③いざ試合・前半
中華とメガネのデッキ作成が終わり、いよいよ試合へ。
ゲーマーが中華の、不良がメガネのデッキを使い、対峙する。
おさらいだが、デッキ作成者は自分のデッキが負けたら勝ち。
そして対戦者は、従来のルールの通り試合に勝てば勝ちである。
「それじゃあ、対戦よろしくお願いしまーす」
「ぶちのめしてやるから覚悟しやがれクソゲーマー」
「あいさつくらい普通に返してくれ」
「二度とカードゲームができない身体にしてやる」
「お前、お願いだから直接殴りかかってくるとかはナシで頼むよ?」
殺意満点のあいさつを返してくる不良に、呆れた表情を向けるゲーマー。刺々しい不良の態度もゲーマーにとってはいつものことなので、あまり気にしない。
さて、ゲーマーと不良は、お互いのパートナーがどんなデッキを作成したか、まだ知らない。ルールのため事前に確認することができないのだ。試合の中でどんなデッキなのかを見極め、デッキ作成者が練り込んだであろう負けパターンに嵌らないように注意しなければならない。
山札から五枚の手札を取るゲーマーと不良。
百円玉コイントスの結果、先攻はゲーマーに。
メガネと中華が見守る中、試合開始である。
さっそく手札を確認するゲーマー。
(あ、やべぇ、星の牙カードしかねぇ)
星の牙カードは、前回でも説明したとおり、このカードゲームにおいては高コストなパワーカード&進化カードの役割を兼任している。序盤から手札に来ても、高コストであるためとてもバトルフィールドに出すことはできない。
(この中で要らない子は……とりあえず『氷爪獣・アイスベアー』をコストゾーンに送ってターン終了だな)
ゲーマーは自身のターン終了を伝え、不良に次のターンを譲る。
そんな不良の手札だが、これまた随分と偏っている。
(なんじゃこりゃ……異能カードしかねぇぞ……)
異能カードは、いわゆる「呪文カード」に相当するカードである。フィールドに出すことで即座に、様々な効果を発揮する。しかし基本的に、序盤のうちは何らかのマモノカードをフィールドに出して、戦いの準備をしておきたいところである。
(まぁ仕方ねぇ……。とりあえず『地面液状化』をコストゾーンに送って、ターン終了にするか)
お互い、手札に恵まれないスタートを切った。
それから試合は少し進行して、現在は5ターン目。
ゲーマーのフィールドには現在、星の牙カード『爆塵竜・フレアマイトドラグ』が一体。コストゾーンに『猛牛・ブルホーン』などコストが+2されるマモノを送ることができて、この高いコストを誇る星の牙カードを5ターン目にしてフィールドに出すことに成功。ゲーマーのライフもまだ潤沢である。
一方の不良のフィールドには、相変わらず一体のマモノも星の牙も出ていない。コストゾーンにも高いコストを得られるカードを送ることができていない。ライフも少しずつ削られてきた。手札だけはそれなりに余裕があるが。
ゲーマーも不良も、早くもそれぞれ気付き始めていた。
自身のパートナーが組み上げた、このネタデッキの特色に。
「なぁ中華。お前これ、デカくて強そうなマモノや星の牙カードばかり入れたろ? 俺の手札、メンツがどいつもこいつもゴツ過ぎるんだけど。コストもクッソ重いし」
「あ、バレた? ボクから見て強そうでカッコイイと思ったカードばかり入れたよ。そしたら自然と、大きくてゴツいマモノばかりになっちゃった」
「なるほど……作成者の小ささとは正反対になってしまったワケか……」
「いまボクのこと小さいって言った!?」
「空耳だよ」
「たしかに聞こえたよ!?」
一見すると、中華が作ったデッキは、それなりに使えそうな感じではある。少ないながらも低コストのカードも入っており、戦えないことはない。……しかし。
「異能カードが全く来ない……。ひたすらマモノを出すだけの作業だな……」
そう。中華はデカくて強いマモノカードばかり入れたため、呪文に相当する「異能カード」を全く入れていないのである。
異能カードは相手のマモノの除去や手札の補充など様々な効果を持っており、他のカードとの組み合わせ次第では一発逆転も狙うことができる重要なカード。それが一つもないとなると、それはそれでかなり苦しい。
事実、ゲーマーは異能カードの効果による手札補充などができず、手札が枯渇しかけていた。初心者がやりがちな失敗デッキ構築を、中華は図らずしも盛り込んでいたのである。
「……とはいえ、こちらには星の牙カードが一体出ている。さぁ不良、そっちのターンだぞ。この盤面、切り抜けられるかー?」
「ナメんな。まずは山札から一枚引いて……お、いいタイミングで来やがったな。異能カード『天から降り注ぐ水柱』を使用だ。相手のマモノ一体に5ダメージ。対象のマモノが火属性なら、与えるダメージは+5だ」
「ほぎゃあああああせっかく出したフレアマイトドラグがぁぁぁぁ」
これで盤面は再びまっさらに。
不良もコストを使い切ったので、ターン終了である。
相変わらず一体のマモノも場に出せない不良。
手札を見れば、すがすがしいくらいに異能カードばかり。
マモノカードばかりなゲーマーとは対照的である。
そして不良は、呆れた表情をしながらメガネに声をかけた。
「なぁメガネ……。このデッキ、マモノカードはいつ出てくるんだ……?」
「さてな。なにせ一枚しか入れていないのでな」
「一枚って、おま……。じゃあやっぱり、お前が作ったこのデッキは……」
「異能カードばっかりデッキ」
「このクソ野郎……ふざけたデッキよこしやがって……」
「不良、魔法使いに転職するってよ」
「しねぇよバカ」
異能カードにも、相手プレイヤーに直接ダメージを与えることができるカードは多い。そのため、上手くやればこのデッキでも勝てないことはない。だがやはり、フィールドに出せるマモノカードがほぼ一枚も無いのは辛いものがある。
それから次のターン、ゲーマーが新たに星の牙カード『将狼・ジェネラルウルフ』をフィールドに出す。
「このカードが場に出た時、手札に『傭兵狼・マーシナリーウルフ』があるなら、好きなだけ同時にフィールドに出してもいい……んだけど、一枚も無いんだよなぁ」
「そもそもボク、マーシナリーウルフ入れてないもんね」
「ジェネラルウルフをデッキに入れた意味よ……」
ゲーマーがターンを終了し、次は不良のターン。
どうせ次も異能カードが来るぞと思いつつ、山札からカードを一枚引く。
「……お? 一枚しかないっていうマモノカードが来やがった。これでどうにか盛り返して……」
……しかし、来たのは「猛牛・ブルホーン」。
少し高いライフと攻撃力、コストゾーンに送ればコスト+2。それ以外は何の特殊効果も持たない極めてノーマルなカードであった。
「お弁当だ。大食いのお前なら、牛一頭でもまぁ平らげることが可能だろう」
「『お弁当』じゃねぇんだよテメェこのクソメガネ。たった一枚のマモノカードくらい、もうちょっと使えるヤツ入れてくれよ頼むから」
それから不良は、いま引いたブルホーンをコストゾーンへ送り、所有コストを+2した。
「折角のマモノカード、場には出さないのだな」
「今さらあんな牛を出したところで、ゲーマーの高コスト軍団に押し潰されるのは目に見えてるだろ。だったらコストを増やして、いっそ異能カードだけでアイツを削りきってやる」
「そうか。しかし俺は、果たしてゲーマーのライフを削りきれるほど、ダメージを与える異能カードをデッキに入れていただろうか」
「ドチクショウめ」
それから、試合はいよいよ大詰めに差し掛かる。
現在、バトルフィールドには、ゲーマーが出したマモノカード『蒼魚・シーバイト』が二体いる。
当初は異能カードしか使えない不良が圧倒的に不利かと思われたが、良い引きと異能カードを組み合わせたコンボを連発し、ゲーマーと見事に渡り合っている。
対するゲーマーは手札の枯渇が続いており、最初の優勢はどこへやら、徐々に追い詰められてきた。
「あ、あかん。余裕の無さが露呈してきたぞ。中華のヤツ、特に意識しなくとも作成したデッキが普通に弱いから、普通に負けそうだ……」
「ぼ、ボクのデッキが負けたら、作成者のボクは勝ちなんだけれど、なんか嬉しくない……」
「と、とにかく、コストだけはそれなりに増やせたんだ。もう進化無しでも強力な星の牙カードを出せるぞ。さぁ来い! なんか強いの来い!」
祈るような気持ちで山札からカードを引くゲーマー。
引いたカードを見た瞬間、ゲーマーの顔が輝く。
そして、今しがた引いたばかりのそのカードを、さっそくフィールドへ。
「よしゃー! ここで『人鳥皇帝・ペンペラー』を呼び出す! 高いライフに加えて、相手のマモノの攻撃からプレイヤーや他のマモノを守ってくれる『守者』持ち! さらにこの星の牙が自陣にいる間、自陣の氷属性のマモノのライフと攻撃力を+2してくれる強力なカードだ!」
「……でも、不良はもうデッキにマモノカード無いから、『守者』はほとんど意味ないよね」
「言わないで」
さらに、すでにゲーマーが出していた二体の『蒼魚・シーバイト』は水属性であるため、残念ながら能力上昇効果も働かない。とはいえペンペラーは単体でも強力なカードだ。これをどうにかしなければ、不良の敗北はほぼ確実なものになる。
「さぁどうする不良! この陣形をどうにかできるのか!」
「んじゃオレのターン。ペンペラーに異能カード『女王蟻の洗脳フェロモン』を使用。コイントスを行ない、成功すれば対象のマモノカードおよび星の牙カードを自陣に引き込むことができる」
「やめろー!!」
「この異能カードは強力なぶんコストが重いが、あの時ブルホーンをコストゾーンに送ってたおかげでギリギリ足りたぜ」
その後、やや不幸体質なゲーマーはやはりコイントスに勝つことができず、主力のペンペラーを不良に引き抜かれてしまう。そして新たにペンペラーを突破できるマモノを引くこともできず、そのまま自分が呼び出したペンペラーに殴り倒されることとなった。
「ま……負けた……ゲームで不良に負けた……。俺はこれから何を希望に生きていけばいいんだ……」
「わーい! ボクのデッキが負けたー! ……ごめん、やっぱりなんか嬉しくない……」
「ったく、どうにか勝てたか……。もう二度と使うかこんなクソデッキ……」
「ふむ。俺のデッキが勝利したから、作成者の俺は敗北したのだな。少し異能カードを適当に詰め過ぎたか。もう少し弱い異能カードを盛り込むべきだった。ゲーマーが所有しているカードが少なかったから、やむを得ず数合わせで強力なカードも入れたわけだが」
「負けの要因を俺に押し付けて死体蹴りするのやめてくれませんか」
ひとまずこれで前半戦は終了。後半戦ではお互いのペアのデッキ作成役と対戦役を入れ替える。つまり、次はゲーマーと不良がデッキを組み、中華とメガネが対戦するワケである。