70話「不思議な懐中時計で夜の散策だー!」
懐中時計をもらったぞ! オレにもヤマミにもクックさんにも!
「支給品でございます」
というのも、ドワーフが三人やって来て授けてくれたのだ。
身長が約一二〇センチメートルと低いが体格は筋肉質でガッシリしている。ツノの生えたカブトをかぶっていて、ヒゲモジャモジャで胸毛や腕など毛深い半裸を剥き出しに、簡素な腰巻きが唯一の衣服だ。
手先が器用な種族と聞いてたけど、直に関わるのは初めてかも……。
オレたちの為に制作してくれたらしい。
この懐中時計は機械仕掛けではない。時空の流れを感知する複雑な魔法陣によって時分秒それぞれの針が時計回りに周回して数字を指すようになっている。一見、機械仕掛けの懐中時計と変わらない。
しかし、実はこれには驚くべき仕掛けが施されているという。
「この表面世界こと幻獣界では昼夜の概念がない。故に人族の世界と同じ時間の流れを組み込んだ特別な魔導時計です」
「そう、これは身に付けていれば昼夜の概念が発生します」
「そうじゃとも! これでお主らもぐっすり眠れるであろう」
身に付けても、収納本に入れてても、自動で効果を発揮できるらしい。
その結果、現在の時刻が午後七時頃という事で、突然暗くなって部屋や通路の明かりが僅かに照らすのみとなった。
ちなみに明かりは懐中時計と連動するようになっているので、こちら側の夜に合わせて灯ってくれる仕掛けだぞ。
「あ、ありがとう……」
「礼にはお呼びますまい!」
「主らは幼いとはいえ妖精王さま」
「むしろ支給できて光栄でございます」
三人揃ってぺこりと会釈して、手を振りながら去っていった。
《久々の来訪者でガガちゃんもキメちゃんもオレンちゃんもウキウキしてるよーっ》
肩に乗っている素妖精は薄暗い中で神秘的に明かりを放っていた。
しかし三人のドワーフの名前も何気に聞いてしまったぞ……。
ってか懐かれちまったなぁ。
夜の最中、オレたちは神殿外殻の中を散策する事にしたぞ。
ちなみにジャオガさんは王座みたいなのに座して瞑想していた。オレたちと違ってなーんもない空っぽの部屋なのは驚いた。
まるで悟りを開いた仙人みてーで無駄なものがないって感じかなぞ?
「用事がないなら静かにさせてくれ」
要するに一人にしてくれって事だ。何か思うものがあるんだろうか?
再び瞑想に入ったので、仕方なく三人だけで散策する事にしたってワケ。瞑想だけで飽きないのかな?
僅か身長が五〇センチしかない小人が二人「やぁ」と手を振ってすれ違っていった。
彼らも原始人のように腰巻しか付けていない。
《ロープスレイ惑星最初の人類なんだよー! 数千億年前に隕石で絶滅したんだけど、幻獣界で道士として住んでいるんだよー》
「そ、そうなのか……」
《そーだよー!》
驚いた! まさか最古の人類と会うとは……!
《今度はあっちあっちー!》
翼のような腕が指さす先に、腕が翼になっている人間が神殿空洞で飛び回っているのが見えた。
空洞では年季の入った草木が生い茂るドンブリ型の浮遊物がたくさんあるが、今は夜なので暗くて見えない部分もある。
翼を持つ人間も腰に同様の懐中時計を身に付けている。
《十三億年前に大きな戦争で壊滅した人類だよー! 夜行性種だから、こんな夜でも飛び回ってるね。現在ではハーピィ族として少数生き残ってるんだ。ここでは道士として暮らしているハーピィ族って事だね》
「人間界にもいるんだ?」
《そーだよー! 上層地殻ヘヴンプレートのどっか辺境の所に隠れ住んでるんだー》
ガチのハーピィを見れるとは思わなかったぞ。
しかし鳥の足を思わせる手足と剥き出しの顔以外はモフモフなんだなぁ。女性らしく胸が膨らんでいるが毛で覆われている。
「胸見ないで!」
ヤマミのチョップを頭上に喰らう。
全裸ではあるが、毛で覆われているから色気も何もないのになぁ……。
クックさんにまでニヤニヤして「えっちだー!」と言われる始末。むー解せぬ!
……とはいえ、ここは絶滅種などがたくさん住んでいて幻獣界っぽさが引き立つ。
目の前で、ちっちゃい蟻が集団で並んで二足歩行でトコトコ横切っている。
虹色を思わせる派手な色合いのフクロウが外殻の通路へ飛んできて目の前を通り過ぎてきて驚かされた。炎が鳥になったかのような不死鳥っぽいのが群れをなして、神殿空洞を飛び交っている。
恐竜を人間にしたような生き物が水場で静かに半身浸っているのもいる。
「まるで生きた古代生物博物館みてーだ……!」
「そうね。これら見た事のない動植物だわ」
「うわおー! こっだいこっだーい!!」
異世界で数千億もの長い歴史で存在していたという生き物が在りし日の姿で、幻獣界で静かに暮らしているのだ。
もしかしたら人族の世界では書物でしか書かれてないような生き物がここに全部いるかもしんねぇ。
きっと考古学者ビックリするかもしんない……。
ちなみに、その後でマシュ様から人類の歴史を教えてくれたぞ。
異世界に数千億年もの壮大な歴史があるなんて、今まで想像だにできなかった。何回も何回も人類が滅び続けて幾星霜、今の世界があるのだという。
……まぁ、これはまた別の話。
《ナイショなんだけどねー! 地球側を担当する“コンドゲア聖域”も、向こうの幻獣界にもあるんだよー!》
「え……? 地球にも??」
《宇宙は多いし、それぞれ外側の表面世界って途方もなく広いからねー。それぞれ惑星を担当する聖域がたーくさんあるんだー!》
素妖精が左右の翼を広げてジェスチャーしてくる。
「……今、コンドゲア聖域行ける?」
《それはまた今度ねー。ここにいた方がいいよー。マシュ様の予知夢絶対当たるから》
「当たるのね……」
ジト目のヤマミは頬に汗を垂らす。
素妖精って時系列関係なく古今東西なんでも知ってるから、彼らが言うならその通りなのだ。
「未来が分かるの──! 教えて────!」
なんとクックさんが聞いてきた!?
しかし素妖精は首を振って「結果が同時にたくさん存在しているから、あれやこれや決められないんだー」って言われた。
クックさんはブーブー口を窄めた。
「シュレティンガーの猫ね。観測するまでは複数の結果が同時に存在しているっていう」
ヤマミが量子力学を言ってきた。前に異世界へ来た時にエレナの事でそういうの言ってたなー。
エレナは地球側と異世界側で二人同時に存在していて、地球側の彼女が死んだと同時に異世界側の彼女が存在するようになった、って感じの……。
《そうそうそれそれ!》
ノリノリな素妖精は踊るようにリアクションしてくる。
ちなみに晩飯は食堂で済ませたが割愛しとくぞ。
だって木の実や豆しかない上に、質素で味も薄いので特に語るべき事がなかったぞ。
他の色んな種族は静かに慎ましく食事を済ませ、一言も話す事なく去っていったしなぁ。誰もワイワイガヤガヤしないから奇妙に見えた。
……なんか世俗を離れた感じするなぁ。いつもこんな毎日?
《修行の一環だからねー》
「オレたちはいいのかぞ?」
《訪問客は特別さー。そんなすぐに郷に入っては郷に従えにはなれないからねー。それに妖精王は生命体としての階級が上位だからねー》
すると通りかかったエルフが「また会ったねー」と手を振ってくれる。
なんと例の全裸エルフだ。今は葉っぱみたいなモノで恥部を隠している。それでも露出度は高く、豊満な体のラインは見えるから目のやり場に困る。ドキドキ!
「彼女ちゃんが怖い顔するからねー、久々に着けちゃったんだー」
「ええ?? ずっと全裸で??」
「うん、そー! あなたが赤面して戸惑うまでは、誰も無反応だからねー」
オレたちの反応で着衣してるんだ……。
ヤマミから「ジロジロ見ない!」と頭上にチョップを喰らった。ドスン!
久々に話せたのか、エルフは楽しそうに笑いながら去っていった。まだドキドキする。
部屋へ戻ると薄暗い……。窓から星々煌く夜空が窺えた。
「これも時計の効力??」
《えへへー! すっごいでしょー!? 時空間魔法組み込んでいるから、ロープスレイの空がそのまま映し出されてるんだよー! だから昼夜として太陽とか昇ったり沈んだりするんだよー》
「すごい高性能だなぞ……」
トイレ行ったり、シャワー浴びたり、クックさんと遊んで寝かしたり、と必要な事を全て済ませると寝巻きに着替えてヤマミと共にベッドに寝転がった。
何故か素妖精たちが囲むように集まってきたぞ?? 多くね?
《えーやらないのー? ぐんずほぐれつー》
《食堂の時、エルフと話してた時は勃ってたのにー?》
《我慢せずさぁさぁー!》
「おやすみぞっ!!」
ガバッと毛布をかぶって寝た。
あとがき雑談w
素妖精《私たちはね、物質界最小の素粒子よりも小さい素霊なんだー!!》
ナッセ「ええっ?」
ヤマミ「そんなに……?」
素妖精がナッセの胸に飛び込んだら背中から出てきたぞ。すり抜けたんだぞ。
素妖精《極微小なので、物体に影響を及ぼさずに通り抜けれるんだー!》
ジャオガ「うむ! フワフワしている目に見える光の粒でさえ約32澗6700溝個ほどの素霊の集合体だ。クリオネみたいな形の素妖精となると約240恒河沙個にもなる」
ナッセ「どうやって調べたか逆に気になる……」
ヤマミ「ってか、素霊そのものが意思持ってて喋れるんでしょ?」
素妖精《イエーッス!! 自分の事は自分がよく分かってまーす!》
次話『流星進撃のルーツとなる殺陣進撃の開祖現る!?』




