110話「黄昏る夕景を目に焼き付けて……!」
明日の旅行を目前に、オレ、ヤマミ、クックさん、ウイル家族総出でデパートに買い物だ。
「よし、テント買うぞー!」
「え? ハウス型コテージあるだろ?」
疑問に思ったウイルに、オレは首を振る。
「あれは多くの魔法力を供給してこそ機能するモンだ。オレとヤマミだからこそ活きる。でもウイルだと難しいかな」
「むっ!」
「普通の冒険者には難しいからね。だから今もテントは需要あるの」
テントが売っている広場で下見をしながら、話を交わす。
本来、ハウス型コテージは多くの魔法力を充填させて、充実した生活が送れるような高額なもの。
普通の冒険者が使うなら、冒険前に充填させておいて一回使いきり。もしくはMPが大きい魔道士や僧侶など複数人でパーティー組んでいる時に繰り返し使うなどする。
オレたちみたいに一気に満タンにして何度でも使い回せるのは普通できない。
「不便だが、冒険するなら必要な事だからな」
「えぇ~、ダルいな……」
「いつかは一人で暮らせるようにならないといけないからね!」
師匠に弱音言ってたのが懐かしいな。
山奥でサバイバルしようってなった時は血の気が引いたし、その暮らしは最初キツかった。
でも師匠が親身になって教えてくれたからゼロからでも立ち直せるようにまでサバイバル能力が上がった。
「だったらスケッチブックや絵の具買ってくれよ!」
「えっ? なんでスケッチ?」
理由は知ってるけど、とぼける。
「いいから! 買ってくれなきゃ行きたくない!」
「ああ。分かったぞ。次、文房具屋さんなー」
「よし!」
実はウイルが絵を書くの趣味にしているの知ってるけど、知らない振りして自然な会話をさせている。
やっぱ嬉しそうなのが目に見えて分かる。
絵描くの好きなんだなー。
テントや魔除けなど野宿に必要な道具を一通り買い揃えて、文房具の売り場へ向かった。
割と道具が充実している。
コピックと似た魔導インクペン。やや高額。漫画原稿と似た厚い綺麗な用紙。結構地球に似てきたなって思う。
「これ!」
六本の絵の具を出してくる。
「ん? その色だけでいいのか?」
「うん。足りなくなってたからな。……トーチャン持ってるの何??」
オレが魔導インクペン持ってるのが気になったようだ。
地球にいた頃は漫画のキャラをよく描いていて、色を塗る時はコピックを多用していた。高額なのが玉に瑕だが、お手軽に塗れるのが魅力だ。
「オレは漫画とか描くの好きだったから、カラーイラスト仕上げる時は多用してたよ」
「描いてるところ見てねーけど?」
「うっ、まぁ描きたいけど時間なかったから……」
「日曜日は遊んでるのにか?」
ぐっ、痛いところ突いてくる……。
休日はクックさんと遊ぶ事が多い。秘術の引け目もあるものの体を動かしたいってのもある。ほぼチャンバラでガンガン打ち合ったり、色んなゲームしたりする比率が多い。
前はインドアだったのに、いつの間にかアウトドアになっちまった。
「薄色のインクから集めるとやりやすいぞ」
「絵の具のように混ぜれないもんな」
「ああ。多少は濃くしたり、ちょっと色を変えたりできるが、絵の具ほどじゃねぇ」
「だから種類多いんだな」
「ああ」
仕方ないのでウイルの分も買ってあげた。
しかしウイルがスケッチブック、絵の具、鉛筆、インクペンと買い揃えているのも感慨深い。
かつてのオレを見てるようだ……。
デパート内の食堂で昼飯を食ったりした。
どこからかパンを作ってきているのかバーガーっぽいのも出てきたなって思う。
異世界転生や転移してくる地球人も少なくないから、そういう技術が流れてきてるかもしれない。
ヤマミは収納本をペラペラめくって確認をしている。
買い漏れしてないか徹底しているので、ありがたい。さすが生徒会長みたいな几帳面さ。
「今日最後だから思いっきり遊っぼー!!」
クックさんがオレの手を引っ張って、最上階のゲーセンフロアへ誘ってくれた。
魔導で動くアーケードやクレーンなどゲームが豊富で、多くの人が興じている。ヤマミは「はい、お金」とウイルとクックさんに配って喜ばした。
オレもクックさんとエアホッケーしたり、ウイルと一緒に杖で魔法弾を撃つゲームをしたり、アーケードゲームしたりと、時間を忘れるほどに夢中になった。
オレはジュースを手に、ヤマミが座っているベンチへ座った。
「あいつら体力すげぇな」
「本当にね」
子どもがいるのは大変だけど、こうしてめちゃくちゃ楽しい事もある。未だ気分は高揚している。
はしゃぐクックさんとウイルを見てほっこりする。
「見てるとさ」
「うん」
「こっちも楽しくなってくるなーって」
「ふふ」
ようやくデパートを出る頃には、橙に染まっていく夕日の風景が広がっていた。
影が長く伸びている道路をしんみりと歩いていくと、周囲の町を見渡せる高台へたどり着いていた。ここはオレとヤマミが初めてこの国に入ってから行った所だ。
眼下に住宅が並ぶ広大な町並と遠くで囲む城壁、そして近くに海かと思える湖。高い山も聳えている。大空は明るく橙に滲んでいて、大きな太陽が地平線へ沈もうとしていた。
ウイルは心を打たれたように魅入っているようだ。
何を思ったのか、オレへ歩み寄って神妙な顔を見せてくる。
「トーチャン、少し時間いいか?」
「ここで遊びたいのか?」
「ううん!」
首を振ってくる。
「この景色を描きたいんだ!」
「そうかー。今日で最後だし、思いっきりやっていいぞー」
「うん!」
ウイルは嬉しそうに収納本からスケッチブックを取り出し、絵の具なども並べて、夕日の風景へ向かって絵を描き始めた。
いつになく真剣に風景を吟味して色を塗っていく。
ゆっくりと地平線に沈んでいくのにも関わらず、手際よく全体の構図を捉えて塗っていく。絵描きに慣れているオレもビックリするぞ。
ウイルにとっては時が止まったように見えるのだろうか、まるで最初見た時と変わらない風景に塗っていく。
「まさかマリシャスの時みたいに、時を止めてたりしてなー……」
「それ思ったわ。でも別にスキルは使われた気配はない」
心を掴まれた夕景だからこそ、脳裏に焼き付いたのだろう。
これまで以上に上手く絵が描かれていって、オレは逆に絶句した。普通に見れば上手くはないだろうが、十歳としてはかなりのクオリティだぞ。
「かたぐるまー! かったぐるまー!」
「おう! 行くか!」
オレはクックさんを肩車して高台を散策して楽しむ事にした。
空中手裏剣でトントンと高く跳んでいって、小さくなっていく町を見下ろせる壮観な風景を二人で楽しめた。
今度は絶叫マシーンのように猛スピードでジグザグと跳ねながら降りていった。
クックさんは「いやっほ────!!」と嬉しそうだ。
「何してんだよ? こっち、もう終わったぞ?」
見上げたままウイルが待っていた。
空中歩行から降りてクックさんを地面に下ろして、オレは「さ、行こか!」と笑みを向けると、ウイルも頷く。
低い石垣に座っていたヤマミは読書していた本を畳んで立ち上がる。
薄暗くなっていく帰りの途中でレストランへ寄って、ライトミア王国の料理を堪能したぞ。
食い過ぎたウイルが「うう~~」と苦しそうになってて、つい笑う。
「明日旅行なんだから、食べ過ぎんなよー」
「まったく……」
ヤマミがウイルの背中を優しくさすった。
すっかり夜になってしまった王国の町。魔導式の明かりが幻想的に灯っている。
オレはウイルを背負ってヤマミとクックさんと一緒に歩行路を歩いていた。クックさんも眠たそうにアクビする。
背負っているウイルはもう既に夢の世界に入っている。
「いよいよかぁ……」
「ええ」
悪魔の教皇の襲撃とか、聖絶から始まった魔境とか、マリシャスの降臨とかで異世界の旅を邪魔されて嫌になってたけど、こうして丸く収まったからいっか。
あの黒幕マリシャスすら、ウイルとして一緒に旅行するのだ。
お前が壊そうとした、この世界をその目に焼き付けてやるぞ。この国の夕景のようにな……。
その翌日、オレたちは晴れ晴れとした気分で朝日を浴びながら、ライトミア駅の魔導列車に乗った。
オレ、ヤマミ、クックさん、ウイル席につく。
徐々に流れていく風景に、ウイルは心なしか寂しそうだ。
友達と気になる人としばらく会えないなら、その心情も仕方ない。
「心配すんなって。またここへ戻って帰るからな?」
「うん……」
窓を眺めながらウイルは頷く。
クックさんとヤマミは穏やかに笑む。
オレたち家族が暮らす場所、そしてウイルにとっても大切な故郷なのだから……。
「さぁ! 待ちに待った異世界旅行だぞー!!」
魔導列車は城壁の中のトンネルを通り抜けて、広大な大陸へと飛び出した。
あとがき雑談w
ティオス先輩「えっ? 俺の出番は??」
五輝騎士「もう出番ないかもしれん……」ズーン!
第一王子アスール「ちょびっと出てきた僕こそ泣きたいですよ」
第二王子ミレア「私たち何の為に出たのかしら? 嫌になっちゃう」
作者談によると、ライトミア王様には後継者の王子たちの存在がいて、避難してるよーって描写で説明してただけなのだ。
五輝騎士が一人“雷鼓天の主”シュルアも本当は出番の予定があったはずなのだが、尺の都合でなくなってしまった……。ごめん。
掘り下げていたら、もっと長い話になってただろう。
その気になれば500話以上の超長編に書く事もできるだろう。
あくまで主人公ナッセたちの物語という事で終始しているので、関わる事があればきっと出番があるかも?
十二光騎士「」
次話『これが異世界の他の国!?』




