴウンと王城が震えた。
「ワシの進言を聞き届けてくれて至極恐悦でございます」
「しかし初めてだな」
「はい」
ラルゴとセダン王は窓の方を見やる。窓から見える地表が少しずつ下がっていく。
そう、王城自体が浮遊をしているからだ。長らく数百年もの寒冷地に根付いていた城が空へと上昇している。
内蔵する巨大な魔法炉に蓄えられた膨大な魔法力によって、飛行する要塞と化したのだ。
「余が即位して数十年。王城自体が移動要塞だと代々聞かされていたが、正直眉唾物だった。しかし緊急を要する事態にあたって実際に動かされた時は驚かされた」
「ワシもです。まさかこんな巨大な物が浮くとは……!」
「年甲斐もなく興奮するわい!」
中層地殻ガイアプレートが下へ遠のく。王城はなおも上昇を続けて上空の雲海へ潜っていく。雲の中は薄暗く、不安を催しそうだ。
しばらくすると上下の雲海が窺える空洞に出て、稲光が柱のように迸っているのが見えた。
「……余以外の王族と民衆は既に避難済みだ。後は操縦している魔道士数十名と、守衛する騎士兵士数百名、そしてお主ら勇者たちだけが残ったが、後悔はないか?」
「あろうはずがない。昔からの付き合いだ。セダン王様、最期まで共にしましょう」
「ふふっ! こんな時に思い出すが、即位される前は威張り腐った生意気な王子として迷惑をかけておったな」
ラルゴたちも和やかに笑う。
「今は名君ではないか」
「それもこれもお主らのおかげよ。あの日、お主に殴られて目を覚まさせてくれて以来、見える世界が変わった。つまらぬ見栄を張って保身ばかり考えていた矮小な自分に気付けたのだ。感謝してもしきれぬ」
セレナはため息をついて「セクハラもありましたわね~」と横目。セダン王様はコホンと咳払い。
「……ラルゴ殿も今日まで長く戦い続けてきた。そろそろ休んで欲しいものだ」
「何を言うか。これまで散った仲間たちの想いを背負って最期まで突き進むまでだ」
「やはり、今も何十人もの命を背負っているか」
「ああ! 片時も忘れてございません」
今でこそラルゴ、ラティオ、エルグランド、セレナと四人パーティだが、これまで多くの仲間が死に、その度に入れ替わりながら突き進んできた経緯があった。
「私は死んでないけどねー」
「……そうだったな。ラルゴ殿と長らく付き添って来れたのは幼馴染のセレナのみだったな」
「ああ。そして相棒レクサスの事は昨日のように思い出せる」
セダンは目を瞑って「惜しい男を亡くしたものだ」と呟く。
かつて相棒だったレクサスという男は志半ばで戦死した。
ラルゴにとっては身を引き裂かれるような想いだった。冒険とは戦いとは死と隣り合わせ。頭で分かっていても割り切れなかった。
今でも、それは心の傷となってラルゴに残っていた……。
「いつものように減らず口を叩いていたレクサス……、今でも天国で元気にしているだろうか?」
「きっと「なにカッコつけてんだ! 逃げろバカ!」って怒ってると思うわー」
「……違いない!」フッ!
しんみりとするラルゴたち。
最後、星が消滅るからこそ思い返すものなのだろうか? 走馬灯なのだろうか?
忍び寄ってくる星の最期を本能的に悟って、これまでの思い出を思い返しているのだろうか?
雲の中から抜け出して、ようやく上層地殻の大陸が窺えるようになった。
更に上空は相変わらず暗雲に包まれてはいるが、中層地殻と比べれば明るく感じる。
「もう上層地殻ヘヴンプレートだ。さて、光のライトミア王国へ合流するんだったな」
「はい! 各個で待ち構えるより、統合して戦った方が勝率も上がるでしょう。恐らくセロスはそう提案したかったのでしょうな」
セダン王は「父レクロスに似て生真面目な息子だな」とかんらかんら笑う。
ラルゴも「全くです」と柔らかく笑う。
現役の勇者セロスの父であったレクロスもまた、生真面目で常に最善手を尽くそうと考えるが心情を汲んで黙る事もある。そして一人だけで危険な事を解決しようとさえする。
そういう事をラルゴは長年の付き合いで嫌というほど分かっていたからだ。
肝心な事を隠すレクロスを問いただそうとケンカした事も、また昨日の事のように思い出せる。
「残念だが勝手に共闘させてもらおう! 嫌とは言わせないからなッ!」
……勇者セロスが未来へ羽ばたけるように、とラルゴは意を決した。
そんな想いはセダン王を始め、この場にいる人たちは長い付き合い故、手に取るように察していた。
セレナは「揃いも揃ってバカばっかね」と呆れながら笑う。
────アイスバーレ王城はライトミア王国へ合流を果たした。
そんな様子を、勇者神殿にいるアサペンドラは儚げな顔で見下ろしていた。
「長年見てきたが、勇者はいつも責任感が強くて利かん坊だねぇ」
「はい」
だからこそ、勇者たちはむやみに逃げない。
例え敵わないと知っても、大切なモノを守る為に最期まで責任を持って戦い抜こうとする頑固な人種なのだから……。
あとがき雑談w
ラルゴ「来たぞー!」
セロス「ラルゴさん!? ってか城、飛んで来てなかった!?」
オルキガ王「……この国も浮けるかな?」
大昔の世界大戦による悲劇で、万が一に備えて建造された王城型移動要塞。
実は七大王国全部に施されている。
しかし長らく起動していない為に信じていないか気付いていない人も多く、現在ではアイスバーレ城のみが起動したのみ。
実はいざとなれば宇宙でのコロニーにもなるし、戦艦にもなるのだ。
魔法炉に蓄えられた魔法力で移動させる事ができるが、コントローラの魔法力だけで手動による移動も可能。
ただしナッセみたいに膨大なMPでないとミイラになっちゃうぞーw
セロス「これもろSFなのでは……?」
ラルゴ「機械仕掛けではなく、複雑な魔法陣による魔導仕掛けなのでハイファンタジーとしてはセーフじゃないか?」
次話『この調子で次の国の情勢も語るぞー!』




