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4話「平和主義を騙る教皇キラリスト!」

 ────異世界の国。光のライトミア王国。

 ロープスレイ星のヘヴンプレートと呼ばれる上層大陸の一つにある世界有数の大国。

 何を隠そう、他の異世界と交流が可能な流通事情がある事で有名らしい。


 それ(ゆえ)に、厄介な招かれざる者もまた侵入してくる事も少なくない。

 ライトミア王国内で内戦じみた内紛を起こす邪教団がこびり付いていた。同じ人間だけに王国陣営の騎士たちも本腰を入れて弾圧できない事情があった。




 広大な教会内。豪華に煌くシャンデリアや壁画、柱の装飾など贅沢な広間。血のように真紅の絨毯。

 重厚で高貴な(こしら)えの祭壇には一人の男がいた。(おごそ)かに見上げている。


「平和はいい……。心が穏やかに落ち着ける。そう思わないかな?」


 半顔で振り向きつつギロッと睨みを利かせる。

 真紅の長いローブと法衣。高く長い帽子。手には、トゲトゲを放射状に生やした円のアンクのようなモノが握られている。

 そして薄い寒色の長い髪の毛。顔立ちは綺麗だが、仰々(ぎょうぎょう)しい悪意に(ゆが)んでいる。


「ハッ! 教皇キラリスト様!」

「私は平和でいたいのだよ。なのにいちいち心の平穏を乱しに来るような失敗の数々……。君らはイラつかせる為にワザとやっていないかね?」

「い、いえ! 滅相(めっそう)もございません!!」

「思った以上に王国の犬どもの鼻が鋭いようでッ……」


 教皇キラリストが見下す先に、赤い法衣の男が三人(ひざまず)いていた。

 しかし突如と一人の頭がパンと破裂してゴトリと崩れ落ちた。それに震え上がる二人。掌を差し出していたキラリストはギリッと歯を食いしばる。


「いいかな? 君たちは私の駒。平和神マリシャス様の望む平和を成し遂げるべき、愚かな人類を断罪するという崇高(すうこう)な目的の為のな……!」

「ハハーッ!! (おお)せのままにーッ!」

「この命に代えても、必ずやロープスレイ世界の心臓部である『光の王国ライトミア』を平和神マリシャス様と教皇様に捧げましょう!」


 しかし二人の男は頭がパンと破裂して倒れていった。


「……そのような御託(ごたく)、何度も聞き飽きたわ!」


 教皇キラリストはイラついていた。

 せっかく王国の懐に入り込んで宗教を立ち上げたものの、妙に察知が早い王国の奴らに邪魔され続けていた。

 それでもなお王国に「軍事は侵略や殺戮を助長させるから、廃止しろ」と訴え続けるも耳を貸してくれはしない。

 増やした信者も実験台も奴隷も、隠した場所を探し当てられて奪い返された。

 最初は騙されていた馬鹿な民衆も警戒してきている。



《……教皇キラリストよ!!》


 キラリストはビクッと身を(すく)ませるとすかさず(ひざまず)く。ワナワナと震え、真っ青の顔面を冷や汗が覆い、アゴから滴り落ちる。

 圧倒的な悪意の威圧で、混濁した赤黒い闇が辺りを席巻(せっけん)していく。


 そして空間がひしゃげるように歪むと、巨大な目がパックリ開けられた。ギョロリと瞳がキラリストを見据(みす)える。


「平和神マリシャス様ッ……!」

《光の王国ライトミアの制圧に手こずっておるようだな……?》

「恐れながら……私の未熟ゆえ、この命を持ってしても(つぐな)いきれぬのが口惜しい所存です」

《ふむ》


 巨大な目、概念だけの存在なのに、これほどの強烈な威圧。

 だが、このままでは世界に直接干渉ができない為、完璧な肉体を欲して受肉を目論んでいる。もし肉体を得れば一瞬にして世界を永劫の地獄に変えるのもカンタンだろう。


《二つの世界を融合させる大業は、()()()()魔女二人のおかげで成功に導かれつつある。これさえ上手くいけば、我が正義の名の下で世界全てを一つに統合して、より良き平和を約束できるだろう》


 平和神マリシャス様のいう平和。

 それは世界全ての生物から希望と可能性を残らず奪い去り、非力で無力な生物として地獄の中で永劫の苦痛を味わいながら転生のサイクルを繰り返す。

 それは罪を精算する名目で、その実、マリシャス様の玩具(オモチャ)造りの事を言う。


《神々と魔女が住まう創世界をも我が平和で統一し、唯一神に余はなろう》


 ゾクッ!!


 マリシャス様は異世界の支配のみならず、創世界をも地獄に変えて頂点に立とうとする大きな偉業を成し遂げようとしているのだ。途方もなく貪欲で悪意に満ちた野望……。

 キラリストは絶対的な恐怖でガクガクと打ち震えた。


「そ……、それは素晴らしき偉業でございます……」

《その手前の遊びだ。キラリストよ、せいぜい足掻(あが)いて余を楽しませてくれ。もちろん失敗すれば地獄行きの亡者だ。だが、成功した暁には『真紅熾天使(クリムゾンセラフ)五十聖神王(フィフティゴッド)』に加えても良い……》


 失敗すれば永遠の地獄行きの恐怖。だがしかしそれ以上に欲を掻き立てられる地位の昇格の輝きに、身が打ち震えるほどの喜びが全身を駆け巡った。

 こういった昇格宣言をされる事自体が幸運だからだ。


真紅熾天使(クリムゾンセラフ)五十聖神王(フィフティゴッド)

 これはマリシャス様が間接的に制圧してきた数々の異世界から、()りすぐる猛者(もさ)を手元に抱える精鋭。

 この地位は特別で、己の力を無力化されるどころか更に強化(チート)してもらえる。

 異世界列強の軍事力として、更に自分の手下を選定できる権能(けんのう)を持つ。つまり自分で自由に組織を作れるのだ。

 そして何よりもマリシャス様の下で、懲罰(ちょうばつ)という名の残虐行為を楽しむ事ができる。


「ええ……! 必ずやこの世界を制圧して見せましょう!」

《主の活躍に期待する》


 マリシャスの目が閉じると共に威圧が消え、身が軽くなったキラリストは両腕を掲げていく。


「真の正義と平和の為に、悪の王国ライトミアを支配してみせようぞ!!」



 すると見計らったように一人の大柄な信者がフッと跪きながら現れた。

 キラリストは睨みながら「風閃ぐらい仕留めてみせろ!」と凄み、それに大柄の信者はニッと笑い「このナウォキが風閃を我が信者に変えてみせましょう」と応える。

 懐から邪悪な波動がこもる新聞紙を出して自信満々だ。


「この和平新聞でな!」




 ライトミア王国を囲む城壁の外は、緩い起伏の大草原が広がっていた。木々や茂みも(まば)らと生えている。

 向こうでは山脈があり、湖もあり、大陸の端に雲海が広がっている。


「おおおッ!!」


 そんな折、オレはその草原を駆け抜けて、邪気を帯びた緑色のスライムの大群へ向かう──!


【マッドスライム】(スライム族)

 威力値:5700

 濁った緑のスライム。とても凶暴で相手がデカくても群れで襲いかかる。体当たりや牙で噛み付く攻撃は一般人なら即死だ。特記すべきは異常な再生力。水分と草を食するだけで無尽蔵とも言える再生と増殖を繰り返す。

 核となる体内器官を切らなければ死なない厄介なモンスター。

 それ故に常に討伐依頼が舞い込んでくる。


 数十匹の緑色のスライムが牙を剥いて襲いかかるが、オレは瞬時に群集の間を駆け抜けた。幾重(いくえ)の光の剣閃が踊り、スライムは全て切り裂かれ、体内の丸い核をも断っていた。

 ヤマミも『衛星(サテライト)』による火炎弾をばら撒いて爆撃の嵐でスライムをことごとく焼き払った。

 そんなオレたちを後ろで見守るティオス先輩。


「多いな!」「ええ!」


 オレはヤマミと背中を合わせて、囲んでくるスライムの数千匹もの大群を睨んでいた。


 ────これはギルドのクエストだった。

 ティオス先輩が言うに、異世界へ来たからには初心者として扱われる。ギルドへ登録した時点で、最下位のFランクになる。

 ランクはFから始まってAランクまである。しかしSランクという規格外もある。


 ランクを上げる方法はいくつかあるらしい。

 今やってるように、クエストをこなしていって次々功績を上げていけばランクも上がる。定期的に行われる試験でも上がる。

 仮想対戦(バーチャルサバイバル)でも総合ポイントによって上がる事もある。

 要するにゲームと変わりがなく、なんかスゲー強くなったり、凄い手柄立てたり、そうゆう事すれば高いランクへ昇れるってワケだ。


「特化変身!!」


 ヤマミの指輪の宝石が輝いた瞬間、パッパッと洋服が光の粒子となってスラリとした紫色調のレオタードのような魔法少女らしい特殊な衣服に変換された。白いカチューシャを備え、たゆたう髪の毛を波打たせ、両手を組んだ祈るポーズで凛とした表情を見せた。


「ほぉ? 接近戦向けにステータスを変化させた変身ができるのか……。魔道士(マジシャン)の欠点を補う良い戦術だ」


 ティオス先輩は感心していた。


 オレはヤマミと手をパンと合わせて『連動(リンク)』を発動し、一緒に剣を構えて「行くぞ!!」「ええ!」と地を蹴る。


(ダブル)流星進撃(メテオラン)!! 百連星ッ!!」


 背後に天の川が横切る夜空を浮かばせ、同時に等しい流星群のような煌く無数の剣戟を繰り出す。轟音を伴って全てのスライムを一気に撃滅していった。

 吹き荒れる烈風と伝わって来る地響きに、ティオスは腕で顔を庇う。


「まさか『連動(リンク)』まで……!」


 オレと威風堂々と胸を張って「Fクエスト達成!!」と吠えた。

 そしてヤマミと拳をゴツンと重ね合った。ニカッと快く笑い合った。


 ティオスは「やれやれ」と依頼票を広げた。そこは『大量発生したマッドスライムの討伐』でCランクのクエストだった……。


「本来なら、同ランクまででしかクエスト受けれねーんだが……、多少ランクが高くても余裕だったか」

 なんかブツクサ言ってる先輩に、オレは「先輩ー終わったぞ」と手を振った。

「おつかれさん」

「でも……!」

「ああ。分かってる。()けられている」


 オレは先輩と頷き合う。



 そんな様子を、茂みと木の影に隠れて見ていた男がいた。

 赤い法衣を隠すように黒いローブで覆い尽くした怪しい男が、隠している顔の影から目線を覗かせている。


「……妙な新参者、成長すれば厄介だな。だが風閃まとめて信者にすればこの上にない手駒になるだろう」


 茂みからのそっと、二メートルを越える大柄な男が出てきた。何か背負っている。

 オレもヤマミも先輩も分かってたので、男へ鋭い目を向けた。キッ!



「ほう、気付いていたか! なら話は早い!」ニヤリ!

あとがき雑談w


 ナッセとヤマミが一緒にアイスを舐めて異世界の味を堪能している。


ティオス「俺は独身かぁ……。寂しいぜ」

ナッセ「どうしたんだぞ?」

ティオス「そういや、ヤッたの?」


 ナッセとヤマミは揃って赤くなって湯気が出て黙りこくる。


ティオス「リア充爆発しやがれーッ!!」(血涙)



 次話『卑怯な邪教徒に早くもピンチに!』

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