102話「未来を犠牲にして、未来への道を!」
優劣は覆らないと余裕綽々と笑むマリシャス。
後光のように背中の輪から閃光が放射されて、いかにも神を気取っているみてーだ。
このままでは皆殺しされるだけでしかない。
「ヤマミ……!」
「うん! あれしかない!」
「本当はオレだけでもいいんだが」
「諦めなさい! 一蓮托生だから! でなきゃ許さない!」
睨んできた。言うまでもないか、観念する事にしたぞ。
「あー、じゃあ一緒に行こうか……」「もちろん!」
ヤマミが寄り添って、手を繋いでくる。
温かいぬくもりにホッとさせられる。これまでも、そしてこれからも一緒だと思うと、安心感で心を満たせる。
オレも心の底から穏やかに笑える。
一緒にいてくれんのがヤマミで良かった…………。
「最後まで見苦しく足掻くか……。降参すれば永劫の地獄で生きてゆけるものを」
セロスは震えながらも「ふざけるなッ!」と吠えている。
ラルゴもウォタレンもバベナスもププラトもマグアも聖剣を手に敵意をマリシャスに向け続けている。
光の国王オルキガ王、風の王国ナムベジ王、土の王国コマ王も同様。
鎮座していたはずのマシュ様でさえ、立ち上がって並々ならぬフォースが全身からこもれ出ていて、体毛が揺らめいている。
そんな最中、クックさんは恐怖に耐えかねてオレに抱きついてきた。
「ナッセ────ッ!!」
「怖いか?」
「うん!」
よしよしと頭を撫でる。それでも震えは止まらないようだ。
「クックさん……」
抱きつくクックさんの両肩を両手で押して引き剥がして、幼い顔を見つめる。
幼い子どもらしく、怯えて青い顔をしている。
オレは「なんとかして守らなきゃ!」と、クックさんを強めに抱きしめる!
「悪い! 約束破っちまう……!」
「ナッセ…………??」
「これから先の未来は、一緒にいてやれねぇ……!」
「え………………?」
クックさんとの抱擁を解く。やはりオレの言葉に戸惑っている。
本当は一緒にこの先を生きたかったけど、世界をブチ壊されたら未来も何もない。だからせめてクックさんの未来だけでも守らなきゃと決意を漲らせた。
「リョーコ! アクト! クックさんをよろしく頼む!!」
泣きじゃくるクックさんにリョーコが走り寄って屈んで「大丈夫?」と撫でる。
アクトも歩み寄ってきて深刻そうにオレを見る。
「こんな形で別れたくなかったがなァ……」
「すまん」
「もっと一緒にやりたかったなァ……」
「すまねぇ」
「だがよ、キッチリやるんなら、最後までやり遂げてみせなァ!」
「ああ! 任せろ!」
アクトもまた覚悟しているのを察し、オレは申し訳ない気持ちでいっぱい。
本当に一緒にこれから先を生きたかった。
異世界を復活させて、夢のある冒険をしていきたかった。
もちろん楽しい事だらけじゃない。嫌な事だってある。それも含めて冒険であり思い出でもある。その未来を自ら放棄してしまうのだ。
だが、それ以上に目の前に立ちはだかるどうしようもない絶望を前にしたら、未来もクソもない。
するとマイシが恐る恐る「……方法は他にないし?」と聞いてくる。
多分彼女も事情を察しているので、オレは首を振る。
「あったら聞きたいぐらいだよ」と皮肉るように笑む。
オレとヤマミが二人犠牲になるだけで環境と未来が約束されるんなら、方法は一つしかねぇじゃないか。
独り善がりかもしんねーのは分かってる。
だけど、あのチート野郎に全部ぶっ壊されるのは、それ以上に許せねぇ!
「くそったれし……! てめぇを犠牲にしてなんぞガマンできるかし!」
「そういうなよ。バルディマス様の無念晴らせず終わりたかねぇだろ?」
「ぐっ……!」
保護者になってくれた“征閃の光竜王”バルディマスと多くの竜族が壊滅したのを、マイシは強い激情で煮えくり返っている。
それでも“力”でマリシャスに敵わないのは察している。
ここでマイシも生き延びた竜族もやられたら、それこそ無念しかない。
「てめぇに任すしかないのが悔しくてたまらないが、絶対ブッ殺しやがれし!」
「……殺すのはともかく、絶対勝ってみせる!」
「約束したからなし!」
悔しさを胸にマイシはオレの胸に拳を乗せて、その重みを感じ取る。
そして潔く身を引く。
すまねぇ……、そしてありがとな……マイシ…………!
マリシャスを前に、オレとヤマミは堂々と立ちはだかる!
「これで最期にしようぞ!!」
「ええ! 金輪際ね!」
足元に花畑を広げ、背中から羽を展開し、妖精王化。花吹雪がブワッと舞い散っていく。
手を繋ぎ合い、それぞれ片方の手を床に向けて足元に魔法陣を血で描く。それは拡大していって更に組み立てられていく。
「ほう! さてはうぬらだけ未来へ逃げるか? 術理は分かっているぞ」
笑んでいるマリシャスの言葉にアクトとリョーコは「ええっ!?」と声を上げる。
セロスたちもジャオガさんたちも戸惑った顔でこっちに注視している。
マイシは既にオレたちのやる事を察しているのか動じていない。
確かに、前は過去の十二日を統合する為に未来へ飛んだ。その応用で未来へ飛ぶ事で逃れる事もできる。
繰り返せば何度だって逃げられるし、その度に統合する自分が増えていく。
……ただし、アクトたちは一緒に連れていけないから見捨てる事になる。
「へっ! そんな気ねーよ!」
「そんな後味悪い事するワケないでしょ!」
オレたちは鼻で笑う! マリシャスは「む?」と訝しげだ。
「まぁよい! どう足掻いても逃す気はないがな! 潔く裁かれよ!」
両腕を踊らして輪を描いていく!
凄まじい赤黒いフォースが嵐のように吹きすさんで、幻獣界を席巻! 震撼がビリビリと激しさを増していく!
本当にどうしようもない圧倒的な力!!
これこそが無敵に等しい66兆6000億ッ!!
それに対抗すべき、ヤマミと一緒に足下の魔法陣を輝かせた! カッ!
「秘術『タイムマジック・インテグレーション』発動ッ!!」
途端に、万華鏡のように複数のオレとヤマミがそこらじゅうに並ぶ!!
そんな奇妙な風景に誰もが見開く! マリシャスさえも驚く!
妖精王マシュ様は汗をかきながら「……それぞれ36万5000体ですか」と呟き、アクトとリョーコはハッと察した!
セロスもワナワナ唇を震わせる。ラルゴも唖然。
クーレロとマブポルトは驚きに満ちている。
マイシは苦い顔で汗をかいたまま「やはりかし……」と舌打ち。
「一年の日数は365日! すなわち、この数を意味するのは……!」
「ああ!! これから先を生きるであろう千年分の未来を、今日へ統合する!!」
誰もが驚愕した!!
そう、この秘術は過去を統合するだけではない! 未来を先取りして統合もできるんだ!
妖精王だから千年以上は生きれる! その年数を今日につぎ込んだぞ!
だが…………!
「ナッセ……!? ヤマ…………!!」
クックさんは泣きそうになってオレの腰をグイグイ引っ張った。
オレは「すまねぇ……! こんな不甲斐ない男でさ……」と申し訳なく言うが、クックさんはブンブン首を振る。
涙があふれ「ナッセだいすき……! ヤマも……!」と泣きじゃくる。
スススススッと数十万もの自分自身がオレたちへ集まり始めた。
それらは全て映像のように、アクトたちをすり抜けていく。そんな不思議な現象にセロスもジャオガもみんな呆然とする。
数多あるナッセとヤマミは、これから先の未来の姿なのだろう。
「未来の先取り……、まさかこんな事が可能なのか……?」
「確かにそれぞれ微妙に姿が違う! 本当に未来のっ!!」
「し……信じられない!」
ジャオガもみんなも驚き戸惑っている……。
リョーコはハッとして、アクトへ恐る恐る振り向くと頷いてくる。
「前の秘術では十二日間消えていたけど……、今度は…………!?」
「あァ……今回ばかりは…………」
以前は十二日分の過去を統合する代償として、その日数だけ存在ごと消滅していた。
その代償は、対象が未来であっても変わらない。
千年分の未来を先取りする……、これはすなわちこの先、その分の時間だけ存在ごと消える事を意味する!
「もう永遠に会えねェだろうなァ…………」
アクトは観念して首を振り、リョーコも「そんな……!」と狼狽える。
クックさんは大粒の涙をながし続け、肩を震わせて嗚咽しながら……!
「やめ……て…………! いい子に……する…………から…………!」
誰もが呆然するしかなく、数十万ものナッセとヤマミが重なり続けていってようやく一人へ収まりきる。ススス……ッ!
ひっくひっく、泣きじゃくるクックさんへ儚げに微笑むしかない。
本当に……すまねぇ………………! だけどな…………!
「未来への道は必ずオレたちが守ってみせるから!」
「ええ! 私たちの未来を犠牲にしてでも……!」
ティオス先輩は「ちょっ待て待てっ!! 会うのはいつになるんだっ!?」と慌てふためく!
そう再び会えるのは今から千年後になる…………。
その頃アクトとリョーコはいない。
セロスもティオス先輩もみんな等しく、人としての天寿を全うしている。
そして長寿となる妖精王のクックさんは数百年を一人で…………。
「いやだ────────────────────っ!!!!」
クックさんの慟哭も虚しく、眩い閃光が辺りを覆い尽くした……!
あとがき雑談w
パヤッチ「……悲しいくらい同じだな。いつかこうなるとは思ってたが」
マロハー「うん。でも、もどかしいかな…………」
次話『千年後のナッセとヤマミとは……!?』




