55話「人族とは似て非なるモノ! 魔境村!」
他の魔族が荒らし回っているのを見かねて駆け出そうとするが、ジャオガさんに肩を掴まれた。
「こちらに来る人族をよく見ろ!」
魔王へ焦れた顔を向けていたが、言われた通り前へ振り向く。
三人の痩せた人族がゾンビのようにたどたどしい足取りで近づいてくるが、顔は恐ろしい形相で目は狂気に満ちていた。唸るような声を発している。
すると口が急にガパッと開けられると左右に頬を裂いてギザギザの牙が伸びてきて、急に俊敏な動きで飛びかかってきた。
「冥黒炎!」
ジャオガが放る黒炎球がドガアァッと爆発を広げて人族をまとめて吹き飛ばした。
呆然としていると、魔王ジャオガから「ここは魔境だ! 見た目に惑わされるな!」と警告された。
「バカね! 魔界に人族がこんな大きな村を、しかも魔境に作れるワケないでしょ!」
「ううっ……!」
ホノヒェラさんの言う通りだ……。
確かにさっきの人族は最初は見た目こそ変わらなかったが、突然口が裂けてバケモンになりやがった!
「来る! みな迎撃……!」
警告するアマリビグが片手を巨大な斧にメキメキ形成していく。
ぞろぞろとゾンビのような挙動で、何十人もの人族が卑しい笑みで群れてくる。悪意に満ちていて不気味な顔。痩せこけた体格だが、口には鋭い牙が、鋭い爪が伸びてきて、驚くほど俊敏な動きで一斉に飛びかかってくる。
【アペタイトマン】(人族)
威力値:10050
見た目は人族で人語も理解する。しかし異常な食欲を持っていて、同胞以外の生き物なら何でも食らう肉食人。さほど強くはないが数が異常に多い。爪と牙は伸縮自在。頬を裂いた口から剥き出しに牙を伸ばして齧り付く。
我欲が強いが集団で狩りをする知能も持つ。
生物学的に人族と極めて近いゴブリン族やオーク族に部類される。中級下位種。
「刻印創『星光の剣』!!」
手の刻印を浮かび上がらせて、握った杖から星を象った光の剣を生み出す。
襲い来る人族の群れに、剣戟を振るって幾重の軌跡を描いて次々斬り裂いていく。
なんか気分良くないな……。
「危ないわよッ!」
ホノヒェラがすかさずこちらへ火炎球を撃ち、横から襲ってきた人族を爆炎に吹き飛ばす。
き、気付かなかった……。
ヤマミが背中を合わせてきて「大丈夫?」と心配そうに声を掛けてくれた。頷いて返すが正直迷う。
「うにりゃりゃー!!」
クックさんはウニメイスを振るって、人族を蹴散らしていく。
「大魔神飛翔斧────ッ!!」
アマリビグが巨大な斧をブーメランのように高速回転させながら投擲。それは弧を描いて飛び回る軌道上の建物や人族をザクザク斬り裂いていく。
「殺界斬!!」
ソネラスは剣を手に駆け出して、数十人もの人族を細切れに散らす。
ジャオガさんは黒炎で纏った両拳で乱打を繰り返して、ことごとく人族を木っ端微塵に砕き建物をも破壊しつくしていった。
しかし、ぞろぞろとなだれ込むように何十人も人族が集まってくる。キリがない。
「ウザったいわね!」
ヤマミは黒い小人を数十人生み出して、それぞれが地面に潜り込んで縦横無尽に黒筋が這っていって何十人もの人族を黒炎に包んだ。
それを見てるだけで安心して、こちらも斬る覚悟を胸に何十人もの人族を斬り散らしていった。
魔王が、四魔将が、オレたちが奮起して、幾度もなく襲いかかってくる人族の群れをことごとく撃破していく。
何十分も何時間も、根気よく力を合わせて戦い抜いていった。
その度に死屍累々と転がる人族。次々と死骸は爆発して金袋や宝箱を残していく。
それでも人族の群れは怯む事なく、次々と牙を剥いたバケモノとなって襲いかかってくる。
ホノヒェラの氷の矢が吹雪のように吹き荒れる。アマリビグは両手に斧を形成しガムシャラに振るっていく。ソネラスも青白く輝かせた剣から三日月の刃を飛ばして直線上の人族をまとめて両断していく。
ヤマミの小人が縦横無尽に駆け抜け黒炎を連鎖させていく。クックさんがウニメイスで遠くまで殴り飛ばす。
魔王は「獄滅・冥黒炎!!」と巨大な黒炎球を撃ち、住宅地を巻き込んで爆炎が獰猛に燃え盛った。
「おおおっ!!」
横薙ぎ一閃と最後の人族を四人まとめて斬って捨てて、ふうと一息。
ソネラスは剣を背中の鞘に収め、心配そうに歩み寄る。
「ナッセ、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
「…………第二階層も、第三階層も……、全部人族系で…………!」
「ああ、申しにくい事だがな……」
そう、情報ではこの魔境全域のモンスターは全部人族系で構成されている。
だからジャオガさんは「今度は堪えるかもしれん。覚悟はしておけ」と警告してくれたのだ。頭では分かってはいたが、やはり実際に戦うとなると腰が引けてしまう。
「逆に考えろ。この魔境が人族の世界に出なかった事を幸運と思え。もし人族の世界にあったら、もっと甚大な被害が出てたぞ」
「うっ!」
言われてみれば確かに……。
きっと勇者セロスもこれに相対すれば、葛藤するのが容易に想像つく。
人族が攻略するには荷が重すぎる。見た目が同じ人間を斬るのって精神的にショッキングだ。人殺しに慣れて陰鬱な心に堕ちてでもなければ忌避したくなる。
「やはり教えておいた方がいいか」
「え? まだ何か……??」
魔王ジャオガはふうと溜め息。
「『悪欲探知』だ! その内教えようと思ってたが、早い方がいいな。見てて危うい」
説明を聞くに、これは『察知』で生物を感触した際に、悪意や浴などの負の精神状態をより感触する超高度なスキル。
悪い感情を剥き出しにしているとドロドロした粘着性の感情が心を満たす。それを外部から感じ取るもので、その際に不快な感触になるらしい。
人族でも高位の僧侶や鑑定士でさえ、限られた者しか会得できないほど難しい。
「精神生命体の妖精王ならすんなり使えるはずだ」
「わ、分かった……。でも何が関係が……?」
「使って見れば分かる。先へ進むぞ」
魔王ジャオガさんは踵を返し、一旦は無人と化した村へ進んでいく。
ヤマミが手でオレの背中にポンと触れて「行きましょう!」と宥めてくれる。
数時間歩いていると、子供たちが笑いながらボール遊びしているのが見えた。
「『悪欲探知』してみろ! コツは対象に『察知』を絞って深く潜らせる」
「う、うん?」
言われた通りに『察知』を広げてから、感触した人族の子供に深く潜り込む。するとドロドロした嫌な粘着性の感覚を覚えた。
子供がこちらへ向くと、ゾワッと不快な感覚が増す。
獲物に歓喜し、獰猛で攻撃的な食欲がはち切れんばかりに溢れてくるのが分かる。良心の欠片もないってのが分かるおぞましさ……。
当の子供はねっとりした笑みを浮かべ、ボールをグシャッと踏み砕く。
そのボールだと思った物体は魔族の頭だった……。ゾッ!
「来るぞ!!」
子供は胸を張るように身を反らしたと思ったら肋骨のトゲがドシュッと長く大きく伸びてきた。更に胸から股間まで縦に裂いた口が赤々と開かれて牙が剥き出しにされ、肋骨がワキワキと左右に開閉して蠢く。
人族とはかけ離れた異形に嫌悪感が沸く。
「きゃははっ! あーそぼっ!」
【チャイルドグール】(人族)
威力値:18750
見た目は人族の子供。だが狡猾さが醜悪な顔として表れている。最初っからこの成体なので成長はしない。
カギ爪のような肋骨を胸から出して獲物を左右から挟み込んで、腹の口に引き込んで捕食する。
万力のような物凄い力で挟み込んでくるので、肋骨に掴まれないように注意だ。中級下位種。
飛びかかってきた子供をひょいとかわすと、向こうの建物を肋骨で挟み込んでグシャッと噛み砕いてしまった。バキバキと軋み音が響く。
簡易な建物とはいえ、いとも容易く砕くとは恐ろしい……。
四魔将たちも、襲いかかってくる周囲の子供を迎撃していく。
「ゴブリンやオークだと思って戦え!」
「分かった!!」
明確に感じられる獰猛な悪意に、戦意を漲らせた。
「お兄さん!! さっさと食わしてくれー!」
声こそ人族の子供らしく可愛いものだが、滲み出る殺意は完全にモンスターだ。騙されるもんか!
グバッと長く伸びて挟み込もうとする肋骨を光の剣で斬り散らし、胴体を縦に斬り裂いた。血飛沫をぶちまけ、左右に分かれた体が地面に沈む。
「ひどいよぉ……! ね、ねぇ……なんでぇ…………? 助け……」
右顔だけピクピク蠢き、涙を流しながら悲痛な声を上げるが、ドロドロする悪意はまだそのままに感じる。それは怨嗟混じりの混濁した攻撃的感情……。
罪悪感を募らせ良心の呵責に苛まされるように、ワザと悲痛な声を漏らしているんだ。
こちらが人族と似たような挙動をしているから意図的にやってる行為だ。非常に狡賢い。見るに堪えない悪意。
「助け……てよ……! ねぇ…………!」
泣いてはいるが微かに口が笑みに歪んでいく。すると胴体から離脱して首の骨で一瞬跳躍してきてグワッと大きく開いた口で噛み付こうとする。
無情に薙ぎ払い、その顔を上下に裂いて木っ端微塵に散らせた。
「分かったか? 人族以上に狡猾で醜い欲情を剥き出しにしてくるモンスター! 人族とは似て非なるモノだ!!」
「ああ……!」
こいつらは人族の嫌な部分だけを強調したようなモンスターだ。
話し合いはもちろんできっこない。
いや、話し合い自体はできるだろうが和解した風を装ってくるだろう。そして、騙した獲物を悪欲のままに貪って来る。意思の疎通はできるが、本当の意味で友好な意思は一欠片もない。
それは『悪欲探知』で感触して初めて分かる。
人族とは似ていない! 全く似ても似つかない!!
こんな、人を侮辱したようなモンスターの存在、度し難い!!!
「……この魔境! 絶対に攻略してやるッ!!」
愚劣で卑怯な魔境、このまま存在させるワケにはいかない!
その強い憤りが沸々滾っていく。
あとがき雑談w
ジャオガ「魔族なのに『悪欲探知』を知っているかって? 先入観は捨てろ」
アマリビグ「闘争が絶えない魔界……悪意を察知……必須……」
ホノヒェラ「私がやると性欲を感知する事が多いんだけど? 主に人族から」
ソネラス「そりゃホノヒェラは人族の女体してるからな!」
ホノヒェラはムカついて、炎と氷の衣服を脱ぎさってすっぽんぽんになった!?
そこにはあるべき突起や穴がなかった────────?
ホノヒェラ「体のラインだけは人族の女性と同じだけど生殖器官ないからねぇ。当然、この胸の膨らみもただの飾りよ」
ジャオガ(幾万年もの長い付き合いだったが、初めて知った…………)
アマリビグ(薄々……察してた……)
ソネラス(魔族になる前は毎晩のようにオカズにしまくっていたが、まさかこんな……っ!? そんな事ありえないっ……!? 嘘だ嘘だ嘘だァァァ…………!!!!)
────後日!
ホノヒェラ「なんかソネラス寝込んでるんだけど??」
アマリビグ「傷心中……そっとしてやる……」
次話『一階層なんてクリアしてやるっ!!』




