3話「先輩登場! そして異世界のギルドへ!!」
星々煌く夜空の下で、明かりを漏らす窓が並ぶ住宅地の屋根上で人影が三人軽やかに駆け抜けていた。それを追うは、見た目からしても騎士と言えるほど肩と胸と左右の腰当ての身軽な鎧を着た男。
薄緑に逆立つ髪。真っ直ぐな目をした若い男。
「待て!!」
振り切ろうとする黒フードの男たちが三人。口元だけ覗く顔に焦燥が見て取れる。
「チッ! 王国の犬が!」
「またアイツですよ! “風閃のティオス”!」
「構うな! 我らが敵う相手ではないッ!!」
すると先回りしていた二人の人影が見えた。
黒フードの男たちは見開く。ティオスが呼んだ仲間と思ったが違った。
マフラーを巻いた銀髪の少年と、黒髪のお嬢様そんな出で立ち。
「ガキか! 邪魔するなら殺せ!!」
「ハッ!」
「直ちに!!」
「……ったく、ゆっくり散策させてくれよ。もう」
ナッセことオレはウンザリと顔を曇らす。
ヤマミは「殺気ギラギラしてる人を放っておけないでしょ」とため息。
「死ね!!」
大剣を振りかぶって飛びかかってくる黒いフードの男をキッと鋭く睨み据えた。
オレの手の甲の、円で囲んだ五方の星が青白く浮かび上がる。これが『刻印』。素早く杖を引き抜き、星屑を散らしながら光の刀身を伸ばす。
「星光の剣ッ!!」
オレの素早く繰り出した初撃の一閃が弧を描き男の大剣を砕き、振り抜いた惰性のままに左肘から生やした光の短剣で胴に強烈な一撃を見舞った。
「がっ……!」
まず一人目の男撃沈!
続いて二人目の男は「ダースフレア!」と聞いた事のない火魔法を掌から放つ。轟々襲い来る火炎球に対して、ヤマミはかざした掌から黒い火炎球を浮かばす。これが『衛星』。そのまま黒炎球を撃ち出すと、飲み込むように男の火炎球を一瞬で貪り尽くして霧散。
「なッ!? 俺の炎をッ!?」
絶句する男へ、ヤマミは杖を振り下ろして頭を強打。
二人目の男も難なく撃沈!
そんな予想外の強さに最後の男は足を止めたが、後ろから騎士が追いついていた。
「観念しなさんな」
「ぐ……!」
オレとヤマミと騎士で囲まれて、うろたえるしかない男。
「貴様ら!! 俺たちが『マリシャス教』の信者と知っての事か!!」
マリシャスと単語が出てきて思わず見開く。が、騎士は瞬時に男の首に手刀を落とした。
「うッ……!」
最後の男は白目ひん剥いたままうつ伏せに倒れていく。
怪しい男たちは屋根上で横たわる。
「手伝ってくれてサンキューな」
緑髪の騎士は片目ウィンクして礼を言ってくる。
オレは「たまたまだぞ」とヤマミは「うん」と応えた。
「俺は王国で騎士をやってる“風閃のティオス”さ。クラスは『遊撃士』だ。あんたらチキューだろ?」
「ああ。ここに来たばっかりだぞ。オレは『剣士』城路ナッセ」
「ええ。私は『魔道士』夕夏ヤマミ」
気絶している三人の男をふん縛って、オレたちは互い自己紹介した。
「コイツら威力値が一〇〇〇〇そこらの達人のはずだ。オメーらやるな」
そう言うと、ティオスは男の方へしゃがみこんでフードを引っペ返す。なんと教会にいそうな信者が着る立派な衣装を着ていたぞ。しかしそれはケバいほどに真っ赤だ。
顔立ちも生真面目で誠実そうな感じだ。そんなギャップに驚かされた。
「『平和神マリシャス』を異常に信仰している信者だ」
「平和神? マリシャスが?」
オレが怪訝な目で傾げていると、ティオスは頷く。
「最近、この国に入り込んできた邪教団でな、色々面倒な事になってんのよ」
話を聞くに、表向きはニコニコ平和主義を謳ってはいるが、裏では人身売買やら暗殺やら恐喝やら過激な事を平然と行う悪意ある教団らしい。
「魔族よりもタチが悪くてな……。同じ人間なのに、内輪もめみたいになってて厄介なのさ」
「そっか」
ヤマミの目配せにオレは頷く。
「マリシャスってのはスゲー悪い神様みてーなヤツでさ。地球でも色々あったんだ」
「それが『大災厄の円環王マリシャス』。概念の存在。世界の殺伐概念を強めて地獄にしていくのが目的」
「そうそうそれそれ!」
要点を言ったヤマミに、オレは揚々と指差した。
「ほぉ。……じゃあ明日付き合ってくれねーか?」ニヤッ!
宿泊してた宿を後に、待ち合わせの場所へ行ってみるとティオスが手を振っていたぞ。
案内してやると言ってきて、まず真っ直ぐ向かったのが……!
大通りの道路の側で堂々と大きく立つ建物。看板は『ライトミア冒険者ギルド』と異世界の文字で書かれていた。
「まず、そこで冒険者として登録してからの方が楽だぞ。創作士だけじゃ不便な事もあるぞ」
「そ、そうなのか……?」
ティオス先輩はニッと笑う。
言われた通り、オレとヤマミは受付で創作士カードを提示して在留資格とか色々手続きして登録を済ませたぞ。
見渡せば広い空間で冒険者たちがたくさんいた。
異世界のギルドとイメージ的にガラの悪い男もいて酒飲んで睨み利かしているみたいな感じだったが、意外とそうでもなく颯爽としていたぞ。もちろんガラの悪い男なんて見当たらない。
「ちょっと試していいか?」
そうこうしている内にティオス先輩に促されて、威力値計測室に入ったぞ。
広くて何もない仮想空間で、測定像と呼ばれる人形がポツンと立っている。
「これがオレの全力だーッ!! フォールッ!!」
天高く飛び上がってからの急降下による一太刀を測定像に打ち込んだ。轟音を伴って周囲に衝撃波が走っていく。すると「21000」と数値が弾き出された。
「おう、その若さで二万越えは凄いぞー」
ティオスは腕を組んだまま感嘆していた。
ヤマミも全力で魔法を放ってオレと大差ない数値を弾き出した。
「チキューにしては中々高いなお前ら。よし! 今日は奮発してやろう!」
今度はティオスがザッザッと測定装置へ歩み、バットでも振るうように体を捩って剣を後方に引いていく。すると周囲から凄まじい旋風が収束して剣へと吸い込まれていく。
ただの初動にオレたちはビリビリと戦慄を感じさせる威圧を覚えた。まるで竜巻だ。
「これが俺の本気の一撃だぁあ!!!」
鋭い視線と共に横薙ぎ一線と振るわれる一閃が測定装置を通り過ぎた!!
ゴウッと吹き荒れる烈風の余波にオレたちは腕で顔を庇った。そして数値は「53800」と弾き出た。
スゲェと驚き返っていると、ティオスは逆に苦い顔だ。
「あ、くそ! 本当は五五〇〇〇なんだがな……、よしもう一度!」
「えぇ!?」「もう充分なんじゃない?」
ヤマミは既にジト目で呆れている。
「俺はこんなもんじゃねー! 今、調子悪いだけだから! 次は本気だ見てろ!」
なんか急に子供みたいにタダをこね始めたぞ?
……意外と意地を張る所があるんだな。たかが誤差の範囲なのに先輩として良い所見せたかったのかな?
それにしても余裕で五万越えは高いなぞ。お、さっき5万5千出したぞ。
「よし! 新記録出してやるぞー!!」うおおおお!!
キリがなさそうなので説得して止めた────。やれやれ。
ギルド内の飲食店で、オレとヤマミは異世界のパフェを召し上がっていた。ティオスはコーヒーをすすっている。
「おごってやるから遠慮すんな」
「ど、どうも……ありがとうございます。ティオス先輩さん」
「ははは! 先輩、か。そういう響き悪くねーな! あと“さん”は要らねぇ。敬語もナシだ」
上機嫌だぞ。
しかし、切り替えたのか真顔になって黙る。しばしの間を置いて口を開く。
「……昨夜な、あの信者は人さらいだった。夜な夜な人をさらって洗脳、人体実験、人身売買色々にな」
「現存の宗教とは違うの?」
「断然違う! 元からいた宗教は温和で柔軟な教義で多くの人を救ってきた。今はあの邪教徒に狙われてて萎縮しているのさ。保護対象になっている」
「ひでぇなぞ……それ!」
オレは言いようのない怒りがこみ上げてきた。
元いた世界は殺伐していた社会で、反社会的勢力がのさばっていた事があった。表向きは慈善事業を謳ってはいるが、裏の顔はとても残虐で暴力思想。国の文化や習慣などを壊して乗っ取ろうと目論んでもいた。
それが異世界でも浸透し始めているのだ。
これが怒らずにいられるか!
ヤマミの手がオレの手に重ねて、落ち着きなさいと暗に伝わってきた。
「更にヤツらは『軍事は平和に反する殺戮事業なので廃止しろ』と王国へ執拗に抗議しているんだ」
オレは唇を噛み締めた。
「モンスターや魔族とかいるのに?」
「ヤツらは『平和を讃えながら無抵抗で侵略されよう。後に美しい国だったと語り継がれる』だのだの能書き垂れてんのよ」
ティオス先輩も怒りが滲んてて表情が険しくなっていた。
やはりオレのいた地獄と同じような事が起こりつつあるようだ。実際、オレたちが住む日本では日本人に成りすました敵国勢力が軍事を排除しようと暗躍していた。
同じように戦力を奪われた周辺の国は、なすすべなく敵国に侵略されて蹂躙され尽くされた。
最終的におぞましく大量の人の血が流れ、戦禍の火を世界中に撒き散らした。
「更に言うがな、敵対勢力は魔族だけじゃねえ! 次々と異世界を侵略している『異世界列強』の存在も確認された。ここでこの国が崩されれば、この世界も終わりだ!」
────悪意の侵略が忍び寄る! オレは強く確信した!! ギリッ!
あとがき雑談w
ティオス「よう! 俺は風閃のティオスだ。よろしくな!」
ナッセ「二つ名かー、オレも持ってみたいなぁ」
ヤマミ「……さすが王国の騎士ね」
ティオス「なんか後輩できたみてーで嬉しいぜ!」ウキウキ!
ティオスのクラスは『遊撃士』。
剣・ナイフ・弓などを主体にしてゲリラ戦を得意とする。主に戦隊を組む事もある。
前衛後衛どちらにも対応できて、臨機応変に戦えるのが特徴だ。
騎士としてティオスは剣を主体にしているが、ナイフも弓も扱いに長けてるらしいのだ。
次話『マリシャス教の黒幕が登場!? 部下爆散! パワハラ以上!』