幸せの導
咲が可愛いです。
大好きなアルトとこれから暮らすことになった。
……内心ぐふふっな咲なのであった。
アルトと一緒に暮らせるのは嬉しいのだが、ひとつだけ気になる事があった。
『魔持ち』
その言葉にが、深く心に刺さっていたのだ。
「ねぇ、アルト『魔持ち』って何?」
その言葉にアルトはビクッと過剰な程、反応すると怯えた様な翳った目で咲を見つめた。
咲はその目を真っ直ぐ見つめると優しく語りかける。
「私は貴方のことが知りたいの。大丈夫、どんなことであってもあなたを嫌ったりしない。それに例え、私が『魔持ち』の意味を知っていたとしても絶対にあなたを救ったわ。」
推しの事は全て知りたい。
そう思うのは自然でしょ?
その言葉にアルトは瞳に光を取り戻すと、咲を見つめ返した。
そして、意を決して口を開いた。
「『魔持ち』とは瞳や髪が黒色の者たちのことです。魔族が黒色持ちなので黒色は魔のものとされ忌み嫌われて来たんです。それに黒を持つものは人並み外れた魔力や運動神経を持っている事もあって気味悪がられて来たのです。だから、『魔持ち』の奴隷を買う人なんていません。だから『魔持ち』が奴隷になったら廃棄されるだけなんです。」
アルトは悲しそうに目を伏せていた。
咲はこの時、アルトが己の容姿を褒められて悲しげに目を伏せた理由を知った。
今まで、罵られた事しかなかったのだろう。
黒髪だからという理由で。
きっと、アルトは黒を持つ己の容姿が嫌いなのだ。
自分が嫌いなものを褒められても嬉しくは無いだろう。
そして廃棄とは、殺されるということか。
幸せも知らぬままに嬲り殺されるのか。
ただ、黒を持っているというだけで人々から厭われる。
それは一体如何程の苦痛だろうか。
アルトはこちらを窺う様な視線を向けると悲しそうに言った。
「貴方も……魔持ちなんて気持ちわる……」
「今まで辛かったね。悲しかったね。でも、もう大丈夫だよ。私は貴方のこの綺麗な黒髪が大好きだから。どうかアルト……嫌いにならないで、この素敵な黒髪も紫の美しい瞳も……どうか自分自身を否定しないで。」
咲は話を遮って思い切りアルトを抱きしめ、その美しい黒髪に頬擦りした。
どうかもっと自分自身を肯定してほしい。
元々、黒髪だった咲にとってこの美しい黒髪を嫌がるなんて事絶対に無い。
ましてやそんな馬鹿馬鹿しい理由で。
そうして、咲はこの時は決意したのだ。
……私がこの子を幸せにすると。
この世界の人々がこの子を苦しめるなら、私が愛そう。
「大好きよ、アルト。」
そう言うとアルトは、また泣き出してしまった。
幼少期の彼はこんなにも泣き虫なのかと思うと自然と笑みが溢れた。
咲はアルトが泣き止むまでずっと抱きしめていた。
どうか幸せになってほしい。
世界があなたを拒絶しようと、隔絶しようと私だけはこの心をあなたに捧げ、ずっと傍に居るから。
これから生活編が始まります。
これからも読んで貰えたら嬉しいです。