19話「王国の危機到来! 魔王軍の侵攻!!」
────人間の住まう表世界とはまた違う、裏の世界。魔界とも呼ばれている。
暗雲渦巻いていて、赤い稲光が迸る。
黒い岩山が連なるそこでは、無数の穴から明かりが漏れていた。とある一人の魔王 が住まう魔王城である。
その魔王城のどこか大広間の壁には赤い逆五芒星が描かれていた。それを繋ぐ五つの宝玉が悪意を称えるように禍々しい気を放っている。
その一つが光を失いボガアッと弾け散った。
「な、なんと!?」
「こ、これは……!?」
目を疑うように魔族の兵はおののいた。
逆五芒星の一つが無残に砕け散っているのだ。その事実に魔族の兵は震え上がっていく。
兵の間で噂が広がった為に、騒がしくなっていった。
トゲトゲしい王座にふんぞり返る魔王は影に覆われている。窓から稲光のフラッシュがそれを一瞬照らす。カッ!
黒いマントを羽織り、紋様が全身に走ったガタイ体格、額と両こめかみにそれぞれ伸びる魔のツノ、戦闘狂に濁る黒い目。
圧倒的なまでに濃密なドス黒いフォースを漏らす威圧的な魔族……。
“暴焔の魔王”ジャオガ!
「……我が四魔将の、あの“残虐なる蟲王”ベルセムの宝玉が!?」
強張る形相で、低く唸り出す。
魔族の兵が跪いて「は、はっ!! し、信じられませんが!」と恐る恐る口にした。
「一人見張りに行かせたのは失敗か……」ギリッ!
そう逆五芒星の五つの宝玉は、魔王と四魔将の命を繋ぐ絆とも言えるものだった。
普通、魔族は何度死んでも復活できる。ただし一度死ぬまで活動してきた分の時間をかける、または自分のレベルやスキルなどを失う、など重い代償を払う必要がある。
「ただ死ぬだけなら、宝玉は光を失うだけなのだがな……」
だが魔王ジャオガの構築した逆五芒星は、死んで宝玉の光を失おうとも他の宝玉の光を分け与える事で代償を払わず瞬時に復活できる。
なぜなら日々余った余分な魔法力を長年かけて貯蔵し、蓄積しているからだ。
こうやって幾千年もの間、魔王は幹部と共に万全の体制を整えてきたのだ。
絶え間なく戦乱に明け暮れるように勢力を保持したまま、己が力を磨き続ける為。そうした画期的なシステムである。
「勇者の輩め! ついに封印する術を新たに得たか……?」
魔王ジャオガは怪訝に目を細める。
宝玉が砕けるという事は、該当する魔族が再起不能になったという事。つまり蘇らない。
魔族を二度と蘇らせない方法は二つ。封印するか、消滅させるかだ。
封印はともかく、消滅はほぼ有り得ない。
神クラスの上位生命体が圧倒的な浄化力で魔族を消滅させようとしない限り不可能。だが分かっている。神が直々に下界へ干渉する事は禁じられているからだ。
わざわざ幹部一人を消滅させる為に、自ら禁を犯すなど愚かな所業だ。
人類最高レベルの僧侶でさえ、魔族を消滅させるレベルの浄化力はない。せいぜい呪いを解いたり、アンデット族を昇天させる程度だろう。
この場合、封印一択とジャオガは考えた。
封印できるとなれば由々しき事態。勇者側にそんな事ができる人がいれば魔族にとっては脅威だ。
「ならば直々にライトミア王国へ訪れて、封印したヤツを殺すまでだ!」
王座から威風堂々と立ち、漆黒のマントをバサッとなびかせた。
すると、深淵の影から現れるように三人の魔族が並んで歩いてきていた。
「また黙って一人で行く気か?」
「ベルセムがやられたとあってはワシらも見逃せぬゆえ!」
「先走るのは魔王としてあるまじき行為よ? 昔っからそうだったわ……」
ジャオガも「ムッ!」と足を止めた。
骸骨を模した白い紋様が走る漆黒の重鎧の大男。視線は二つの灯る光。
「“重鎮の深淵卿”アマリビグ!」
竜をそのまま人間にした小柄な体格。鎧を身に包み、剣を背中に背負う男。
「“天空の独裁者”ソネラス!」
氷の右半身と炎の左半身の女。頭を一周する輪っかの上から氷と炎を模した髪が逆立っている。露出度の高い衣服風の氷と炎で恥部を隠す。顔立ちは整っているが残虐そうな笑みを零している。
「“氷炎の魔女”ホノヒェラ!」
ザッザッと悠然と歩いてくる残りの四魔将に、ジャオガは憮然とする。
「……呼びかけていないぞ? 四魔将!?」
しかしアマリビグは寡黙のまま両目の光を細めた。
なので竜人のソネラスが代わりに口を開く。
「この逆五芒星は数千年も前から培ってきた絆! ベルセムとも長い付き合い! それが失われるなど異例中の異例! せめて我らにも打ち明けてくれ」
「そうよ! 人間風情があのベルセムを滅ぼすなんて有り得ない!」
「おいホノヒェラ! 言葉を選べ! 不謹慎だぞ!」
「我々魔族を滅ぼせる人間いないでしょーがっ! ……宝玉が砕け散るなんてのも初めてだけど」
「不安か? それはお前だけだと思うな! ワシも、臣下も、兵も、民衆もな!」
「相手はきっと勇者セロスたちでしょ? なにか妙な技を会得したって不思議じゃない! おおかた封印でしょうけど!」
「封印だとしても恐ろしい事には変わらん!」
四魔将の内輪揉めに、ジャオガは深い溜息を付いた。
それまで黙っていたアマリビグは「行こう! ベルセムと共に奴らに報復を!」とジャオガの肩に手を置く。
「分かった! アマリビグ! ソネラス! ホノヒェラ! 出陣だ!!」
「……承知!」
「必ずや四魔将全員揃って、ここへ帰る為に!」
「フン! お礼としてライトミア王国を蹂躙しなきゃね! あと封印したヤツ八つ裂きよ!」
不敵に笑いながら魔王城を出るジャオガを筆頭に、三人の四魔将が追従し、更に忠誠を誓う魔族の兵たちが集まってきて大勢隊列を組んで規律良く歩いていく。
各々の決心は堅い! 必ずやベルセムを救出できると信じて、暗雲渦巻く空を見上げた!
「光のライトミア王国へ侵攻だッ!! 行くぞッ!!」
ジャオガの吠え猛る声に応じて、広大な時空間魔法の大渦が上空に展開された。
その大渦は覆いかぶさるように急降下して魔王たちを呑み込んでいった。
────光のライトミア王国。
教会が半壊し、なおも爆炎がその都度ドカンドカン噴き上げている。
火の手が燻り、煙幕が漂う中、破片の上で赤い法衣の信者が死屍累々と転がっている。
「くっ! 神聖なる教会を襲撃するとは……、この罰当たりめがァァッ!」
汗を滲ませ教皇キラリストは吠えていた。
睨む彼の目に、勇者たちと後方の騎士団が映っていた。
「宗教団体とは名ばかりの犯罪者組織こそ、罰当たりだろう!」
「勇者セロスッ! 貴様は同じ人間に剣を向ける悪人かッ!」
しかし勇者の毅然とした顔に迷いはない。むしろ剣の切っ先を突きつける。
「教皇キラリスト! お前はそれ以上に手をかけた極悪人だ! 覚悟ッ!!」
勇者は有無を言わさず斬り捨てようと襲いかかる。
「クッ!」
後ろに生まれた黒い渦にキラリストは吸い込まれ、セロスの剣は空を切った。
しばし沈黙するセロス。剣を振った後に鞘に収める。
「あの私怨に満ちた目……、また襲撃してくるな。警戒を怠らないでくれ」
「は、はい!!」
騎士団は後処理を始めた。
勇者セロスは戦士ファリアと魔道士のメーミの所へ戻っていった。そんな堂々としていてサッパリしている姿に、遠巻きで見ていたオレは憧れた。
カッコ良く堂々と剣を振るい、ためらいなく悪を討つ!
「オレも勇者に……!」
「なれるワケないでしょ!」
興奮して盛り上げるオレにヤマミのチョップが振り下ろされた。ずどん!
クックさんは「ちぇードカンドカンぶっ潰したかったー!」などと物騒な事を口走りながら、教会の残骸を眺めていた。
すると凄まじい魔の威圧をゾクッと感じると、途端に黒い円がシュワ────ッと広大な王国ごと呑み込むほどに拡大していった……。これほどの大きさは見た事がない。切羽詰って明後日の方向へ振り向いた。
「これは……教皇じゃないッ!」
「そう! あの時の魔族と同じ……、それも複数……!」
オレとヤマミは、古城で出会ったあの強い魔族を思い出す。
それが三人くらいいて、更に一人桁違いに強いのがいる。しかも他の軍隊とも言える大勢の魔の威圧も感じた。本格的に王国を潰さんばかりの総戦力だ。
同じ頃、勇者たちも同様に、威圧を感じる方へ振り向いていた。
「まさか……魔王ジャオガ!? しかも四魔将まで!」
「いや四魔将は三人しかいないな!」
「と、とにかく王国の外へ!」
勇者たちは移動の魔法で光の一筋となって飛び立ち、遥か向こうの城門前へと弧を描いていった。
戦々恐々と暗雲渦巻く空の下、ライトミア王国を前に魔王ジャオガ率いる三人の四魔将と大勢の魔兵が悠々と進軍していた。
見るものを恐怖に陥らせるほどのジャオガの不敵な笑みと、重厚な黒い威圧……。
しかし流星のように落ちてきた光から勇者セロス、戦士ファリア、魔道士メーミが立ちはだかる。
「……“聖雷の勇者”セロス!! それに“剛戦鬼”ファリア、“水仙賢”メーミ!!」
「“暴焔の魔王”ジャオガッ…………!!」
一触即発とも言える緊迫化した両者の睨み合い。
「フッ! まさか四魔将が一人“残虐なる蟲王”ベルセムを封印するとはな!」
「…………? 確かにベルセムだけいないな?」
「一体どういう事??」
「誰かが封印した?? 俺たちは心当たりはないが……?」
戸惑う勇者たちの反応に、ジャオガは不審を抱く。
「とぼけんじゃないわよぉ!!」
「ベルセムを封印して知らん顔とは悪逆非道! 貴様ら許さんぞ!!」
ホノヒェラとソネラスはいきり立つ。
寡黙なアマリビグですら静かな激怒が煮え滾っている。しかしジャオガは「待て」と腕を伸ばす。
「まぁいい! これからライトミア王国は滅びるのだ! 我が盟友ベルセムを封印から解き放ち、全員揃った四魔将と共に下等生物どもを血祭りにあげるからなッ!」
魔王ジャオガの見据える先の王国には、立ちはだかる騎士団と多数の冒険者たちが陣取っていた。
いずれも歴戦の猛者ぞろい。
その中の誰かがベルセムをやったに違いないと激情が沸き、ギュッと拳を固めていく。
────────こうして勇者と魔王の決戦が始まった!
あとがき雑談w
ジャオガ(アイツは簡単にくたばるような奴ではない! 必ず生きているさ!)
↑主人公感!
アマリビグ(今にもひょっこり現れそうだ!)
ソネラス(散々な目に合ってるだろうし愚痴聞いてやるか)
ホノヒェラ(封印されて今頃泣いてるのかしらね。優しくしようかしら)
ベルセム「ううっ! みんなぁ~生きてるって信じてくれてるなんて……」
ナッセ「魔族にしては、いい友情だなぁ」
ヤマミ「でも、盛大に勘違い祭りね……」
ベルセム「誰のせいだと思ってんだァァァ!!」(慟哭)
次話『勇者対魔王の決戦の果てには!?』




