28話「『深淵の魔境』による恐るべき洗礼!」
二人の魔女であるサラカートとエムネによって、濃密度の『聖絶』は光沢を帯びる七つの赤黒い宝玉に変えられて、世界各地へ飛び散らされた。
その内の一つの赤い流星となったそれは弧を描きながら、王国近くの地上へドーンと墜落。するとたちまち赤黒い結晶の山に形成されていく。
大地付近の結晶壁に裂け目が入って出入り口とも思える穴が空いた。ドン!
「な、なんだっ!?」「こ、これは??」「ダンジョンと化した?」
「見るからに禍々しいぞ……!」「普通の洞窟とは違う!」
「これ大きくねぇか!?」
《んふーふっ! それを世界各地にばら撒いたよー。これをみなさんが潜っていってダンジョンコアを砕けばクリア。七つのコアをくだいた後に、この塔をも攻略して最後のファイナルコアを砕けば浄化完了ー!》
《そうすれば大祓祭はめでたく終わりだね……!》
「そ、そんな事して我々になんの得がッ!?」「ふざけんなよ!」「本当は災厄をばらまいてるだけの愉快犯じゃないのか??」「そんな回りくどい事せず、とっとと浄化すればいいんじゃねーか!」
国の冒険者がヤジ飛ばしてるなぁ……。
でも確かにもっともだ。自分でコアを砕けば浄化できるんじゃねぇか?
それをわざわざゲーム感覚でやらされたらそりゃな……。
《うふっ! 『深淵の魔境』には様々な宝が置いてる……、最下層のダンジョンコアを破壊すれば極上の『秘宝』が出てくる……、それにこの星塔をクリアした者は『願いを一つだけなんでも叶う』という素晴らしい宝が手に入るよ……!》
《さぁさぁ──早い者勝ちだぞ────っ!!》
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
宝に目がくらんだ冒険者たちは、夜にも関わらず粉塵を巻き上げながら『深淵の魔境』へ目指して行った。
その様子に二人の魔女は目を細めニヤリとほくそ笑んだ。一瞬だがそれをオレとヤマミは見逃さなかった。悪魔のような笑みにゾクッと寒気すら覚える。
…………あいつら……!!
するとウォタレンが「フフフ……我らが先に攻略してやろう」とドヤ顔してきた。
「いいからマメード様連れて帰れよ!!」
地平線から眩い陽が差し込む、翌朝────!
オレとヤマミはクックさんと一緒に朝飯を食べている。パンにサラダにスープ。
「うっまーい!」
満足気なクックさん。
昨日は疲れて早く寝てたもんな。説明しとこう。かくかくじかじか。
「なにそれ!! おもしろそー!!」
キラキラワクワクでクックさんは瞳を輝かせていた。
昨日の事を話したのだ。塔の魔女が七つの深淵の魔境を各地に設置した事を……。
しかし塔の魔女が醸し出す不穏な気配はヤマミと共に胸にしまっている。
するとピンポーンとなる。
「またか……?」
あン時は大人しく騎士と一緒にマメード様は帰ってくれたけど、って思ってたらドンドンと乱暴にドアを叩く音がしてきた。
オレとヤマミは目を合わせて、玄関へ向かう。
すぐドアを開けてみると、傷だらけの見知らぬ騎士が息を切らしていた。
「て、ティオスさんが……ッ!!」
「落ち着け!! 一体何が起きた!?」
昨晩、二人の魔女によって生成された近くの『深淵の魔境』に多くの冒険者が向かっていった。ところが……!!
「グオオオオオオオオオ!!!」
出入り口前で、吠え猛る翼竜が殺気立っていた。禍々しい赤黒の結晶が体の半分を覆った翼竜で、時折稲光が迸っている。
その周囲で無数の死体が転がっている。
囲んでいる冒険者は得物で構えながら戦々恐々で竦み上がっていた。
「しょっぱなからこんなヤツが!?」「マジで翼竜かよ!?」「そんなのってあるのか!!」
ビビっている冒険者たちは汗を垂らすが、中には勇敢なのもいた。
「どけ!!」「俺らがやる!!」
凄まじいオーラを全身から吹き上げ剣や槍を手に翼竜へ向かっていった。同時に氷の魔法が翼竜の足元に炸裂して氷山が地面につなぎ止めた。
「今だあああああああッ!!!」
手練れの冒険者は四方から飛びかかる。しかし翼竜はギッと睨み、瞳が縦筋になる。
「ガッ!!」
翼竜の一喝で全身から濃密度のエーテルが爆裂して地面ごと冒険者を吹っ飛ばす。
すぐさま翼竜は翼を広げ、烈風を巻き起こしながら俊敏に通り抜けて、多くの冒険者を爪で肉片に散らしていく。
「ぎゃあああああ!!! あ、圧倒的すぎるッ!!」
「つ、強すぎる!!」
「助け……ッ!! ぐわああああああッ!!」
「がばぶっ!」「ぎえーっ!」「……ッ!」
悲鳴が劈き、悲惨に血飛沫が飛び交う。
それを聞きつけたティオスは陽が昇らぬ朝一番に飛び出して『深淵の魔境』へ向かっていった。
その領域へ踏み込むと同時にエンカウント空間が広がった。
「てめぇか!! これ以上、死なせはさせねぇぞッ!!」
凄まじいエーテルを吹き出し、尾を引きながらティオスは「うおおおおお!!!」と風閃剣を手に飛びかかっていった。
翼竜の振るう爪と風閃剣がガキィンと激突して、周囲に衝撃波が吹き荒れた。
死に物狂いにティオスは目にも止まらぬ攻防の応酬を繰り返して翼竜と渡り合う。
ガガッガガガガッガガガッガッガッガガガガ!!
その一撃一撃ぶつかり合うたびに衝撃波が吹き荒れて地響きが伝わり、冒険者たちは「す、スゲェ……」と息を飲む。
「うおお!! サイクロンザッパーァ!!!」
「グアアアアア!!!」
横薙ぎの竜巻の一閃と、翼竜の爪から放たれた光刃が激突! ドグアッ!!
その技を囮に爆風に紛れて上空から剣を振るうティオスに、翼竜は気付き爪を振るう。
激突し、再びラッシュの浴びせ合いになってしまう。しかし体力の差か、数時間粘っている内に徐々にティオスは押されていく。
翼竜の尻尾が重量感たっぷりにティオスを弾き飛ばす。バキッ!
「がはっ!」
数十メートル吹っ飛んで地面をバウンドして転がる。翼竜が踏み潰してくるのを即座に察して飛び退く。地面を大きく陥没させて岩盤を捲れ上げていく。
負けじとティオスは「野郎ッ!!」とエーテルの尾を引きながら剣を振るって翼竜の頭を殴る。次は地面に叩きつけて飛沫を吹き上げながら巨体を埋め、すぐさま弧を描いて間合いを離す。
「はああああッ!!」
気合いを漲らせてエーテルをゴオッと激しく噴き上げた。
「喰らえッ!! トルネェ──ドストォォォォムッ!!」
ティオスは風閃剣を突き出して螺旋状の光線を撃つ。それは真っ直ぐ大地を裂きながら翼竜へ炸裂し、ズオアアアアアッと爆風が大規模に吹き荒れて大地を揺るがしていく。
他の冒険者は慌てて地に伏せる。
「おらおらおらあああ……ッ!!!」
更にありったけ大技を連発ぶっぱなしてドカンドカンドカン鳴り響いていく。
荒い息をするティオスは、濛々としている煙幕を眺めていた。
ズン、と絶望を感じさせる翼竜の足踏みに、ティオスは「くそったれ……!」と歯軋り。
ダメージは負っているが依然健在な翼竜が煙幕の中から悠々と姿を現す。ガパッと口を開け、その中から眩いものが膨れていく。
爆音鳴り響かせて凄まじい赤黒い光線を吐き出し、稲光が迸った。
「先輩ッ!! 攻撃無効化ッ!!」
上空からオレは降り立ち、手をかざして間一髪翼竜の光線をバシュッと弾き散らして蝶々の群れに分散させていった。範囲外に逸れた破壊で地盤がガゴゴッと剥がれた。
翼竜は見開き、警戒するように「ヴヴヴ……」と身構えてくる。
オレは足元に花畑を広げ、長い後ろ髪をたゆたわせ、背中から四枚の羽を滞空。既に妖精王だ。
「ふうっ! 間に合ったな!」
「お、お前……! ナッセかッ……!」
翼竜はいきり立って「ウガアアアア!!」とエーテルを纏って重量任せに超高速で突撃してくる。オレはキッと見据え、光の剣を正眼に構え────! カッと見開く!
「流星進撃!! 七連星ッ!!」
同時に等しい七つの剣戟が四方から翼竜へ斬り込み、それを迎撃しようとしていた爪をも砕き全弾炸裂。強烈な衝撃音が鳴り響き、血塗れになった巨体は一旦浮いてから沈む。ズズーン!
やがて死骸は爆散し、金袋と宝箱が転がった。
「教皇の事もそうだったけど一人で無茶しないでくれよー!」
「うるせぇな!! 力隠しおいてそれはねぇだろ!! なんだよ翼竜を一撃とかふざけんなよ!!」
「いてぇって!! いたたた!」
先輩に後ろから首を絞められ八つ当たりされた。
ヤマミは「全く……」と呆れる。クックさんは「ちぇー! 翼竜とやりたかったー」とふてくされる。
「……しかしやっぱお前マジで強かったんだな」
「す、すまねぇ……。騙してたワケじゃないんだ」
「師匠から修行の為と制限されてたから」
とヤマミが毅然と付け足す。ティオス先輩は「そうだったのか」と俯く。
見渡せば、冒険者の死体が転がっていて悲惨な光景だ。
「俺は無力だ……。くそっ!」
唇を噛み、悔しさを滲ませて涙を流す。
あの後、教皇に仲間が殺されて逆上してた事とかも先輩は言ってくれた。彼にも大切な仲間がいて、その喪失で悲しみに暮れるのもやむを得なかった。しかし嘆いても生き返らないのは百も承知。
騎士や冒険者は常に危険と隣り合わせ。割り切るしかないのが現状だ。
「俺な、お前くらいに強くなってやるッ! 今決めたッ!」
だからこそティオス先輩は強い決意を表情に滲ませた。
それを薄暗い場所の大きなモニターで眺めていた二人の魔女は「んふっ」「うふっ」と冷徹に笑った。
あとがき雑談w
サラカート「洗礼として、門番を設置しましたー!」
エムネ「……面白いものが見れたしね」
サラカート「そーそー! 欲をかいたバカな冒険者が狩られるの痛快だよねー!」
エムネ「こらこら……。あくまで試験でしかないよ……。低レベルの冒険者が潜って、無駄死に増やさないようにしてるんだよ……」
サラカート「んふーふっ! 分かってるよーだ! でも身の程知ってから挑戦して欲しいな。そうそう、本来なら先輩さんは負けてたねー!」
エムネ「それに門番は一定時間が経つと再び現れる……。うふっ」
サラカート「どしどし挑戦きぼーん! 入場料は君のい・の・ちー!」
【災厄の翼竜】(ドラゴン族)
威力値:86000
禍々しい怨念が結晶化した翼竜。体半分を赤黒い結晶で覆う。獰猛で凶暴。
赤黒い光線を吐く『アビスブレス』は山を欠けさせるほどの攻撃力があると考えてもいい。
手練れの冒険者が数十人かかっても敵わない恐れがある危険なモンスターだ。
上級上位種。
次話『なんとナッセたちの前に、サラカートとエムネが現れる!?』




