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推しの愛しの幻想曲  作者: 雪斗
6/54

自由

アルトが可愛いです。

アルトと名乗った少年を、咲はじっと見つめていた。

無表情で眉根が寄っている様子は怒っている様にも見える。

だが、内心は

ーー尊い!鼻血出そう!

であった。


アルトがあたふたしているのに気付いた咲は我に返ると、ニッコリと笑った。

その笑顔にアルトが真っ赤になっているのを、咲は気付いていない。

咲の笑顔で、ある程度の人は悩殺できる。


「ごめんね!ついあなたが綺麗で見惚れちゃって!」


そう言うとアルトは悲しそうに目を伏せた。

咲は自分の思った反応と違うアルトの様子に戸惑った。


「ごめんね……何か気に障ることでも言った?」

「いえ、ご主人様は優しいなと思って。」


ご主人様、その言葉に思わず眉根が寄ってしまう。

だが、それをどう捉えたのかアルトは勢いよく頭を下げた。


「申し訳ありません!人に仕え慣れておらぬ故、ご主人様に無礼を働き、申し訳ありません。どうかお許しください。」


その必死な様子に今まで受けてきた扱いの酷さが分かる。

咲は頭を下げたまま震えているアルトの頭をそっと撫でた。

触れた瞬間ビクッと過剰に反応したが怖がらせない様に優しく優しく撫でた。


そうするとアルトも落ち着いてきたのか震えが止まった。

咲はそのままアルトの頭を撫で続けた。


「ご主人様ではなく、咲と呼んで。」


その言葉にアルトは顔を上げると驚いたのか目を見開いていた。


「……どうして、私は貴方に買われたのに。」

「確かに私はあなたを買った。だけど、あなたの主人になったつもりはないわ。あなたはあなた自身のものよ。人の所有物じゃないわ。だからあなたと契約も交わしてない。それにあなたの奴隷の印も消したわ。だから、あなたはもう何処にだっていけるの。もう自由よ。」


アルトの綺麗な頬に涙が伝う。

咲は髪を撫でていた手を頬まで下ろすと涙を拭った。


「もう、自由よ。」


その言葉を皮切りにアルトは子供らしく泣きじゃくった。

咲は優しくアルトを抱きしめて、心に寄り添っていた。














「あなたはこれからどうしたいの?」


咲は平静を装いながらそう問いかけた。

今更ながら彼女は気付いたのである。

少女漫画の物語を変えてしまったと。


内心は身悶えていた咲だったが、開き直った。

アルトが死ななくていい未来になったかもしれない、そう思い直して。


はっきり言って、主人公が王子とくっつこうがくっつまいがそれはどっちでも良い。

感動は漫画の中で味わった。

だから、もういい。


今は、アルトが幸せになればそれでいいのだ。

……咲は案外ドライなのであった。


アルトは咲を真っ直ぐ見つめると口を開いた。

確固たる意思を持った瞳で咲を見つめて。


「宜しければ、私を此処に置いてください。」


思わぬ提案に咲は面食らった。

咲としては、アルトをこれから陰ながら見守る(変態)つもりでいたのに。


「何故、私と一緒がいいの?言っておくけど、私はもうお金は持ってないし、住んでるのはこのぼろぼろの廃屋だよ?」


もしかしたらこの服装からお金持ちに見えたのかもしれない。

だとしたら訂正しておかなければ。

そう言ってもアルトは目を逸らさずに咲を見つめた。

……美しい紫の瞳に吸い込まれそうだ。


「それでもいいです。私は貴方に恩を返したいんです。」


アルトの決意を感じ取った咲は、ため息を吐きながら了承した。

内心は狂喜乱舞していたのだが。

半端に終わってすみません。

奴隷の印は聖属性の魔法を使った時に消えました。

次も読んでくれると嬉しいです。

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