対と為す
優雅な咲ちゃんも可愛いです。
遂に、この美貌とあのドレスが輝く時が来た。
人々の視線は道を颯爽と歩く一人の少女に釘付けだった。
この世界で最も高貴な銀の髪が太陽の光を浴びて輝く様は大変美しく麗しい。そして身に纏う純白のドレスは大変美しく少女が着ると天使かの様に錯覚させる。
人々は彼女は何処の高位貴族の令嬢だろうかと、何故一人なのかと遠巻きに噂する。
少女と目があって微笑まれた何人かはもうその美貌の虜になってしまったらしい。
少女は人々の視線を物ともせずに毅然と前を向き、歩き続けた。
そして入っていった店はこの都で一番大きな宝石店。
魔石も扱う店だ。
店長は慌てた。
この店に偉い客がやってきたからだ。
流れる銀の髪が美しい高貴なる絶世の美少女。
銀の髪は王族、そして高位貴族の証。
その芳しい色香に思わず頭がクラクラした。
「お客様、何か御用でございますか。」
少女はふっと微笑むと懐から美しい白い魔石を取り出した。
その魔石を一目見て目を剥く。
最高級品の魔石、しかも聖属性の魔法。
「お父様から頂いたのだけれど、気に入らなくて……これを売りたいのだけれど。」
その言葉に店長はさらに目を剥いた。
こんなにも高品質の魔石を気に入らないからなんて理由で売るなんて。
そこで店長は愚かにも暗い笑みを浮かべた。
物の価値の分からないこの令嬢から、この魔石を安く買い叩いてやろうと。
「勿論、買取らせて頂きます。少々お待ちを。」
そう言って店長はその魔石を鑑定した。
そうしてついた値段が白金貨百枚。
だが、勿論店長はその値段で買う気はなかった。
店長は柔和に微笑んだ。
「白金貨五十枚で如何でしょう。」
その言葉に少女は笑みを深くした。
店長は内心ほくそ笑んでいたのだが、次の瞬間固まった。
今まで優しく微笑んでいた少女が唐突に睨みつけてきたからである。
「あなた、私を舐めておりますの?私が物の価値が分からない馬鹿だとでもおっしゃりたいの?」
その台詞に店長は青褪めた。
高位貴族を怒らせれば店はただでは済まない。
店長は必死で頭を下げた。
「申し訳ありません!決してその様な訳では……」
「この魔石は白金貨百枚が妥当でしょう……なのに五十枚だなんて……嗚呼、私貴方から侮辱されてはらわたが煮えくり返る様な思いを致しました。この件はお父様に報告しておきます。」
そう言って少女が店から出ようとするのを店長は必死で止めた。
「そんな!どうかお嬢様ご容赦を……」
その言葉に少女は足を止めると振り返った。
「容赦してほしいならば、まず誠意を見せるのが先ではなくて?」
「その魔石を白金貨百三十枚で買い取らせて頂きます!」
これでどうでしょう、とでも言いたげな店長を他所に少女は言い放った。
「足りませんわ。」
「……は?」
「白金貨百五十枚で手を打ってあげますわ。」
思わぬ少女の言葉に店長は呆然とするも、これで店が守れるのならと渋々頷いた。
「わ、分かりました。白金貨百五十枚で買取らせて頂きます。」
その台詞に少女……もとい咲は美しい笑みを浮かべた。
少女は大量の白金貨をマジックボックスに入れると颯爽と店を出ていった。
咲は内心小躍りしたい気持ちを抑えて、貴族令嬢の様に優雅に歩いていた。
因みにアイテムボックスはアルトが作った。
ただし、不完全な為三時間経つと魔法は消えてしまう。
だから、早く帰らなくてはと急く思いを抱え路地を急いでいたのだが、不意にした鉄の匂い……血の匂いに顔を顰めた。
咲は人一倍鼻が良い。
怪我人でもいるのかと思い、血の匂いのする方へ向かっていく。
段々と濃くなっていく血の匂いに嫌な予感を覚えながらも咲は歩いた。
そうして辿り着いた場所には、凄惨な光景が広がっていた。
血に濡れた大地、散乱する肉片と臓物と死体。
もう生者は居ないだろうと思われる中、咲は一人だけ息のある若者を見つけた。
彼は美しい黒髪を一つに纏めた青年だった。
次回も読んでくれると嬉しいです。