35話「まさに魔境! 奇妙な第三階層……!」
夜更けまで焚き火の前でモリッカについての話をして、勇者たちは驚くようなリアクションを時々したりしていた。
メーミはモリッカが抜けた後に入った人なので反応は薄いみたいだ。
そんなこんなで話が終わると、勇者セロスは居ても立ってもいられない様子だ。
そんな様子を巨大モニターを前に突っ立ったまま見ていたサラカートは冷めた顔をしていた。一方、ソファーでくつろぐエムネは静かな顔で沈黙。
「随分と楽しんでるようだねー」
不機嫌そうにそっぽをむいて、ぐるんと体を回転させてソファーに尻を落とした。
側のエムネは「冒険……、昔を思い出すね……」とボソッと。
サラカートはどこか切なそうに遠い目を見せる。
「マロ姉さま…………!」
流れる銀髪のロングに女神のような笑顔。水色の縁ラインの白いポンチョっぽいが後ろが長くてマントになっている。体のラインに沿ったミニスカの半袖純白ローブ。露出している腕と足は美肌。水色の手袋と長靴。
そして背中からは薄透明のリボンが二対の翼のようにたゆたう。
今でもサラカートとエムネの脳裏に焼き付いている大切な人……。
かつて一緒に広い世界を冒険してきた頃が懐かしい。
「そうマロ姉さまを解放するために……!!」
暖かい姉さまに会いたい、それだけが強い渇望となって胸中で滞っている。
サラカートとエムネにとっては姉と慕うマロハーは家族も同然。
また一緒に笑い合える為に、多くの心血を『星塔』に捧げ続ける。今一度会う為になら世界なんてどうなったっていい。
「んふーふっ! 姉さまのいない世界なんて私らには意味ないんだよねー!」
「それについては同意だね……」
サラカートとエムネは冷淡に笑いを浮かべる……。
その翌朝『安全地帯』は時刻に合わせ明るくなっていた。
オレたちは準備万端と勢揃いし、第三階層への下り階段を降りていくと目の前の重々しい扉が開かれた。
思わず目の前の光景に見張った。
二階層の時よりも高低差が激しく複雑怪奇に入り乱れる道……。
その遥か下には赤く透き通った地底湖が広がっていた。あちこち上から細い滝が流れ込んでいるようだった。
前より増えている赤黒い結晶群晶と水晶柱は妖しく輝き、不気味さを醸し出していた。
どことなく恐ろしげな気が濃くなってるようだ。
「これではほぼ迷宮だ……」
「た……確かに……!」
二階層よりも更に空間が広い。なんか不安になってきたぞ……。
「だがモリッカに会えるのなら、絶対この魔境をクリアしてやる!!」ギッ!
そう意気込む勇者。目がギラギラしている。
────昨日話した事が起爆剤になったようだ。死んだはずの仲間がオレたちの世界に転生したというのだからな。
それにモリッカと知り合いなので会わせる約束も取り付けられた。
ただ、問題としてはモリッカ当人が勇者たちの事覚えているかどうかだな。
同じく異世界転生したエレナは前世の記憶を持っていた。とは言え、記憶が完全に蘇ったのは大体十歳頃って言ってたしな。
もしかしたらモリッカも勇者たちと会う事で記憶が蘇るかも知れない。
メーミが革のひと切れを湖に落とすと、底まで沈んでいく。
「……酸性はなさそうね~」
ああ、そっか硫酸とかかもしれないから確認してたのか。
メーミは「でも迂闊に触れないでね~。何があるか分からないから~」と首を振る。
歩いていると方向感覚が狂いそうで迷いかねないなと気が滅入る。『地図作成』があるからそんな事はないと思うけど、次の階層まで行くのに時間はかかりそうだ……。
地面から赤い液体が数十体湧き出す。出た!
なんと一つ目の鳥頭に二つの鳥足が生えている不気味なモンスターだ。
【単眼の怪走鳥】(獣族)
威力値:30000
赤い毛色の単眼の鳥頭で二本の足で走行する。大きなクチバシは強力で鋼鉄をも噛みちぎる。とても凶暴で執拗に対象を追い掛け回す。上級下位種。
「キイエエエエ!!!」
怪走鳥は奇声を上げると、地面を爆発させて超高速で突っ込んでくる。
太陽の剣を振るってクチバシと激突し、ガッとものすごい衝撃に仰け反りそうになる。一方、突っ込んできた怪走鳥は弾かれたように跳躍すると、こちらへ向き直って再び爆走。
「クックさん!!」「あい!!」
クックさんのウニメイスとオレの太陽の剣の二段構えで怪走鳥を叩き潰した。
ヤマミが吹雪状に氷魔法を放って次々凍結して粉砕していく。勇者たちもティオス先輩もアクトもリョーコも難なく撃破していく。
強敵だが、みんなで戦えばへっちゃらだったぞ。
時折、一つ部屋ぐらいの洞窟も見かけて宝箱とかあったりなかったり。
「出たよ! 警戒!」
今度はなにか奇妙なものが群れて飛んでくる。赤い唇だけがついた巨大な棒状の体に螺旋状のヒレが羽ばたいているモンスターだ。
魔族の生産するモンスターとは異なるのが分かってる形状だ。
【深紅の飛魚】(水族)
威力値:22400
先端に赤い唇がついた棒状の体に螺旋状のヒレがついている。人間なら丸呑みできるくらいデカい。その上、超高速で飛び回る敏捷性も持つ。群れるので強敵。上級下位種。
「ヒャッハハハハハハァ!!」
笑いを上げ赤い唇が開けられると人間のような歯並びが不気味に感じた。
突然、ビュンと超高速で飛んできて「うわっ!」と横に飛ぶ。すると地面が綺麗に削り取られていた。思わず身が竦む。
そんなデッカイのが縦横無尽に飛び交ってくるんだから焦っちゃう。
それでも勇者たちと一緒に奮戦して着実に数を減らしていく。
「うおらあああああッ!!!」
アクトの豪快なひと振りで次々と口から切り裂いて真っ二つにしていく。ヤマミと一緒に火、氷、地の魔法を『衛星』で散弾をばら撒いていく。
メーミが「ギガバクボ!!」と両手から上級爆発魔法を撃ってドッガァァアンと大爆発を起こして一掃。
すると第二陣か、再び飛魚の群れがこちらへ襲いかかってくる。
「げげっ! またかよ!」
さすがに勇者たちも焦りを滲ませる。
「いい考えがある!! オレに任せてくれ!!」
手を挙げて巨大な雷球の『衛星』を浮かばせる。
それを細かな粒状に分割して扇状にばら撒く。ゆらゆら頼りなく飛散するそれに勇者たちは不安げだ。
確かに飛魚を阻めず、突っ切ってくるのが想像しやすいだろう。しかし!
バチッ!!
なんと飛魚に触れた粒は稲光で爆ぜて肉片をこそぎ取る。突っ込むほどに粒々に触れてバチバチバチッと全身がこそぎ取られて肉片に散り散り。誰もが驚く。
飛魚の群れは自ら次々と突っ込んで分解されていった。
「な、何をしたんだ??」
「威力特化の弾を物量に物言わせてばら撒いた。射程も短くて速度も遅すぎっけど、威力だけはハンパねぇから突っ込んで来るモンスターには強いかなって」
あっという間に全滅していて、クックさんは「すごーい!!」と拍手してくる。
「えげつねぇな……」
なんかティオス先輩は引き気味のようだ。
それをモニターで見たサラカートとエムネは呆然としていた。どこか葛藤が表情に滲み出てくる。そして拳を震わせていく。
ナッセが披露した散弾は、かつてマロハーが得意としていた技だったからだ。
《トゥインクル・スターダスト!》
毅然とマロハーは手をかざすと膨大な量の煌く粉吹雪を周囲にばら撒いていく。
それは軽やかでキラキラ綺麗で、そのくせ威力は高くて近寄ってくる敵や攻撃を弾いていく。ナッセのと違い爆ぜる仕様ではなかった。
連鎖して弾いていく為、どんな威力の高い攻撃も威力を削がれる。どんな敵も容易に近づけない。むしろ防御重視の散弾だった。
キラキラ輝く粉雪、そして優しい顔のマロハーが銀髪をなびかせている。
そんな可憐な様子にサラカートとエムネはうっとりしていた。
「似たような散弾の使い手は今まで見てきたけど、これはかなり酷似しているね……」
「はぁ? 全然違うじゃん! 城路ナッセのは残酷だよ! 心優しいマロ姉さまと同じワケないじゃん!!」
激昂して喚き散らすサラカートを見るのは久しいなとエムネは思った。
いつもなら鼻で笑ってて小馬鹿にしたようなセリフが多かっただけに、ムキになる彼女はとても新鮮に見えた気がした。感情あらわで久々に活き活きしているようにも見える。
「私も同意見だね……。全く憤慨する想いだよ……」
「でしょでしょー!」
気持ちは分からんでもなかった。
なぜならナッセとマロ姉さまと雰囲気が似てると思ってしまう自分に嫌悪していたからだ。技が似ているだけならまだマシも、容姿がどこか似ているのは許せない。
マロ姉さまは唯一無二の存在。概念と化した今でも揺るがない価値観。
「大丈夫だよ……。これから難関を乗り越えられるとは思わないもの……」
「ですよねー! きゃは」
この大祓祭は、数十年以上もかかる事を想定している。
下手すれば百年以上にも期間が広げる恐れもある。それだけ『聖絶』から変換された大災厄のエネルギーは途方もなく膨大なものだった。
万が一ナッセたちがこの魔境をクリアできても、次も同じようにできるとは限らない。
高難易度ゆえに命を落とす可能性は極めて高くなる。
「たまたま似てるだけー! んーふっ!」
あとがき雑談w
エムネ「そういえばナッセの事をフルネームで言うよね……?」
サラカート「ふん! 城路ナッセなーんか気に入らないから!」
エムネ「そこまで誰かを気にする事って長い年月なかったね……」
サラカート「それだけ生意気ーって事でしょ! ふんっ!」
エムネ(嫌よ嫌よも好きの内……って言ったらキレそうだから黙っておこ……)
次話『第三階層のボスは更に強敵! ピンチか!?』




