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出会いと日常、逃避行

誰からも愛を貰えない音葉と、そんな不遇な音葉が気になって仕方ないシズク。

生きることがあまり得意ではない2人が寄り添って生きていこうとする、そんなお話。

愛されていない自覚はあった。兄と弟は両親に可愛がられているのに、私は両親から暴力を振るわれる。

学校では殴られた時にできた痣を見られ、気味が悪いといじめられるようになった。

どこにも居場所はなく、毎日学校の屋上に逃げるように足を運んだ。

「はじめまして。」

ある日、女子生徒が私に話しかけてきた。

「…っ、ぁ…は、はじ、めまし、て…」

長らく他人と話せなかった私は、挨拶すら上手くできなかった。恥ずかしくて俯いていると、その人は私に話題を振った。

「ねぇ、君さ、私の家にこない?」「えっ……」

それは願ってもない提案だった。私はこの生活から抜け出したかったのだ。

「うちにおいでよ!あ、でもうち貧乏だから何もしてあげられないかもだけど……」

私の家庭環境を知っているのか、その人は申し訳なさそうに言った。それでも、嬉しかった。こんな私にも手を差し伸べてくれる人が居ることに安心して泣き出してしまった。

「大丈夫、大丈夫だよ。」

優しく頭を撫でられながら家まで連れていってくれた。

それからというもの、彼女はよく家に呼んでくれた。

帰りが遅くなると両親は怒り、暴力もいつもより酷くなる。それでも彼女と一緒にいる時間は何物にも代え難いものだった。彼女はシズクという名前で、とても綺麗だと思った。

幸せな日々が続いた。このままずっと続けばいいと思っていた。あの日が来るまでは…… 私が中学3年生になった頃、両親が離婚することになった。理由はよくある浮気だ。母さんが言った。

「…あんたのせいよ。あんたが言う事聞かないから、私が責められて、離婚になったのよ。あんたなんて、産まなきゃ良かった。」……わかっていた。全部知っていたんだ。知っていても、知らないふりをした。だって、本当のことを言えばまた殴られるかもしれないし、否定されるかもしれなかったから……。

「……ごめんなさい……ごめんな……さい……」

謝ってもどうしようも無いことは分かっていたけど、言わずにはいられなかった。それでも親権は母さんのもので、私は母さんに引き取られることになった。新しい父さんはあまり良い人ではなかった。母さんとの間に子供ができたらしく、その子ばかり可愛がり、私には冷たかった。

とにかく母さんは私が憎かったようで、高校にあがる頃には家から出してもらえなくなった。シズクとはもちろん連絡なんて取れなかった。もうきっと、私のことなんて忘れてしまっているだろう。そう思っていた。

そんなある日のことだった。

「すいませーん…誰もいない…?音葉も、いないのかな…」

玄関の方から女の子の声が聞こえてきた。誰だろうか。リビングにいた私は急いで部屋に戻った。そして、部屋の隅に隠れていた。見つかったら何を言われるかわからない。怖い。嫌だ。

ガチャッという音がすると同時にドアが開かれた。鍵を閉めずに出ていった家族はなんと不用心なのだろう。

「うわ、開いちゃった…。音葉…?音葉いないの?」

小声だが、聞き覚えのある声。それは紛れもなくシズクの声だった。

「……シ、ズク……?」

恐る恐る顔を出すとそこには確かにシズクがいた。

「音葉!ああ良かった!まだ生きてた…!良かった、良かった…!」

シズクは心底嬉しそうな顔をして私に抱きついてきた。ぎゅうっと抱きしめられ、久しぶりに人の温もりを感じた。優しく頭を撫でられ、今まで感じたことの無いような多幸感に包まれた。

ここはいつ両親が帰ってくるか分からないから危ない、とシズクの家に行くことになった。


シズクの家に行く道中、私は彼女に色々質問した。なぜあんなに優しかったのか、どうして私なんかに手を差し伸べてくれたのか、等など。

シズクは少し考えて、恥ずかしそうに笑って言った。

「…理由があった方が良かったかな?」

***

「学校に来なくなって、本当に心配だった。」

シズクが、私の傷の手当をしながら話す。

「中学の時からずっと、音葉は無理してるようだったから、」

「……」

「でも、今日会えてよかった。」

「……」

「ねえ、これからはさ、一緒に暮らさない?」

「えっ……」

「私、一人暮らし始めたんだよね。」

「……」

「うち広いし、音葉の部屋もあるよ。」「でも、迷惑じゃ」

「全然!むしろ大歓迎だよ!!」

「……」

「ね、一緒に住まない?」

「いいの……?私、邪魔じゃない……?」

「邪魔なわけ無いじゃん!それに、」

「?」

「1人増えるくらい変わらないよ。」

「……うん!ありがとう……」

こうして、私はシズクの家に居候させてもらうこととなった。

シズクとの生活はとても楽しかった。

「おはよう、音葉」

「あ、シズク、おはよう」

「朝ごはんできてるから、早く食べよう!」

「いつもありがと、シズク」

「いいよいいよ〜、それよりほっぺについてるよ〜」

「え、どこ?」

「違う逆、反対だよ。こっち」

「ん、ごめん……」

「……可愛い」ボソッ こんなふうに、シズクはすごく世話焼きだ。


***

ある時、シズクに聞かれた。

「誕生日はいつ?」

「えっ?た、誕生日…?」

「そう、誕生日。そういえば、音葉の誕生日知らないなーって思って!お祝いもしたいし」

ドッ、と全身から冷や汗が吹き出すのを感じた。

前の誕生日に、お祝いして貰えないのが寂しくて「今日は私の誕生日だよ」って言った時、両親から「どうして産まれたのか」とずっと問い詰められた。両親は不機嫌になり、殴られたり蹴られたり、熱湯をかけられたりと本当に散々な思いをした。誕生日とは普通、お祝いをするものでは無いのか。学校に通っていた頃にクラスの子達が「プレゼントを貰った」と嬉しそうに話していたのを見て、そういうものだと思っていたのに。自分は産まれたことを疎まれていたことを思い知らされただけだった。

「お、お祝いって…なにするの…?」

「そりゃあ、ケーキ食べたり、プレゼント渡したり、産まれてきてくれてありがとうって伝えたり…って、改めて口にするの恥ずかしいな…」シズクは顔を赤らめてモジモジしている。

「そ、それならやめたほうがいいと思うの。私は別に、シズクに祝ってもらわなくても大丈夫だから。……シズクは優しいね。わざわざそんなことしてくれなくても、いいんだよ?」

シズクに気を使わせてしまった。申し訳ない。

「えぇ!?なんで!!私がやりたいからやるだけなのに!」

「ふふ、ありがと、シズク。」

「……今絶対変なこと考えてるでしょ。」

「どうだろうね」

「もう……じゃあ、代わりに音葉のお願い聞いてあげる。何かして欲しいこととかある?」

「…頭を……な、撫でて欲しい…かな…」

顔が熱くなるのを感じた。幼稚なお願いのようで、笑われたらどうしようと、途端に恥ずかしくなった。

「そんなことでいいの?」

キョトンとした顔でシズクが言う。

「そんなこと…って言われても…私、シズクに頭を撫でられるのがすごく嬉しいの。なんだか大切にされてるなって感じるし、気持ちよくて、幸せになるから」「……」

「それに、私はほら、両親があんなだから、頭なんて滅多に撫でて貰えないし…」

「……分かった。」

「えっ……」

「そんなに喜んでくれるなら、いくらでも撫でてあげるよ。」

「う、うん……ありがとう……」

「あと、もう一つ欲しいものがあるんだけど…」

「えっ?なになに!?」

「抱きしめて欲しいなっ…て…いや、やっぱりなし!忘れて!」「えっ……?」

「ごめん、今の無し!何でも無いから!!」

「……」

「……ダメ?」

「……うん、いいよ。おいで?」

「……」

私はシズクの胸に抱きついた。シズクの匂いに包まれると、とても安心できた。「音葉、震えてるけど……大丈夫?嫌だった……?」

「ち、違うの……こんなに幸せでいいのかなって……」

「いいに決まってるじゃん!」

そう言って、私の体をぎゅっと強く抱きしめてくれた。


***

それから、私は毎日のようにシズクに甘えた。

シズクに頭を撫でてもらうと、幸せな気分になれた。

シズクの胸の中で眠ると、心が満たされた。

こんな生活がいつまでも続けば良いのに、と思った。

だが、それは叶わなかった。

ある日、いつも通りご飯を食べていた時のことだ。

ピンポーン 玄関のチャイムが鳴った。

こんな時間に誰だろうかと思い、ドアを開けると、そこには血だらけの男性が立っていた。

男性の顔には見覚えがあった。……確か、私の父親だ。

父は私を見ると、気味の悪い薄笑いを浮かべた。

そして、いきなり包丁を取り出した。

それを振り上げ、勢い良く下ろした。

その瞬間、目の前にいたはずのシズクは消えていて、変わりに私の前には父の身体が落ちてきた。

父を刺したのは、他でもないシズクだ。

シズクは父が持っていた包丁を奪い取り、背負い投げをして、父を気絶させた。

私は怖くて、声が出なかった。

すると、シズクは私を抱き寄せ、耳元で囁いた。

ーー音葉は私が守るから。

そうして、シズクは私を連れて家を飛び出した。

行き先は分からない。

ただ、シズクについて行くしかなかった。

シズクは私をどこかに連れて行きたかったのかもしれない。

車を走らせること2時間ほど。

ようやく目的地に着いたようだった。

そこは海が見える崖の上だった。

辺り一面真っ暗だったが、空を見上げると満天の星が広がっていた。

思わず息を飲むほどの美しさだった。

シズクが一歩踏み出す。

どうやらここが終着点のようだ。世界の果てがあると言うなら、きっとここだろうと思うほどの静けさと、美しさだった。

「もう、大丈夫。」

これが最後の、シズクとの思い出になるとしても。

「音葉?どうしたの…?」

「……ない。」

「え?」「シズクに、迷惑、かけられないから」

例え両親にどんな仕打ちを受けるとしても。

「迷惑ってなに?」

「父さん、シズクの家まで来て、包丁…持ってさ。一歩間違えたら、殺されてたんだよ?」

声が震える。自分はどうなったって構わない。けれどシズクが死んでしまうなんて考えたくもなかった。

「また、あんなことがあったら…私が、シズクの家にいたから、迷惑ってレベルじゃない、だから、私はあの家に戻るよ。だから、大丈夫。シズクが、危ない目に合うことも無くなるから。」

「…音葉、だれも、私たちのことを知らない場所へ行こう。そこでさ、新しい生活を始めようよ。」


シズク視点。

音葉の囁くような小さな声は震えていた。今にも泣き出しそうな、縋るような声だった。

「私はあの家に戻るよ。だから、大丈夫。シズクが、危ない目に合うことも無くなるから。」

どうして。どうしてなんだ音葉。どうしてそうやって、自分のことは二の次なんだ。辛かったろう、苦しかったろう。感情のない道具のような扱いを受けて、だれも大切にしてくれなくて、傷つけられて。

それなのに、私が危ないからってあの家に戻ろうとするなんて。

海のさざめきと、小さなすすり泣く声が聞こえた。

ほら、やっぱり怖いんじゃないか。ああもう、私は音葉に、自分のことを大事にして欲しいのに。


「…音葉、だれも、私たちのことを知らない場所へ行こう。そこでさ、新しい生活を始めようよ。」


私は音葉に近づいて、そっと抱きしめた。

音葉が肩に顔を埋める。

そして、今まで聞いたことがないくらい大きな声で泣いた。

私は音葉が泣き止むまで、音葉を強く抱きしめ続けていた。


* * *

しばらくすると、落ち着いたのか、ゆっくりと顔を離した。

「ごめんね……急に泣いて……」

「ううん……大丈夫だよ。……ねぇ音葉、これからのことを考えよう。」

「……そうだよね……でも私……シズクに迷惑かけてばかりで何もできないから……一緒にいても足手まといにしかならないし……私なんかいない方がマシかなって思うの。」

そんなことない。

「違う!それは全然違う!」

つい声を荒げてしまった。

「……っ!?︎」

「あっ、いや、私だって音葉に助けられたことあるんだよ?ご飯とか洗濯物畳んでくれたりして、本当に助かってる。だから、自分のことをそういう風に思わないで欲しいかな。」


まだまだ続きます。

後日談も前日談も、単発でも書きたいものはたくさんあるのでお楽しみに!

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