82話「士気高揚する各国と勇者たち!」
白い雲が囲むようにたゆたう大空で浮く勇者神殿────……。
女神アサペンドラとそのお供である天使は、下界を眺めるように神殿の外を見下ろしていた。
「ベィエール……、セロスが言いそびれた提案はなんだったと思う?」
「は……?」
見下ろしたまま聞いてくるアサペンドラに、お供のベィエールは振り向いた。
「……大体想像はつくと思うよ」
「と言うと?」
「恐らく、一つの国を守る形で全員の勇者が力を合わせて戦うべきだ、と」
ベィエールも「そ、そうなのですか?」と戸惑う。
アサペンドラは息をついて「確証はないけどね」と首を振る。
「ただ、セロスの方も断られるのを前提に提案しようとしてたんじゃないかな? だからこそ私の話を聞いて何も言わず去ってしまった」
「何故……?」
「みんな自分の国が大事だからね。そんな勇者たちに自分の国を置いてもらって、セロス側の国だけを守ろうって言うようなもんだ。最善の手だろうが、心情を汲まぬ提案でもある」
ベィエールも「確かに……」と腑に落ちた。
もし勇者たちが力を合わせて戦えば、理論上凄まじい力を出せるだろう。もしかしたら厄災に太刀打ちできるかもしれない。
むしろ一人一人各国へ分散するより、戦力はアップするし、生き残る可能性も高くなる。
だが、恐らくできない。みんな守りたい自分の国がある。それを見捨ててまで効率の方を取る事は心情的にムリがあるだろう。
セロスが何も言わずに去っていったのも、その心情が窺える。
より暗雲が立ち込め、上層地殻ヘヴンプレートですら薄暗くなって冷えてしまいそうだ。
浮遊大陸を影で覆って暗くなった森の最中で、ちらほら赤く光る結晶群晶が不気味な気配を窺わせた。
なおもニョキニョキと異様に増殖し続けていた。
各国の勇者たちは、そんな不穏な状況に曇った顔を見せていた。
「……やけに暗いな」
王城のベランダでセロスは暗雲立ち込める薄暗い遠景を眺めていた。
「なぁ? 提案も言わずに帰ってきても良かったのか?」
「星が消滅ると聞いて、無下に提案などできない」
「……確かになぁ」
長い付き合いのファリアに、セロスは首を振って心情を察してもらった。
「このまま各個撃破されて、こっちも全滅してしまうかもしれない……」
セロスのやるせない発言に、戦士ファリアも賢者メーミも魔道士モリッカも緊張したまま息を呑む。するとオルキガ王もやってきて「こちらは準備万端じゃ」と告げ、セロスたちは頷く。
どことなく王城はヴヴヴヴ……と唸るような駆動音を立てている。
すると城壁の等間隔に並ぶ穴が空き、砲身が次々と顔を出していく。更に中心部の城壁には魔法陣が浮かび、主砲となる大きな砲身がゆっくりと伸びてくる。
「住民は幻獣界へ避難したから、国中に行き渡る魔法エネルギーを全て魔法炉に回収できた……。これで威力値三二〇万級の要塞じゃ!」
ライトミア王城は難攻不落の要塞になったのだ。
しかも強固な半透明バリアーが王城を覆っていく。ヴン!
勇者神殿からアサペンドラたちはそんな様子を眺めていた。
「おやおや、他の国も似たような軍備強化を図っているようだよ」
「ですね……」
水のブルークア王国も王城が変形して砲身をいくつも伸ばして迎撃準備は整っていた。
住民たちはシェルターへ避難されていた。しかし魔法力吸引の仕掛けがあって、住民は意識が混濁していって次々と倒れていった。
徐々に搾り取られてジワジワ痩せこけて息絶えていく。
「愚民の命をも束ねた威力値二四〇万の無敵要塞!! これならばいかなる災厄も粉砕できるわっ!」
強気にサギハン国王は「わははははは!!」と高らかに笑う。
住民の命など魔法炉がわりでしかないと見下しきっていた。側で立つウォタレンは歯軋りする。自分の親まで犠牲にしてしまっているのだ。
「さすがに住民の命までは……」
「何を言うか!? 無価値な有象無象の愚民などより、我が高貴なる王族と領地こそが最も価値があるのだ! 愚民の代わりなどいくらでも利く! それに人材が要るなら、また新しく奴隷でも呼び込めばいい!」
ウォタレンは自分でも碌な人間じゃないと自覚しているが、やはりサギハン国王の非道な本性に腹を据えかねる。衝動的に殴り飛ばしたくて手を握り締める。ギリ……!
しかし、それよりも来るであろう災厄を相手にしなければならないと思うと、意地でも我慢しなければならないと苦慮する。
「仰せのままに!」
「うむ! それでこそ我が誇れる勇者よ!」
上機嫌なサギハン国王。
しかしウォタレンを始め、他の将軍や兵士はやるせない顔で震えていた。
「ぐぐっ……!」
自分の家族を犠牲にしているようなものだ…………。
何よりも、サギハン国王がそのような非人道的な装置を誰にも知らせず、身勝手に使用してしまった裏切りが大きい。
家族あっての国と思っていた彼らは、自分たちと国王との思考の差異を目の当たりにしてしまっている。
それでさえ謀反に覆らないのは、これからくる災厄が怖いからだろう……。
アサペンドラは「後が怖いね」と皮肉に笑む。
浮かない顔のベィエールは人の醜い本性に辟易するしかなかった。
「生前でもそんなクズは腐るほどいたからねぇ……。後になっては魔族の大侵攻も致し方ないと思うよ。今も昔も、人間の悪意と欲は底知れないもんさ」
「ですね…………」
ベィエールも当時あった事を思い返す。
何度も裏切りにあったり、暗殺されかけたり、冤罪に貶められたり、罪をなすりつけられたり、魔族だけではなく人間との厄介な戦いもあった。
何が正しくて何が悪いか倫理的に悩まされてきた。
しかし最後までアサペンドラと共に人類の希望として戦い抜き、今があるのだ……。
「お疲れ様です……」「そちらこそ」
思い出すたびに掛け合う言葉……。過去色々あっただけに今後も繰り返すだろう。
緑のフォレスト王国は、巨大な世界樹を中心にした大きな国。
既に住民は幻獣界へ避難していて、戦う事を希望する兵士や騎士などが残っていた。
「精霊さま達も力を貸してくれるようだけど、果たして敵うか……」
勇者ププラトは少年ながらも、大人びた雰囲気で「うーん」と唸る。
すると世界樹がザワザワ枝を揺らし葉っぱが蠢き出し、幹が顔面に変化していって口がゴワゴワ上下する。
《あなたが残って戦うのなら、私も力を貸しましょう!》
「すまないね。大精霊ドリアさま……」
《謝る事ではありませんよ》
国を支える大精霊。世界樹の形をとって国を覆うように枝と葉っぱを広げている。
何百年も国と苦楽を共にしてきたのだ。
例え、勇者が逃げ出そうとも一向に構わない。むしろ幻獣界へ行って生き延びて欲しいとさえ思っていた。
《水臭いよ! あんたたちがその気なら、力を貸さないワケには行かないじゃないか!》
「ああ……! 月の魔女リルラーナさままで……!」
三日月を乗り物として降りてくる銀髪の魔女。ウサギの耳と尻尾が生えている人間という風貌の御獣族で、細身でおっとりしている。
勇者ププラトはなんだか勇気が湧いてくる気がした。
我が国を影から見守ってきた大精霊ドリア、月の魔女リルラーナといった重鎮がついに腰を上げたのだ。それぞれ威力値が二六〇万を超える大物。
滅多な事では手出ししなかったが、力を合わせればゆうに三〇〇万を超える。
それに多くの精霊たちも士気高揚としている。負ける気がしない!
「絶対に! この国は守りきってみせる────!!」
少年ながらも勇者としてププラトは戦意を昂ぶらせた!
「そういう人ばかりだと良いんだけどね……」
「はい! でも精霊たちに敬意を払える純粋な人間は少ないです」
「だねぇ……。人間だけじゃ世界は循環らないのさ。人間、精霊、妖精、魔族、竜族、御獣など多くの種族が揉み合ってこそ世界は循環る…………。その真理に感謝し敬意を払っている者は大変貴重さ」
アサペンドラは悲しげに笑む。
「……本当、生き延びて欲しいと思うわ」
あとがき雑談w
ウォタレン「サギハン国王さまの事を残虐ハンって思う事にする」
ウェイバーズ将軍「私は詐欺犯ですな」
兵士たち「「「「それ上手いw」」」」
サギハン「はっくしょん! フフフ、褒め称える噂をしているに違いない!」
次話『他の国の情勢は……?』




