109話「あらら? ウイルの才能は凡人!?」
青空で澄み切っていて草原が広がっている。そしてライトミア城壁が聳えている。
ここでさえヤマミの特有空間。彼女の意のままに作れる亜空間。
そこでオレはウイルと手合わせをしていた。
「うりゃあああッ!!」
ウイルが木刀を振るってきて、オレは姿勢を低くして木刀で受け止める。
本来なら棒立ちのままであしらえるが、バカにするような煽りにならないよう正しい姿勢で捌くようにしていた。
しかし小枝で打ってきているみたいな軽い感覚だ。
本人は本気でオレを叩き殺す勢いで血気盛んなんだけど……。
はぁはぁ息を切らすウイルはオレを睨んでいる。
全身からは心許ないオーラがボヤボヤ不安定に吹き上げている。
「まだまだ準備運動だー!!」
「おし! 来い!!」
ウイルの懸命な剣戟をオレは次々と捌いていく。ガッガッガッ!
言っちゃ悪いけど、ウイルの才能は普通の人間レベルだ。
三年もかけてやっとオーラが出せるようになったけど、安定して身体能力を強化できるようになるには、まだ遠そう。
冒険者登録後に色んな武器を買っておいたが、どれも普通かなぁ?
戦士は多くの武具を扱える才能を持つのだが、ウイルをこのまま鍛えていっても、せいぜいモブ戦士程度に落ち着いてしまう。
「このーッ!!」
「よっ!」
ウイルの足元を狙う横薙ぎも、オレはすくい上げる斬り上げで弾く。
弾かれて「ぐうッ!」と呻いてくる。
握っている手が赤くなってる。豆できてそう。
クックさんは十歳未満で威力値四〇〇〇〇に達するほどの天才だ。
身のこなしも反応もセンスもピカイチ。魔境での過酷な冒険で更に強くなっていった。オレもヤマミもグングン強くなっていけたから当たり前だと思っていた。
でも違うんだな……。
ウイルこそが一般的な伸び代だったんだ。普通だったんだ。
思えば十五年歴のBランク冒険者であるオズラッチやヨーレンも威力値三〇〇〇〇だったが、それこそ普通の素質で頑張ってきた賜物なんだよな。
バカにする意味で言うなら、十五年頑張ってこの程度? ってなるだろう。
逆に言えば威力値一〇万クラスは一般人では一生努力しても届かないかもしれない。オレたちの認識の方がおかしいんだ。
軽い剣戟を受けながら苦慮する。このままじゃオレに追いつけないんじゃないか?
これから十年血の滲む修練を重ねても威力値二〇〇〇〇いけっかなぁ?
参ったな…………。
ヤマミと一緒に見守る最中で、ウイルは胸元で両手同士を向け合って「むむむ」と念じる。両手の間で小さな火がボウッと発生。しかし消えてしまう。
再度頑張って、ロウソク程度の火を一瞬出すだけで終わってしまう。
「くそ──────ッ!!」
「魔法の才能は……」
「戦士ってのもあるけど、望みは薄いわね」
戦士でも魔法が全く使えないワケじゃない。
ただ熟練するまでに想像以上の修練が必要になる。魔道士と同じレベルまでってのは相当難しい。
歴戦の戦士でも戦いに使えるレベルの攻撃魔法を使う事もある。
「大勢の敵をパーッてやるほどにはなぁ……」
せいぜい武器に攻撃魔法を『形態』させるとか、牽制などに放つとかのレベル。
この五年、ヤマミが頑張って教えているものの未だ実らない。
「このぉー!!」
ムキになったウイルは小さな火を前へ飛ばして、フッとかき消してしまう。
「バカな……! かつてマリシャスとしての俺は宇宙をも破壊できてたのに……!」
落ち込んでるトコ悪いけど、思えばマリシャスが肉体を持ってから格闘した事は全くなかったよな。
ただ十字に体勢を整えてパーって破壊してただけだしな。
他力本願なチート除いたら、全くの素人って事かぞ。
「言っちゃ悪いけど冒険者には向かないわね……」
「うん」
そもそも育児を押し付けたアリエルはこう言っていたしな。
《人族の体として無作為に創り出しただけだから、才能とかそういうのは私だって分からないわぁ~。わざと才能のない人体を創ってるワケじゃないもの。彼自身の大切な人生だものねぇ~》
って事で、誰もウイルの秀でた才能がどんなのかは分からない。
戦闘面ではダメダメだけど、別のすげぇ才能あるかもしれない。ウイルは否定してたけどな。
「あー、もうダメだ!」
疲れ果てたウイルは仰向けに倒れてゼーハゼーハ息を切らす。
「今日はここまでにすっか?」
「くっ!」
「そろそろ晩飯の支度しなきゃだから、シャワー浴びて部屋で休んでなさい」
亜空間が徐々に黒い花吹雪となって螺旋状に散っていく。
じゅわーっと晩飯の美味しそうな匂いが広がっていく。
オレは階段から二階へ上がって、ウイルの部屋のドアをノックする。
「おーい。そろそろ晩飯だぞー」
いつもの反応がないのが気になって、ドアを開ける。
なんとウイルは寝落ちして床の絨毯に転がっていた。その手前でスケッチブックがある。鬱憤晴らすために絵を描いていたのだろう。
手にすると、遠近感のある絵でウイル自身のキャラが強そうに描かれてある。オレとヤマミがやられている姿も描かれている。
「へぇ、ちょっと邪険だけど普通に上手いな」
元の場所に置いた。
ウイルをベッドに乗せて毛布をかけて「おつかれさん。おやすみ」と小声で言い、部屋を出てドアを閉めた。パタン……。
食卓で待っているヤマミと、楽しそうなクックさん。
「ばんめしー! ばっんめしー! あ、ウイルはー??」
「……疲れて寝てる。そっとしておこう」
ヤマミは困った顔で「しょうがないわね」とため息をついた。
階段を下りきってオレも食卓へ並んで「いただきます!」と三人で合掌して、晩飯を頂いたぞ。
二時間ほどで起きたウイルがバタバタ降りてきて「晩飯は!?」と慌ててたので、ヤマミは再び晩飯を温め直して食卓に並べた。
ガツガツ食べていくのを見てオレは安堵する。
ふとこっちを見て「見なかっただろうな?」と睨んできたが、オレは「何を?」ととぼけた。
「な、ならいいんだ! 俺の部屋見に来るなよ!」
「ノックはしたけどな」
「入ったのか??」
「いや」
「俺、ベッドに寝てたぞ!?」
「知らねぇって。ノックはしたが、反応なかったから先に晩飯すませたよ」
じっと疑い深く見てくるが「そ、そうか」と晩飯を再開した。
内心ヒヤッとしたけど、見なかった事にしてあげる方が彼の為かもなー。悶えるほど恥ずかしいかもしれんし。
「三日後、世界旅行するから準備しときなさい」
「はーい!」
…………翌日。
ピンポーンと鳴って玄関へ向かってドアを開けると小さな女の子がいた。
ピンクのロング。大人しめな丸い目。ワンピース。半ズボン。モジモジしてて、とても可愛らしい。
「おはよう。トゥフちゃん」
「あっ! ナッセさん、おはようございます!」
なんか畏まってペコペコしてくる。
オレは妖精の白騎士ナッセってSランクの冒険者で、悪魔の教皇や大祓祭を解決した英雄って周知になっている。
子どもからしたら憧れでもあり、神様みてぇな畏れ多い対象でもある。
「おーい! ウイルー! トゥフちゃん来てるぞー!!」
するとドタバタ走ってくる音が響いてきて、焦った様子のウイルが駆けつけてきた。
「な、な、なんで来んだよっ!」
「だ……だって! 明後日には長い旅行するんでしょ? だから」
「バッ! 別におまえなんか──」
オレはすかさずウイルの頭を押さえて「また同じ事になんぞ!」と叱る。
「トーチャンには関係ないだろっ!」
「でも旅立つ前くらい正直になれよ! 好きなんだろ!」
「す、好きなんじゃねぇやい! こんなやつ!」
「ウ・イ・ル!」
静かな怒りを滲ませるヤマミが現れて、ウイルは「ひっ!」と身を竦ませる。
「トゥフちゃんすまねぇな。こいつ素直になれないから」
「う……うん」
「なっ! 余計な事言うな!」
「ウイル! 女の子には優しくしなさいって言ったでしょう?」
「う……ぐっ!」
何年前かトゥフちゃん泣かして、ヤマミと一緒にウイルを連行して家へ伺って謝った事があった。
習い場でもウイル悪い事してばっかだったから、いつもみんなに謝ってた。
今じゃ大人しくなった方だけど、こうして未だ素直になれず邪険になってしまう。手のかかるクソガキだ。
問題起こすたびにヤマミからこっぴどく叱られたりする。
酷いとオレもカンカンに怒る事もあった。
「ウイル! ちっとは素直にならねぇと後悔すんぞ?」
ウイルは俯いている。葛藤しているのかもしれない。
本当はトゥフちゃんに一目惚れしてて好きなんだけど、中々正直になれず意地悪してしまうから罪悪感も募っていた。
我の強い性格だからこそ、変にプライド高い。
「あ、あの……あたしは大丈夫だよ。帰ってくるの待ってるし」
「トーフちゃん……」
トゥフの優しい微笑みにウイルは泣きそうな顔だ。ぐしぐし腕で拭う。
「なぁ遊んでいいか?」
「ああ。遊んでこい。あんまり意地悪しねーようにな」
「……分かった。もうしない」
オレの言葉に僅かながら素直に応えてくれる。
「二人とも気を付けていきなさい」
「はい」
「うん……」
去っていくウイルとトゥフの後ろを見送って安堵する。
「ずっと心を許せる相手なんていなかったものね……」
「マリシャス時代のままじゃそうだろうなー」
かつては諸悪の根源として独善的な思考により異世界の数々を地獄に変えてきたマリシャス。自分が正しいと錯覚し、寂しい事すら知らず、唯我独尊と邁進すると同時に凍えるような孤独……。
しかし今は人間と同じ社会に入って、初めて好きな人とかできた。
友達もいるし、好きな人がいる。そんな普通な関係こそウイルには必要な事だったのだ。
「旅行すんの悪いな……」
「広い世界を知ってもらうのも大事」
「だな」
ヤマミと一緒に、のどかな町風景を眺め続けた。
あとがき雑談w
ナッセ「この五年でオレの身長も172cmに伸びてるぞー」
ヤマミ「私もちょっと伸びて170cm」
クックさん「あったしは157ー!!」
小学生相当のクックさんも中学生くらいになり、体つきも女っぽくなってるぞ。
ちなみに一人で風呂に入れるようになったぞー!
ウイル「5年前の身長は104cmだったけど、今は126cmだ!」
クックさん「おっきくなったねー!」ぽんぽん!
ウイル「頭ポンポンすんじゃねー!」
ちなみにウイルはまだ一人で風呂には……。
ウイル「うるせえ! 黙れー!」(赤面)
次話『念願の世界旅行だー!!』




