51話「憤る勇者たち! いざ魔界へ!!」
ライトミア王城の図書館を歩く勇者セロスたちにアクト、リョーコが追従している。
「……何も言わずナッセたちいなくなったからねー」
「あァ……」
ライトミア王国へ襲ってきたバカ魔族を倒した頃には、忽然とナッセたちが消えていた。
微かに闇の残滓で魔王ジャオガの仕業と察し取れた。
恐らく魔族一人を囮にして、ナッセたちを連れ去ったのだろう。
「普通なら魔王ジャオガにも負けねェんじゃないかァ?」
「あったりまえだよ!!」
「…………クックを人質にしたんだろう」
間を置かず、勇者セロスが憤りを込めて答えてきた。
振り向かず歩いている事から、沸々と怒りが漲っているのかもしれない。
でも確かにまだ幼くて弱いクックを真っ先に殺すと脅せば、ナッセたちは迂闊に動けない。ましてや王国の中だ。暴れられたら甚大な被害は想像に難くない。
大人しく従わざるを得ないのは分かりきってる。どこまでも魔族は非道だ。
「あっはっはっは! そうですかねー? ナッ君なら大丈夫だと思いますがねー」
モリッカは楽観的にニコニコだ。
それにセロスはジト目で「おまえな……」とため息。
テーブルに乗せた大きくて古びた本を勇者は開いていく。
「……遥かな大昔、栄華を極めていた人間は世界中に高度な文明を築き、数多の王国が広がっていたと言う」
かつては快適で不自由のない生活を送り、人々は平和な世を謳歌していた。
しかし、そんな栄華な時代は魔族たちによる大侵攻によって踏み躙られてしまった。
「獣人、エルフ、ドワーフ、竜族、数多の種族を巻き込んでの大戦争がそこかしこに広がっていった」
被害は甚大なものだった。数多あった王国は滅ぼされ、数億いた人間は殺されて惨劇の幕明けとなった。
多くの死骸は埋葬される事もなく、非情にも魔族たちに片付けられてしまった。文字通り魔族たちによる掃除だった。このままだと絶滅に追いやられるとさえ危機を感じた。
《神よ……! なぜ我らにそのような試練を与えたのですか!?》
確かに存在して恩恵を授けてくれるはずの神々は、この戦争を静観した。
辛うじて絶滅を免れた後でも恩恵は人間が存在する限り続いていた。しかし戦争を止める為には直接干渉してこなかった。
だが、唯一『勇者』として人間に特別なクラスを与える儀式が執り行われ、それは最後の希望として長かった戦争に終止符を打ったという……。
「今は魔族の勢力が昔より活発で、我々は昔のように栄える事ができないんだ……」
勇者セロスの無念がこもる言葉……。戦士ファリアも同様に悔しさを滲ませている。
しかしアクトは気が付いていた。
同じ勇者のメンバーであるエルフのメーミは逆に淡々としている。種族による感性の違いかとも思ったが、果たしてそうなのだろうか?
モリッカはキョトンとしているけど、元々そういう性格だから仕方ない。
「ってェ事は……魔族ァ滅ぼせば、平和な世界になると?」
「ああ……」
「ナッセは浄化能力に優れているから、魔族たちにとっては脅威だものねー。もちろん始末したがっているはずだよね? アクト?」
リョーコはアクトへ見やる。
「あァ……。ナッセは今んとこ無事だァ……」
アクトはナッセを相棒にしている。それ故に最近覚えた『標的探知』で相棒の位置を把握していた。だから動きだけは感知できている。何をしてるかまでは事細かに察し取れる事はできない。
そして、ここにいる地上のどこにもいないのも把握。
……異次元に連れられた可能性が高いと、アクトは勇者たちにも予め伝えていた。
んで「魔界へ連れ去られた」と勇者セロスが決定づけたようだ。
「あちこち動いてるみてェだから、脱出ァ……試みているかもしれねェ……」
「それは良かった。無事でいてくれるといいが」
「ああ。アクトさん。助かるぜ」
セロスもファリアもホッと綻ばせる。
モリッカは「でしょー!」と得意げだ。
「アイツは我々人間にとっても希望の一つなんだ!」
勇者セロスはもちろん、魔王ジャオガもナッセの力を認めている。
浄化力に秀でた妖精王は魔族を滅ぼせる可能性を秘めている。上手くいけば、叶わないとさえ思えた長年の悲願も達成されるだろう。
────だからこそ魔王ジャオガは隙を見て連れ去った。
魔族にとって人間はゴミみたいなもの。いつかは殲滅して地上を我が物にせんと目論んでいる。
その為にも妖精王ナッセは脅威であり邪魔な存在だろう。
「ナッセたちは絶対に救出せねばならない!! 人類の未来の為に!」
毅然と勇者セロスは握った拳を胸元にまで上げて宣言する。
アクトとリョーコは揃って頷く。
モリッカは明るい顔で「いざ魔界ですー!」とノリノリ気分で拳を突き上げた。
その後、勇者セロスはファリアとメーミ、そしてアクトとリョーコと一緒に王様へ旅立ちの報告をした。
ティオス含む十二光騎士と五輝騎士は役職の為にライトミア王国から出る事はできない。その為、ティオスはお供を申し出た。
「国を守る大事な役目を放り出す事は許さん!」
「王様!」
「じゃが、有給を取ればその限りではない」
王の寛大な提案に、ティオスは顔を綻ばせた。
「……厳しい戦いになるやも知れぬ、気を付けていくのだぞ」
「ははっ!」
有給休暇を申し出て、アクトたちと一緒に行く事になった。
ライトミア王国のデパートで旅立ちの準備をして、その翌日に勇者セロスと共に移動魔法で空へ飛び立っていく。
その弧を描く空の煌きを、王様は王妃と共に見送る。
「彼らに祝福あらん事を……」
勇者セロスを筆頭に、光に包まれたアクトとリョーコは目を丸くしていた。
遠く離れている眼下の地上が高速で流れている。連なる山、生い茂る森林、横切る川や獣道、そして点在するいくつかの町も村も通り過ぎていく。
目に見えない飛行機に乗ってるみたいな感覚だった。
「行き先はどこだァ……?」
「魔界へは、魔族や竜族が展開する反転空間を介してでしか行けない。だから魔族や竜族に頼むか、特定の場所から転送してもらうしか方法がない」
セロス達が言うに、向かうのは中層地殻ガイアプレートで最も領地が広くて繁栄している『砂漠のロゼアット帝国』なのだという。
そこでは人間、獣人、竜族、エルフ、ドワーフなど多種多様な種族が入り乱れている。
一番繁栄しているものの格差社会も見られる地域。
「とは言え、東方の大陸を占める『大地のダイガーラン帝国』よりはか寛容だ」
中層地殻では二つの帝国で二分されている。
友好関係としては微妙だが、魔族の侵攻においては共同関係にある。互い争って弱ってる所を襲われてはたまらないからだと、説明してくれた。
「魔族滅ぼしたら一気に噴出する問題じゃねェか?」
アクトがそんな事を言い出し、パーティ内に緊張が走る。
モリッカは「ですねー! 血湧き肉躍る……いえ凄惨な戦争になりますよっ!」と言い換えつつも、ワクワクしてそうな雰囲気に誰もが閉口する。
「えースルーですかぁ? 突っ込んでくださいよぉ~」でも、みんなはスルー。
勇者セロスは黙りこくったまま、ナッセとヤマミが言っていた事を反復していた。
《も、もし、例え魔族を滅ぼしても、今度は人類同士で争い始めて結局変わらないと知っても?》
《我々の世界は、最初は人類だけの世界だった》
《ナッセは元々人類同士で争い合う地獄のような並行世界から来た人間》
信じられないが、人間だけ栄えている世界で争いの火種は様々な形として世界中の至る所で開花を繰り返していると生々しく言っていた。
子供っぽいナッセの言動に反して、この話だけはリアリティーがありすぎる。
これは体験していなければあそこまで説明できないだろう。
やがて雲海へ潜っていき、薄暗い雲の中を突っ切っていく。辺り雲だらけで稲光が走ってる所もある。
しばらく数十分したら視界が開けた。
上の雲海と下の雲海の狭間に浮かぶ浮遊大陸って感じで、上層地殻ヘヴンプレートよりは広大な大陸を窺わせた。
「ここが……中層地殻ガイアプレート!?」
「俺ァ『緑のフォレスト王国』を経由して降りた事があったが、こうして見ると圧巻だなァ……」
ティオスは「は、初めて見るぜ……!」と生唾を飲み込む。
あちこち飛行船が行き交いしているのが見える。
その先の大陸へ近づくにつれて広大な大地が広がっていく。連なる山、生い茂る森林、茶色染まる荒野、そして最後に砂丘連なる砂漠……。
低空飛行した後に着地すると、包んでいた光が霧散する。
目の前には大きな門が聳えていて、その中に華やかな様子が窺える。
殺風景な砂漠に広がる大きな湖を側に、王国が広がっている形だ。
これが『砂漠のロゼアット帝国』か。
勇者という事で、門の検閲をパスして入れた。
「うわぁーライトミア王国とも違って賑やかじゃん」
「あァ……」
ライトミア王国よりも更に多種の種族が入り乱れていた。
路地に並ぶ多くの露店、立ち並ぶ古い木造の家、工場のように無数の煙突からは煙が流れている。ちょっと粗雑で汚い印象……。
リョーコは初めて見るのでキョロキョロ目移りして落ち着かない。
しばらく歩いていると、地球で言うストーンヘンジを彷彿させる円陣状に並ぶ石版の広場が目に入る。
円陣状の中心には魔法陣が灯っていた。
「これは……?」
「これこそ魔界にも行ける『次元扉』だ」
アクトとリョーコは顔を見合わせた。
地球でもアメリカにも形状こそ違うものの『次元扉』があった。それと同じものなのだろうか?
「ロゼアット皇帝に許可を貰いに行く。果たして聞き入れてくれるかどうか……」
不安そうに勇者は踵を返し、城の方向へ向かった。
あとがき雑談w
リョーコ「すでに『標的探知』覚えてたんなら早く言ってよ!」
アクト「これ後付けだァ……!」
リョーコ「おいwwwww」
アクト「勢いで書いてるからなァ……作者ァ……w」
ティオス「ロゼアット帝国も急遽作ったらしーぜ?」コソコソ話w
次話『皇帝の意地悪な提案に勇者たち戸惑う!?』




