1話「ナッセとヤマミ 異世界の王国へ!!」
戦々恐々と暗雲渦巻く空の下、魔法陣を描くかのような六芒星に引いた城壁が特徴の大魔法都市であるライトミア王国の城門前!
おびただしい魔族の大軍隊が沈黙していた。
そして王国側で陣取る騎士、傭兵、冒険者、多種多様なクラスの人間までもが沈黙。
いずれも百戦錬磨の精鋭となる猛者。重厚な沈黙でもって眼前の決戦を見守っていた。
「ついに始まる……!!」
オレはヤマミと一緒に王国側で目の前の決戦を注目していた。
────勇者セロス 対 魔王ジャオガ!!
セロスは威風堂々とマントを靡かせ、額の煌びやかな頭輪、逆立った黒い髪、精悍とした真っ直ぐな目。そして手に携えるは聖剣エクスセイバー!!
腰を低くし、握りかけの無手を前に、握る聖剣を後方に構え、噴き上げる眩いフォースが猛々しく吠えた。
「オレが来たからに戦乱の悲劇はここで潰える!! この正義の剣の元で!!」
対するジャオガは黒いマントを靡かせ、紋様が全身に走ったガタイ体格、額と両こめかみにそれぞれ伸びる魔のツノ、戦闘狂に濁る黒い目。握るは拳!!
覇王としての威厳と、直立不動で邪気に満ちた黒いフォースが燃え上がって昂ぶった。
「余が闊歩する限り昂ぶる闘争は絶えんよ……! この暴焔の拳の元で!!」
パシィィィ……ンッ!!
二人の分かり合える事のない主張! 生じる戦意の稲光!! 一触即発に爆ぜる善悪の信念!!!
急激に大地が振動に覆われ、その唸り声が響き渡る!
彼らのフォースがスパークを伴って、足元の岩盤が旋風と共に爆ぜ飛んでいく!!!
「“暴焔の魔王”ジャオガ!!!」「“聖雷の勇者”セロス!!!」
互い地を蹴って大地が爆発し、同時に勇者の聖剣と魔王の拳が激突!!!
それだけで爆発球が余波として膨れ上がった。
ズドオオォォォォオン!!!
その暇に、勇者セロスと魔王ジャオガは大空を駆け抜け、数百数千と激突を重ね続け轟音を置き去りに衝撃の花火を咲かせ続けていた。
互い命の奪い合いで最善手を繰り出すも、互い見事に捌き、致命を避け続ける。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
勇者セロスと魔王ジャオガの重なる裂帛の咆哮!!
剣戟、剣戟、剣戟、剣戟、幾度も煌く太刀筋が縦横無尽に紡がれ、対する無骨な拳が乱雑に殴打、殴打、殴打、殴打!!!!!
わずか数分しか経っていない決戦に、人間魔族の猛者は最高潮の興奮で見守る。
観戦する猛者に混ざって、思わず「スゲェ!!」と興奮に滾っていた。
本物の勇者セロスと魔王ジャオガの激戦に気持ちが高揚し、燃え上がっていく。そして沸く感激。
「ふふっ、夢中になっちゃって……」
熱くなるナッセの側で、ヤマミは対照的に落ち着いていた。
ナッセは男だ。強さに憧れるのも男の行持。でも、そういうひたむきな純真さの彼がヤマミは好きだった。
だから常に側にいて、同じ視線で決戦の行方を見守る。
交わされた聖剣と拳から塗れた血が飛散する!
互い、仕損じた数手で傷を負い蓄積させ、死への暗闇へ徐々に徐々にと沈んでゆく最中!
全てを決する最後の一撃を放つべき、勇者セロスと魔王ジャオガの目がカッと見開く!!
「エクス・ゴッドヘヴン!!」
十字の光に裂く大空より聖なる雷が轟々と聖剣に誘われ、爆ぜる稲光と共に力強く刀身に迸り────!!
「獄・冥黒炎!!」
渦穴浮かぶ大空より禍々しい黒い太陽が魔王へ誘われ、爆ぜる黒炎の息吹と共に全身を包み────!!
「ヘヴン・フィニッシュ!!!」
「ダイナスト・ロード!!」
稲妻を撒き散らしながら突進する勇者セロスと、黒炎の飛び火を撒き散らしながら突進する魔王ジャオガが鬼気迫る表情で渾身の一撃を振るい合う!!!
「おおおおおおおおおおおッッ!!!」
最終決戦と互い最高の技を全身全霊ぶつけ合おうとする最高潮に、オレは興奮して立ち上がった!
ガッッ!!!!
最大最強の激突で、爆ぜた白光に全ては包まれた────────!
────────時は遡る。
異世界!!
広大な青空を白い雲がたゆたう!
空に悠然と巨大な大陸が雲に覆われながら浮かび、雲海の下に更に広い浮遊大陸が広がっていて、更に更にその下では雲海で霞む大海原と大陸!
そんな壮大な不思議な世界にオレは目をキラキラせずにいられなかった!
「これが待望の異世界かっ!! そして『惑星ロープスレイ』だーっ!!!」
列車の窓から上半身を乗り出したオレは興奮しながら、見た事もないような光景にはしゃいだ。
ヤマミは「そうね。ついに来たわ」と、持参していた本を読みながら優しく笑んだ。
共に同じ席。オレは窓側! 窓側!! ここポイント!
広大な大陸を白い線路を走る列車は、オレたちのいた世界とは全く異なってて魔法力で駆動する魔導列車だ。
枕木を並べた鉄のレールみたいな馴染みの線路はこの異世界には存在しない。
が、列車は自ら刻印型の線路を機体前に敷き続けて走行を可能にしていた。敷かれた光の線路は機体後でかき消えていく為、自由に路線を敷いて各国へ連絡できていたのだ。
「……これから行くのは、各国とも繋がる大国────、通称『光のライトミア王国』。まずそこからね」
「おうよ! いつ着くかなぁ!!」
「三日後」
冷静なヤマミの答えに、オレは「そっかぁ~」とヘナヘナ席にへばりついた。
「私がいる。退屈させないわ」
────────広がる最大級の浮遊大陸。
いくつかの大きな湖と連なる山脈。大部分を瑞々しい緑が覆う。空を鳥の群衆が羽ばたく。
その中でちょこんと二重の円形の城壁で囲う国が湖の近くで建っていた。
ちょこんと単語を使ったが、自然と比べるには小さすぎての事。実際はかなり広大で、多くの数え切れない住宅が並び、中心部に城が高く聳えていた。
囲む二つの内、内側の城壁は六芒星魔法陣のように、国内にも城壁が走っていて頑強さを感じさせた。
魔導列車は高々と聳える城壁に空いている出入り口へ入っていって、真っ暗なトンネルを通って行くと速度を徐々に落としていく。止まる頃には、神々しく広い空間の駅構内ホールが視界に入ったぞ。
「うわぁ~~!」
「いいから降りましょ」
呆然とするオレを引っ張ってヤマミは下車を催促する。
あちこち見渡して、見た事のない光景に興奮冷めやらぬだ。多くの人々には普段見てきたものとは違い、獣人やエルフドワーフなど見慣れぬ種族がいる。
改札口に切符を入れて通り過ぎた。そして複数並ぶ売店と飲食店、道には観葉植物とベンチが等間隔に並ぶ。
「すっげぇ!!」
「うん、凄い……。アメリカともドイツとも全く違う……」
ヤマミの言う通り、これまで行ってきた国とも違う。スゲー!
……って思わずガキみてーにはしゃいぢまったな。でも見る物珍しくてワクワクが止まらないんだもん。
城壁から突き出ている駅を出ると、そこは中世ヨーロッパ風味の豪勢な都市光景だった。
これが……異世界の都市『光のライトミア王国』か!
建物こそ中世ヨーロッパの洋館拵えだが、近代の技術で再現されたかのような洗練さが窺えた。
そして城まで直結しているような大きな道路の中心を高架橋みたいな拵えの国内城壁が走っていた。これは六芒星描く城壁の一部だろう。
小さな馬の形をした浮遊物に引かれて走る馬車が時折、通り過ぎていく。
見るもの全てが珍しいので「あっ!」「おおっ!」とつい漏らしてしまう。
飲食店でも、見た事のない美味しそうな料理が運ばれて目を輝かせた。肉、サラダ、穀物、初めての味に感激までした。
カレーみたいなのもあって、とろけるような味がクセになる。
「異世界と私たちの世界が融合しかけている影響で言語と食事情が通じるのは助かるわ……」とヤマミがボソッと!
ゲームでしかお目にかかれない武器防具の本物の店は、どことなく重厚な雰囲気がした。
職人っぽいヒゲもじゃのオッサンが店番してて、そこら中には剣や槍や盾や鎧なにやらが並んでて、様々な装飾や形状に目が惹かれた。
魔法具の装飾店! いかにもな魔法帽の店員がいて、様々なアクセサリーが並べられていた。きっと魔法の効果付加されてんだろうな。
本屋! 真ん中が最上階まで突き抜けた空間の構造。様々な本が並ぶ本棚に埋まっていて、異世界特有の文字で書かれていた。なんでか読める。中には絵が立体映像となって再生されるのもある。
ペットショップ! 猫、犬、カエル、蛇、トカゲ、フクロウ、種類は豊富だ。中には人語をしゃべる動物もいた。……あ、獣人の店員だ。わりぃごめん。
片っ端から散策していたら夕日で微かに橙に染まった風景を目の辺りにした。心なしか昼では賑わっていた人々は少なくなっていた。
伸びた影が横切る涼しい道をしみじみと黄昏るように歩いていく。
高台へ登ると、眼下に住宅が並ぶ広大な町並と遠くで囲む城壁、そして近くに海かと思える湖。高い山も聳えている。大空は明るく橙に滲んでいて、大きな太陽が地平線へ沈もうとしていた。
「これが本物の異世界の風景!!」
そんな一望に思わず感嘆を漏らしたぞ。
「異世界へ行く夢は叶った……。そして今度は、尊敬している憧れの師匠のようにたくさん冒険していきたいんだ!!」
「ふふ、楽しそうだね」
「おう! ヤマミ! 一緒に行こうぜ!」
オレは誘いの手を差し伸ばして快く笑う。ヤマミは微笑んで「うん」と頷いた。
そして寄り添ったまま、沈む太陽を見送る……。
あとがき雑談w
ナッセ「はー、いよいよハイファンタジー始まるけど……」
ヤマミ「あら? 楽しみにしてたんじゃないの?」
ナッセ「本当は親友のリョーコと相棒のアクトも来て欲しかったなって思う」
ヤマミは頬を膨らまして、ナッセの腕に抱きついて胸がプニッと!
ヤマミ「本音を言うと二人きりがいい……////」
ナッセ「//////」(照)
次話『ついに異世界だが、そこでも不穏な魔の手が……?』