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第三話

「鹿島さん、だっけ?」

 猪苗代さんを探しに行く道すがら、楠木さんが私に声をかけました。先導する信濃川さんにこっそりと、小声で耳元に。


「私は楠木相花(くすのきあいか)、よろしくね」

「鹿島久留里です、よろしくお願いします」


 私たちはお互いを久留里、相花ちゃんと呼び合うように決めました。相花ちゃんは私よりも少し背が低くでかわいらしい。ポニーテールとくりくりした大きな瞳に目を惹かれます。


「信濃川さんて凄いキレイだと思わない? 生徒会長だし、お近付きに慣れてラッキーかも」

「本当にそう、羨ましいわ」


 ヒソヒソ話は耳がくすぐったい。私たちは、耳元のこそばゆさに口元が緩み、二人でクスクスと笑いました。


「図書館は旧校舎の三階にあります。旧校舎は老朽化しているところも多いけれど、それも趣深いの。私は好きだなあ」


 道すがらに信濃川さんは私たちにそう語りました。丸く滑らかになった木の柱を撫でながら、愛おしそうに。

 旧校舎、入学式の説明では築七十年にもなると説明を受けました。辺りを見回してみると、壁の塗装が剥げていたり、柱が傷付いている様が確認できます。私たちの歩行に合わせて、キシキシと床が楽しそうに歌っているようにも感じました。


「私も好きです。こういう時代を感じる建物って」


 思わず口をついて呟くと、楠さんも同調を示しました。


「私も私も! なんでいうの? 木造の暖かみを感じるというか!」

「二人にも気に入って貰えて嬉しいわ、生徒会室にも遊びに来てね」

「はい!」


 学園への楽しみが増えました。楠木さんとも仲良く出来るといいなと思います。


「寄り道しているのもよくないわね、図書室に向かわなくちゃ」

「猪苗代さんはいるでしょうか?」

「たぶん、ね。あの子はそういうところがあるから……」

「信濃川さんは猪苗代さんとお知り合いなのですか?」

「……ええ、ようく知っているわ」


 何やら含みを持ったご返答。その様子に楠木さんも目をパチクリとさせています。お二人の間柄が気になるところです。

 しかし、どこか私への()()()も含まれていたように感じます。何か失礼をしでかしたのでしょうか……大変不安な心持ちで、私は図書室を目指します。


 ***



「さて、ここが図書室です。折角来たのだから場所は覚えておいてね」


 信濃川さんが引き戸をそっと開きました、それは労わるような優しい手つきでした。本当にこの校舎へ愛着を持っていたられるのだと感じさせます。

 図書室では、春の優しい朝日が空気中の埃をきらめかせておりました。人気(ひとけ)のない静かな図書室ですが、木製の机や椅子は室内に暖かい雰囲気で溢れさせているように思えました。


 信濃川さんはツカツカと、一直線に図書室を進んで行きます。それは先ほどまでの柔和な様子から打って変わって、トゲが生えたような印象でした。


「牡丹、いるんでしょう? 入学式だっていうのに何をしてるの!」


 私と相花ちゃんは、思わず二人で目を合わせました。あの優しそうな信濃川さんが、と思わずにはいられなかったのです。


 信濃川さんは、はたと立ち止まり目線を下げます。


 視線の先には、吸い込まれる様な長い黒髪を携えた女性が、目を閉じて横になっておりました。

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