52話「満を持して『魔境』へいざ!!」
砂漠のロゼアット帝国内のとある地域に、魔法陣を囲むように円陣状に並ぶ石版の広場が設置されていた。
かなり大昔から存在しているかのような重厚な雰囲気を感じる。
「これこそ魔界にも行ける『次元扉』だ」
アクトとリョーコは顔を見合わせた。
地球でもアメリカにも形状こそ違うものの『次元扉』があった。それと同じものなのだろうか?
「ロゼアット皇帝に許可を貰いに行く。果たして聞き入れてくれるかどうか……」
不安そうに勇者は踵を返し、城の方向へ向かった。
ロゼアット城はライトミア王国の城よりは平坦に広がっている建築構造だった。
城門を勇者のパスで入ると、何百年もそのままだという歴史的建造物が窺えた。かなり古い。それでいて頑丈な作り。
芸術的な装飾は目を見張るものがある。
左右に並ぶ兵の敬礼を受けながら、何度も扉を開いて奥へと進んでいく。
リョーコも流石に緊張してきたようだ。
王の間へ入ると勇者たちは丁重に跪く。
威風堂々と座するロゼアット皇帝は顔に斜めに走った傷が目立つ厳つい中年の男。そして傍らには歴戦の騎士たちが寡黙に並ぶ。
王妃はどこか毒ありそうな妖しい雰囲気。雰囲気だけね。
要件を伝えていくと、皇帝は快く頷く。
「うむ。許可しよう。我々としては魔族は滅ぼすべき怨敵だからな」
勇者セロスは丁重に「はっ! ご協力感謝致します」と頭を下げた。
問題なく魔界へ行く事ができそうだ……。
「ただし!」
勇者セロスたちは驚きに見開いていく。アクトもリョーコも緊張が走る。ロゼアット皇帝は不敵な笑みを浮かべた。
「まず、その前に我が帝国付近の『深淵の魔境』を攻略してもらう! 話はそれからだ!」
「……ナッセさえ救出できれば攻略もやり易いと進言します!」
「まさか勇者とあろう者が妖精王に頼るとは、随分弱気になったものだ」
ギリ……、セロスは悔しく拳を握り締める。
ファリアはもちろん、ティオスも胸にグサリとくる思いだ。
「妖精王ナッセの武勇は我が国にも知れ渡っておる。教皇の件もライトミアの魔境の件も、な。だが、それがどうした!? 我々は妖精王にすがるしかない軟弱な人間か? 違うだろう? 魔族、獣人、竜人とも対等に張り合えるくらい誇りを持たねばならんッ!」
悔しいがロゼアット皇帝は人類に誇りを持ち、多様性のある王国を治めている。
国内で多種の種族が入り乱れても舐められないくらい強くあらねばならないと矜持を持っている。だからこそ大国に繁栄し得た。
「アクトの武勇も聞き及んでいる。最近は活気漲っているそうだな。ならば勇者たちと同行して攻略してみせろ! そして妖精王如きに負けないと証明してみせよ!」
思わずリョーコが「あんたっ……」と食って掛かりそうな所を、アクトは肩に手を置いて制止。
そして悠然とアクトは立ち上がる。
ティオスは「え? お、おい!? 皇帝様の御前だぞ!」と戸惑う。
「あァ……。仕方ねェ……どっちみち『深淵の魔境』は全部攻略しなきゃいけねェからな! 悪りィが手柄ァ……奪わせてもらっていいかァ?」
「ほう?」
ギラリとアクトは鋭い眼光を見せて、皇帝を射抜くかのように見据える。
勇者セロスたちとリョーコは唖然。モリッカはニコニコ。ティオスは騎士だっただけに戦々恐々だった。
下手すれば皇帝の逆鱗に触れて、投獄されかねん。
するとロゼアット皇帝は拍手しだした。パチパチパチ……。
「そこの臆病勇者くんと違って頼もしい限りだ。噂にたがわぬ大胆不敵な猛者よ。……奪えるものなら奪ってみせよ! 我が軍は完全攻略に着手しようとしているぞ!」
「あァ……、競争と行こうかァ……!」
威圧漲る皇帝とアクトの睨み合い。そして崩さぬ笑み。
「フフフ……、ハハハ、ハーッハッハッハッハッハ!!」
「フフフ……、ハハハ、ハーッハッハッハッハッハ!!」
双方ともに大笑い合戦! これにはティオスもポカン……。
城を後にして勇者セロスは複雑そうな顔をしていた。
「悪ぃ……。水ァ差しちまった……」
「いやいやいや!! 心臓に悪いわ!! 投獄でもされたらシャレにならねーって!」
「そン時ゃ、脱獄するわァ」
「マジでしそうでマジで心臓に悪いわ!! 止めてくれ!!」
ティオスは青い顔で首を振っているが、当のアクトはかんらかんら笑っている。
堂々と胸を張っているアクト。なんと漢らしくて頼もしい事か、セロスはそれをしみじみと感じた。
ナッセを失って覇気がなかった頃でさえ、アクトは長年も異世界を放浪して生き抜いてきた。
「でもでも、やっぱ僕はこの辺の『魔境』を荒らし……冒険したいと思ってましたよ」
「おい、本音ポロッと漏らしかけてるぞ」
ファリアがジト目でモリッカにツッコミ。
「いやいい。どうせすんなり『次元扉』を使わせてくれるとは思わなかった。ナッセたちには悪いが、しばし我慢してもらう。行こう! ロゼアットの『深淵の魔境』へ!!」
「ああ!」
「そうこなくちゃです!」
「……もー! こうなったらトコトン付き合ってあげるわ!」
セロス、ファリア、モリッカ、リョーコは意気投合。
メーミは「そうと決まったらデパートで準備しましょ~」と手を振りながら歩き始めていた。
道中、アクトはボソッとリョーコに耳打ち。
「ナッセたちなら大丈夫だろう。ヤマミもいるしなァ……」
「そうだといいけどね」
リョーコは片目を瞑って一息つく。
「それに、塔の魔女は二人ともえらい強ェえんだろ? 俺ァ……その時の為に更なるパワーアップしとかなきゃいけねェ……!」
「気にしてたんだ……」
「あァ…………」
みすみすナッセたちを全滅させた悔恨もあってか、強い決意を漲らせていた。
例え、一緒にいたとしても勝ち目はなかったのだろうが、自分が場に居合わせなかったのは一番悔しい。下手すればまた見殺しにしてたかもしれない。
リョーコもそんな彼の想いを察していた。
「そんならあたしも付き合うよ! 正直、どうやって強くなればいいか分かんないけどさ」
「それも課題だなァ……。ナッセのように変身できるでも、俺ァみたいに変化できるでも、勇者のように超絶強化できるでもねェからな…………」
「そうなんだよねー」
リョーコもここんところ悩んでいた。
このままでも普通に強いけど、そこで満足してたら成長はない。更なる進化の道を見つけられなければ足手まといになる。
聖雷の勇者セロス、剛戦鬼ファリア、水仙賢メーミ、魔道士モリッカ、侍アクト、斧女子リョーコ、風閃ティオス、七名はロゼアット帝国付近の『深淵の魔境』へ、いざ行かん!
一方、ナッセたちは四魔将の三者と並んで魔王の後方で控えていた。
演説の間で、高台にいる魔王ジャオガが眼下の魔兵たちにご挨拶や激励など言葉を述べている。
そして……。
「ナッセ、ヤマミ、クック、来い」
指名されたので、オレはヤマミとクックさんと揃って前進する。
「これから『深淵の魔境』を攻略する為に、我らが魔族は妖精王と協力する事を宣言する! そしてもう一つ報告がある! ナッセがベルセムに代わって四魔将の一者となった!!」
すると魔兵は士気高揚と「おおおおおおおおおおおお!!!」と大気震わせる歓声を上げてきた。
魔王ジャオガは幼いオレたちとも対等のつもりで話しているんだ。
それだけ期待されている事でもあり、絶望の魔境への希望でもある。なんだか力が漲ってくる想いだ。心が熱くなってくる。
その反面、ヤバくなっても引くに引けなさそうだから気負いするなぁ……。
《気負う事はない、今の自分を超えるべき前進する勇気を持つのも大事だが、時には激情を堪え後退して腰を据えるのもまた一つの勇気だ。期待に応えようと無闇に突っ込むのでは真の勇気とは言わん》
《ジャオガさん……!》
演説と同時に思念通話しながら、優しく力強い手がオレの肩に置かれた。
《おまえが闘争を好まないのは知っている。だが、臆病風に吹かれて機を逃すな。ここぞというチャンスを見極め、己の力を最大限に爆発させるのが勝利への秘訣、ひいては闘争の心得でもあるぞ! ただ好戦的なだけでは真の強者と言えぬのは人族も魔族も同じだ》
《ああ。分かった。オレなりに精一杯頑張るよ》
《うむ》
魔王ジャオガはこちらを一瞥し、快い笑みで頷いてきた。
オレは前の魔境で逆に退こうとしなかった。それは正しい判断だったかもしれない。
もしビビって撤退していたら、次行く時に萎縮してたかもしれないし、難易度も上昇していただろう。勝てなくなってしまう可能性が高い。
……それにパヤッチに会えなかったかもしれない。
長かった演説が終わり、魔王ジャオガを筆頭にオレたちは四魔将と共に魔王城を後にした。
魔兵は魔王城を死守すると意気込んで歓声を上げながら見送ってくれている。
緊張しながらもオレたちは『魔境』行きの魔列車へ乗り込んでいく。
魔王ジャオガ、重鎮の深淵卿アマリビグ、天空の独裁者ソネラス、氷炎の魔女ホノヒェラ、妖精の白騎士ナッセ、黒魔の妖精ヤマミ、魔女の末裔クックさん、七名は魔界の『深淵の魔境』へ、いざ行かん!
あとがき雑談w
ロゼアット皇帝「アクトか、直属の部下にしたい所だが縛るのは無理だな。まぁ『深淵の魔境』の攻略の為に利用させてもらおうか。恐らくこちらの意図など見透かしてるだろうが」
アクト「どの国も『深淵の魔境』には悩ませられているからなァ……、そりゃあ逃さない手はねェだろうなァ。ここは皇帝に敢えて踊らされるかァ、この俺の成長の為に必要だしなァ」
セロス「オレたち蚊帳の外感が否めないw」
ティオス「言えてるw」
リョーコ「確かにwwwww」
次話『ナッセに絡む魔族!?』




