7話「いきなりの昇格! Aランク冒険者!」
先輩に連れられて城へ招待され、そこでライトミア王国の王様に謁見したのだった。
オレの目的を褒めてくれる辺り、思慮深くて器が広い人物なのだと思った。
だからこそなのか忠告をしてくれた。
「ではこの国に滞在するなら、真紅の法衣を着た『マリシャス教』という邪教団には気をつけてくれ!」
「あ、ああ……」
すると先輩が「突然の無礼をお許し下さい。それについて重要な話があります」と頭を下げ、王様は「構わぬ。申せ」と許した。
「彼らが騙る平和神マリシャスは悪しき概念の存在『大災厄の円環王マリシャス』でした。ヤツの目的はこの世を永劫の地獄に変える事と、彼らから聞きました」
ザワリ、と不穏な気配に王様は顔を険しくする。
「む? なんと……! そちの方、もう少し詳しく話せ!」
「はい……!」
オレたちは跪き、元いた世界から幾度も転移し大魔王を倒したまでの経緯を話した。
長くなる故、所々省いてる事もあるが伝えるべき事は伝わったはず。数多ある並行世界の存在、魔法やスキルなどが存在しない地獄の存在、ネガティブとポジティブの濃度の概念、概念を捻じ曲げられて生まれた魔王化の事実は伝えた。
王様は右の人に確認を取って「信じられん……」と深刻そうに呟いた。
「気付かない間に、恐ろしい事が起きていたとはな……。まだ対抗策ができとらん上に、どう対抗すれば良いか……」
「ええ。でも、このまま放っては危険ですわ……」
「ううむ……!」
王様も王妃も切羽詰った顔で見合わせていた。周囲の騎士もそんな空気だ。
確かに、ただ概念だけの存在であるマリシャスへの対抗策は、こちらもほぼ無いに等しい。
それに先輩が異世界列強と言っていたから、緊迫した事態なのは変わらない。いつどこから攻めて来るのか皆目がつかない。
それに王国内でも邪教団という厄介事を抱えている。
「……二人とも貴重な情報をありがとう。事態は急を要する。故に特例をとってナッセとヤマミ両名をAランク冒険者へと昇格しておこう」
「「「えええええええええっ!?」」」
オレだけではなく、先輩まで叫ぶほど驚いたぞ。
「創作士として星獣を従え、大魔王を倒した功績からすれば、むしろA級すら過小評価よ。彼らには運命を変える可能性があるのだろう。それに余はナッセ君の純粋な目的が気に入っておる」
「そ……そんなにすか……?」
先輩震えながら唖然してる。
「それにAランク冒険者なら、どこの国へ行っても融通が利くぞ。世界を回るなら、その方が都合がよかろう……」
「ナッセとヤマミ、この特例は勇者以外に有り得ない事です。故に他言は無用とお願いします」
「あ、ああ……分かった。いえ、承知しました」
「承知しました」
オレたちは丁重に会釈した。
「またなにか有力な情報があれば、報告して欲しい」
「「はい! 承知致しました!」」
あの後、食事会など色々あってから城を出ると、もう夕暮れになっていた。風景は橙色に滲んでいる。
城門から少し離れ、ティオス先輩は気が抜けたように歩道のタイル床へへたりこんだ。
「ハァ~~! 心臓に悪ぃな……」
「す、すまん……。無礼だったかな……」
先輩は疲れた顔で振り向いて「お前ら大魔王倒したとか、初耳だぞ」と恨めしく言ってきた。
「あのあと城内でドタバタし始めてたわね」
「そりゃな。王様、各国に連絡、更に勇者を呼び戻すって仰ってたからな」
「勇者?」
ティオス先輩はあぐらに座り直して、ため息。
「勇者セロス。この国出身の唯一の勇者だよ……」
「異世界の……本物の勇者!!」
「ああ。何ヶ月も魔王討伐に遠征したっきりだったんだがな。思ったより事態は深刻だったみてーだから、呼び戻して協議するんだろうよ」
「戻ってくるまで時間かかりそう?」
ヤマミがそう聞いた途端、空に煌きが見えると流星のようにこちらへ飛び込んできた。
ドオン、と煙幕を立てて中から人影が見えた。
思わず先輩は「げっ! 早すぎだろっ!」と立ち上がった。
威風堂々と立つ三人……。
先頭の男はマントを靡かせ、額の煌びやかな頭輪、逆立った黒い髪、精悍とした真っ直ぐな目をしていた。
「勇者セロス……!」
後の二人もただならぬ威圧が篭っている。戦士風に鎧を固めた頑丈な大男。そして白いローブを纏った水色の長髪が流れる凛々しいエルフの女性。
「“剛戦鬼”ファリア。“水仙賢”メーミ……」
「久しぶりだな。“風閃”」
「チッ! “聖雷の勇者”! 勇者特有の移動魔法はチートだぜ」
なんか憎まれ口叩いてるみたいだが、知り合いみてーだ。
勇者はこちらを見て「連れか?」と呟いた。先輩はこちらへ手を伸ばし「ああ。最近できたばかりの後輩だ」と告げた。
「そうか後輩か。……我々は王様に会いに行く。またな」
「がっはは。後輩に恥かかんようにな」
「うふふ。可愛い坊やね~。また会いましょうねぇ~」
メーミが愛想よくウィンクしながら手を振ってくれて、思わずオレは赤くなってしまった。
「ナッセェ!!」ガシッ!
ヤマミが痛いほど肩を握って来たので戦慄を感じたぞ……。ごめんごめん!
三人は城へ入っていった。なんの手続きもなく結界を素通りしてるのを見て「す、すげー」と感嘆してしまう。
勇者というのは本当に特別なクラスなんだな……。
夜になっていって町に街灯など明かりが灯っていく最中、馬車に乗っているオレたちは静かに流れる景色を眺めていた。
「お前一体何者だよ。来てから怒涛の展開ばかりだ。まるで台風の目じゃねーか」
「え? オレ??」
「他にいるかよ……」
俺が自分を指さすと、なんか溜息つかれた。
「しかし王様は色々見破ってたなー」
「……お前らだから言えるけど、嘘かどうか識別できる『血脈の覚醒者』がいるんだ。王様の右にいたろ」
そういや王様が目配せして、右の人の頷きを確認してたなー。
「横に振るとウソ。頷くとホント。傾げは本当だけど何か隠してる……って感じだ。他にも何人か『血脈の覚醒者』がいる。それで防衛は完全無欠だ」
「悪意かあるかどうかも?」
「ああ……、言動に色が付いて見えてるらしい。悪意のあるウソか、優しいウソかまで分かるくらいだからな。ずいぶん前の事だが『マリシャス教』の教皇も、この国に教会を建てるにあたって王様と謁見していた。その時も識別してたよ。悪意満載だったらしいがな」
邪教団のボスとも王様が? ……驚いた。
「それでもここに??」
「土地は売るが、怪しい行動は慎むように警告をした。聞かなかったみてーだから余計監視されている。あと、行方不明などが増えてきた時は、こちらの『血脈の覚醒者』で隠し部屋を探し当てて踏み込めた」
「なんだ大丈夫だったのか……!」
「ああ。『血脈の覚醒者』がいなければ、もっと厄介な事になってただろうな」
馬車が目的地に止まる頃はすっかり夜になっていた。
冷えた空気に身震いし、オレたちは去っていく馬車を見送った。
「とはいえ、人間同士で争うのは好ましくないと優しい王様がな……。だから今もズルズル引きずってんのよ」
「さっさと弾圧した方がいいと思うわ。奴らに良心なんてない」
「まぁな……」
付近のギルドへ立ち寄って創作士カードをピッピしてAランクに昇格してもらった。
なんか受付の人、えらい驚いてたみてーだがな。
その後、レストランへ行き先輩から晩飯をおごってもらっていた。
「本当は王国の騎士になって欲しいと思ってたんだがな」
「え? そうだったの??」
「ああ」
頭に手を乗せて項垂れる先輩。しかし料理うめぇ。ズルッ!
最後のデザートを召し上がる手前で先輩はマジ顔でこちらを見てくる。
「お前らなら、数十年鍛えれば『五輝騎士』にもなれると思ったからだ」
「五輝騎士?」
「ライトミア王国最強の護衛騎士。『十二光騎士』の俺たちなんかとは段違いの強さだ」
「えぇ……。先輩みたいなのが十二人もいる上に、それよりも更に……?」
先輩は頷く。
「俺は十二人の中では三番目くらいの強さってトコかな。いつか必ず五輝騎士になってやるぜ!」
「そ、そうか……」
今日は情報量が多くて驚きっぱなしだったが、この国の層は厚いのが分かった。
先輩はオレに才能を見出して、ゆくゆくは一緒に国を守ろうと思ってたらしい。だが、オレたちの夢を聞いて諦めたらしい。
引き止めて夢を諦めさせる事は、王様の本意を無下にするからだ。
「つーか、なんか重大な鍵もってそうだから引き止められねぇ! 頑張りな!」
先輩は残念そうだったが、腹は括ったようだった。
オレたち二人は先輩と別れた後、ホテルへ戻った。
消灯した部屋のセミダブルで格闘し────、一糸まとわぬオレとヤマミは薄暗い天井を眺めていた。ふう……。
「異世界の王国って、想像以上だったなぁ……」
「そうね。中世ファンタジーとは別物だったわ」
高層ビル並に大きく高い城……。そして重厚で圧倒的広さ。色んな創作士で完全無欠の防衛。堂々と歓迎してくれた王様と王妃。
いかに四首領クラスの敵勢力が攻めても、ビクともしないイメージがした。
「他の国もそうなのかしら…………」
「だよ。行ってみたいな」
「私も」
オレの胸にヤマミの頭が乗っかかり、更に半身の温かい柔らかさが引っ付いてくる。
膨れ上がる愛しい気分で彼女の頭をなでなで。
「おやすみ」「ええ。おやすみ」
あとがき雑談w
ティオス「はぁ~~! 二人には騎士になって欲しかったのにな」
すると背の高い厳しい顔をした騎士が歩いてくる。
ティオスと同じ鎧を着ていて、優男で厳格な顔。オールバックで前髪は二本の触覚。
ファスタ「風閃。ウキウキしたり落ち込んだり忙しいな貴様」
ティオス「む! 二番目に強い“氷牙のファスタ”!! クラスは『槍士』!」
ファスタ「……三番目に甘んじるのも微温いその感情所以だ。落ち込んでる暇があったら牙を研いでおけ!」
ティオス「だからテメーは苦手だ!! 氷牙!」
ちなみにファスタは既婚者ですw 嘘ぉ~w
次話『異世界のクエストやりまくりだぞー!!』