⑤おしまい・感想戦
最後の勝負は、中華の勝利に終わった。
迫りくる中華の強力なマモノ軍団に、メガネの陣営は耐え切れなかった。
「やったー!! 勝ったぞー!!」
「惜しかった。こうやって山札をめくってみれば、一番上の方に強力なカードが集中していた。もう少し勝負が長引けばこのカードを引くことも出来たのだが、短期決戦を仕掛けた中華の判断は正解だったということか」
これにて、今回のゲームは終了。
さっそくゲーマーは、他の三人に声をかけてみる。
「それで……どうだった? 今回の特別ルール」
「まぁ、なんつーか、アレだな。やっぱり普通に遊ぶのが一番楽しいと思うね、オレは」
「ですよねー」
不良の言葉に、何とも言えない表情で同調するゲーマー。
実際、勝つことを期待されていないデッキで勝つというのは、ゲーマーの想像以上に苦労した。
一方、メガネはこんな意見を述べる。
「俺としては、普段は絶対に作らないようなデッキを、他人に使わせることが出来るというのは、中々に面白かった。気に入ったぞ俺は」
「ロクでもない人に気に入られてしまった」
そして中華は、最終戦績としては全勝ということもあってか、上機嫌な様子である。
「普通のルールにせよ、今回のルールにせよ、ボクは楽しかったよ! またいつかみんなで遊びたい!」
「気に入ってもらえたようでなにより。今度は自分でカードを買ってデッキを作ると良いよ。そして普通に対戦しよう」
「わかった! ところで、トレーディングカードってどこで売ってるのかな? スーパーマーケットとか?」
「スーパーマーケットには、なかなか置いてないかなぁ……」
無邪気に聞いてくる中華に「まずはそこからか」と、少し遠い目をするゲーマーであった。
「……さて、それじゃあ、遊んだ後はお片付けです。まずはゲーム中に使用したダメージカウンターを回収したいと思います」
ゲーマーが切り出す。
ちなみにダメージカウンターとは、試合中にマモノがどれくらいのダメージを負ったか、分かりやすくするための目印である。この概念は他のカードゲームにも多く採用されていて、専用のアクセサリが用意されているゲームもある。
今回、ゲーマーたちはダメージカウンターに、ゲーマーが用意した一円玉を採用した。マモノカードが1ダメージを受けたら、そのカードの上に一円玉を乗せる、といった具合で使用していたのである。
皆が一円玉をかき集め、ゲーマーに渡す。
ゲーマーは念のため、集められた一円玉の数を数えてみる。
「……あれ? おかしいな、どう数えても20枚くらい足りない」
「先に断っとくが、オレじゃねぇぞ」
「ぼ、ボクも盗ってないよ!? ホントだよ!」
二人の言葉を受けたゲーマーは、残ったメガネをジッと見つめる。
「まぁ待て。俺でもないかもしれないぞ。そも、たったの二十円のために他人の金を盗るなどというリスクを俺が犯すなど」
「じゃあメガネさん。ジャンプしてください」
「良いだろう。耳を澄ませておけ」
そう言ってメガネが立ち上がり、その場でピョンピョンとジャンプする。
彼のポケットから、チリンチリンと音がした。
「…………。」
ゴミを見る目でメガネを見つめるゲーマー。
たかが二十円。されど二十円。
「まぁ待つが良い。これにはやむにやまれぬ事情がある。家で妹が腹を空かせて待っているのだ。俺たちは明日の食事にありつけるかも分からぬ身。今日のさばぬかを確保するためにも、仕方のないことだったのだ」
「アンタお医者さんの息子でしょうが! 騙されませんよ!」
その後、ゲーマーはメガネから一円玉を取り返し、ツッコミ待ちのために一円玉を隠していたメガネは無事に本懐を遂げた。今日も地球は混沌です。