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5話「卑怯者の邪教徒をブチのめせ!」

 大量発生したスライムのクエストを無事クリアしたと思ったら、例の邪教徒に()けられてたみてーだ。

 バレてるのにも関わらず大男はニヤリと笑んだままだ。


「最初っから分かっていて泳がせていたとはな。かくいう俺もこんな図体ではあるが潜伏(ハイディング)は得意な方なんだがな」


 背負っていた大きな袋を下ろす。なんかムグムグ動いている。

 オレは「まさか……」と胸騒ぎがした。


「争い合いたいワケじゃあないんだ。平和的に話し合いしたいだけさ」

「平和的にだと!?」


 声を荒げる先輩に、大男は終始ニタニタ笑いながら袋からガシッと何かを引き抜く。なんと猫の獣人、それも女の子だ。

 首を握られていて「うにゃ……」と苦しんでいる。


「てめぇっ! その汚い手を離せ!」

「風閃、動くな! コイツがどうなってもいいのか!?」


 大男は(いぶか)しげに眉をひそめ、更に握る力を強める。悶え苦しむ女の子。

 先輩は焦りをにじませ「くっ!」とこらえるしかない。オレは慌ててヤマミに振り向く。ヤマミも険しい顔だったがコクッと頷いてくる。


「さて交渉と行こうか。自己紹介はまずしなくちゃあなぁ……。俺は平和神マリシャス様を敬愛するマリシャス教の忠実なる信者ナウォキだ!」

「オレは城路(ジョウジ)ナッセだ」

「ガキは黙ってろ! コイツ絞めるぞ」


 オレはグッと沈黙する。必死に氷のように静かに(たたず)む思いで……。

 上機嫌なナウォキは絞めた力をゆるめぬまま呻き声を鳴かせている。オレは()(たぎ)る気持ちを必死に(こら)えていた。先輩もヤマミも同じ気持ちだろう。絶対許せねぇ……!


 そのまま片方の手で(ふところ)からなにかの新聞を取り出した。


「まずはこれを読め! 『和平新聞』だ! 読めば聖なる力が脳神経に強力な浄化力が作用されて、俺たちと仲良くなれる。まず平和に近づく為には協調するのが大事なんだよ」


 偉そうな態度で新聞をオレたちの足元に放り投げた。

 普通の人には見えないだろうが、妖精王のオレには明らかに嫌悪すべき邪悪な波動が漏れ出ているのが視える。恐らく読む事で発動する強力な呪い。


「読め! コイツどうなってもいいのかぁ!」


 苦い顔の先輩は覚悟したのか、拾おうとする。その様子に笑みを深めるナウォキ。

 しかし飛んできた火炎球が新聞を燃やし尽くしてしまう。


「て、てめぇッ!! このガキが見え…………!?」



 なんとヤマミに寄り添う猫の獣人の女の子に、ナウォキはギョッとした。

「ふにゃ~~ん」

「時空間魔法で助け出せたから大丈夫。よしよし」

 怖かったのか泣きじゃくっている。それをヤマミが優しくなでなでしている。


 ナウォキは「何っ!?」と自分が絞めているものへ見やると、ヤマミをデフォルメにした小人の『分霊(スクナビコナ)』だった。ニヤッと笑うと自ら火炎と化しナウォキの腕を貪る。ゴゴゴ!!

「ぐ、ぐああああ!!!」

 火炎に蝕まれる苦痛にナウォキは(もだ)え、慌てて水魔法を自ら腕にぶつけて消火。しかし腕はひどく焼けただれていた。


「……く、くそ! 取り返されたか! 卑怯な! この悪党めがッ!」


「人質取る方がよっぽど卑怯よ……!」

「自分は正義だから何してもよいって、そーゆー考えも卑怯だぞ!」


 ヤマミとオレの激怒にナウォキはビビっていく。

 先輩は怒りを滲ませた形相で「ああ、卑怯者は捨て置けんな!」と剣を引き抜く。

 ナウォキは汗にじりで苦悶の顔で「ぐぬぅ……」と忌々しげに睨み返してくる。

 しかし先輩は何を思ったのか剣を(さや)に戻す。チン……!


「俺がやると一撃だ。自分でやりたいなら(ゆず)るぞ?」

「え? オレがやっても?」


 先輩は頷く。これは思わぬ幸運……。


「先輩ありがと! コイツ許せなかったんだ!」


 煮え滾る怒りを燃やしたままオレは足を歩ませる。心から殺意を出すかのように杖から光の剣を伸ばす。キッと厳しい視線でナウォキを見据える。


「……ま、待て暴力は止めるんだ。平和的に話し合おう? な?」

「人質を取るのは暴力じゃないのかぞ?」

「それは君たちが凶暴だからね」


 思わず激情のままにナウォキの顔をバキッと殴って、地べたに転がした。


「ま……待て! 暴力はいけ……」「問答無用! 卑怯者はブチのめす!」


 正義を建前に女の子を人質に取るような卑劣漢に良心はない。分かり合える価値などない。それにオレたちが新聞を読んでも女の子をはなしてくれる保証はない。

 警告する際に絞めていた力を緩める気がなかったし、残虐に嘲笑(わら)ってた。


「ああ、そうかよ! やはり悪党は悪……」

 再び顔面を殴った。ナウォキは「ぶがっ!」とまた地べたを滑って転がった。

 激情込めて「今度はお前が黙れ!」と怒鳴りつけた。



 ナウォキはすかさず口へ劇薬を放ってバリボリ咀嚼(そしゃく)し飲み込む。

 次第に地響きしていき、立ち上がるナウォキの身体に変化が訪れていた。メキメキ……!


 体格が更に膨れ上がって筋肉隆々が浮かび上がる。黒かった髪が徐々に銀髪へと変色しながら逆立っていく。両腕の前腕が包み込まれるように毛が生えていく。両目が赤く染まり、何重もの輪郭円が浮かぶ。

 全身から凄まじいオーラを噴き上げ、稲光が迸っていく。


「ナアアアオオオオオオオオォォォッ!!」


 叫びと共に吹き荒れた威圧に押されまいと踏ん張る。

 封印の『刻印(エンチャント)』は反応しねぇ。まだ今のままで充分って事か……?


「ナハハハハ!! これが俺様の真の力だぁ! 威力値にすれば三万以上かな!」

「ってかドーピングでズルしてるじゃねーか!」

「うるせぇ懺悔させてやるッ!! ボルガーナックル!!」


 ナウォキは素早く間合いを縮め電撃の拳を振るってきて、オレは咄嗟(とっさ)に光の剣でガッシィィンと受け止めた。ズンと足が地面にめり込み、ビリビリ衝撃が伝わる。

 互い反発する様に後方へ飛ぶが、すぐさま地を蹴って再び衝突。ガガァン!


「ぬうりゃああああ!!」

「おおおおおッ!!」


 互い攻防の応酬を繰り広げて周囲に旋風を吹き荒れさせて煙幕が巻き起こる。

 ナウォキの攻撃は重い! 小柄なこっちは押され気味!

 しかし負けるものかと、粘り強く捌く捌く捌く捌く捌く捌く捌く!!


 ナウォキの弾かれた電撃拳の余波があちこち周囲を抉り尽くしていく。

 意地でも根性で捌き切るオレに、ナウォキはわずか数分でヒィヒィ息を切らし始める。猛攻が緩んだ隙に肩、脇、太ももへと剣の軌跡を踊らせた。ガガガッ!

「がっ! ぐあ……!」

 数撃を受け、たまらずナウォキは後ろへよろめく。ゼェゼェ辛そうに息する。


 なんだよもう終わりか。拍子抜けだ……。

 オレが苦戦した相手はもっと手強くて最後まで気が抜けなかったぞ?


「おいおい、もうちっと粘れよ! 情けねーな」

「くっくそぉ……、このガキがぁ……! ならば正義の剣! ジャスティス・ボルガーブレードォォォ!!」


 気力を振り絞ってナウォキは挙げた手から、凄まじく迸る電撃を伴う巨大な光の剣を高々と伸ばしていく。その影響で地響きする大地に亀裂が生じて破片が舞い上がっていく。

 オレは太陽の剣(サンライトセイバー)に切り替え、技で迎撃する構え。すると先輩がオレの肩に手を置く。


「わざわざ付き合うこたねぇぜ?」

「え? まだオレはやれる……」

「今度は俺の気がすまねぇ! (ゆず)ってくれ! そもそもコイツの狙いは俺だったしな」


 ティオス先輩は前に出て立ち向かう構え。いきり立ったナウォキは、轟々と電撃を散らす巨大な光の剣を振り下ろしていく。


「極悪人がぁ、この世から消え去れえええぇぇぇッ!!!」


 だがティオス先輩はギンと睨み据え、渦を纏う剣を振ると横一線の竜巻が一瞬走り抜けていった。

 草原が騒ぎ立ち、周囲の木々と岩が砕け、巨大な光の剣さえ弾け散り、ナウォキ本人にズガンと強烈直撃!

「ぶ……ぶがぁっ!」

 ナウォキは見開き盛大に吐血。巨体が浮いて数メートル吹っ飛んでいった。

 滑るように転がった後、仰向けで白目をひん剥いて気絶。腹には横一線の傷が痛々しく刻まれている。


「……サイクロン・ザッパーだ」

「すげぇ!」


 威力値二万そこそこのオレが苦戦してたナウォキを一撃で……。


「これが……ティオス先輩の実力か!」


 なんかヤマミがツカツカ歩み寄ると、ナウォキの股間を思いっきり踏み潰した。なんか嫌な音を立てたぞ。ナウォキ、ピクピク痙攣(けいれん)し泡を吹いて悶絶(もんぜつ)

 思わずオレも先輩も青ざめて自分の股を手で押さえた。キュッ!

 ……男としても再起不能(リタイア)だなぞ。



 あの後、ナウォキはキツく拘束して衛兵に突き出した。ざまぁ!

 猫の獣人の女の子は家まで送り届けて、母親と涙の再会でホッと安堵の解決。ホント無事で良かった。


 ギルドに戻って報告した後、なんか受付とやり取りした後で金袋を受け取っていた。

 そしてテーブルで待っていたオレたちを手招きして、誘われるままに行ってみると創作士(クリエイター)カードをピッピした。

 するとカードに薄らとFからEに切り替わった。すげー!


「Eランク昇格おめでとう。俺の手伝いって事にしているが、全部やったのはお前らだ。報酬は全部受け取ってくれ」


 にっこり顔のティオス先輩から金袋を受け取った。

 オレはふと考え込んで、先輩の方へ顔を向く。


「なぁ、なんで見ず知らずのオレたちに気を良くしてくれるんだ?」

「見込みがあるからだよ」

「見込み?」


 ティオス先輩は後頭部をかく。


「スライムや卑怯者との戦いを見てたんだが、初心者にありがちな油断も隙もない。まるで戦争を経験しているような素振りだった……。お前たちの実力は威力値だけでは推し量れないだろうな」

「そこまで分かるんだ……。さすが先輩だ」

「まぁな」


 先輩はフッと笑う。オレはヤマミと目配せし頷く。

 本当は封印でパワー抑えて戦ってるけど、言えなくてゴメンね。修行の為だし。



「じゃあ悪ぃけど、ライトミア城へ来てくれないか? 王様に会わせたい」


 そんな急展開に、オレとヤマミは「ええっ!?」と驚いた。

あとがき雑談w


 王国の牢屋にて、囚人と共にナウォキも収監されていた。


ナウォキ「……うわあああ!! 玉が……玉がないよぉぉぉお!!!」

衛兵A「悪人とは言え気の毒だな……」

衛兵B「それにしても一体誰が……恐ろしい事を……!」キュッ!


他の邪教徒「あいつパワハラやセクハラばっかしてたヤツだよな。ざまぁw」



 次話『ついに城へ入る!? 王様に会う!? ドキドキ!』

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