番外編、切なる想い
レェティエール視点です。
……アルトの出番が少ない。
「兄さん……」
顔を隠していても私には分かった。
あの人は、大好きな兄であると。
レェティエールは涙を流した。
『レェティ……僕が必ず君を守るからね。』
そう言って、優しく笑う大好きな兄。
例え、兄が盗賊でも何であろうとも愛している。
民に襲いかかるメイベル達。
いつもなら逃げ惑うばかりの民だが、今日は武器を持っている事と領主を殺した興奮とで盗賊を迎え撃っている。
金属の擦れ合う音が周囲に響く。
幾ら強いからと言って、数十人で武器を持っているこんな大勢の人々に襲いかかるなんて無謀だ。
そんな事、賢い兄さんなら分かるだろうに……
何故なの兄さん……
そう考えて、レェティエールの脳裏に一つの仮説が浮かび上がった。
それは考えたくもない、最悪のシナリオ。
……まさか、殺されようとしているの?
悪者として、私を置いて死のうというの?
私を置いていかないで!
『あなたの兄は死ぬつもりなの……』
咲の言葉が耳の奥で反響する。
駄目よ、駄目!
レェティエールは兄の元へ駆け出した。
「レェティ!」
背後から咲の声が聞こえるがレェティエールは振り返らない。
兄を失いたくない、独りにしないでその想いだけが胸を占める。
メイベルに剣を突き立てようとする相手に体当たりをして、レェティエールはメイベルを強く抱きしめた。
「兄さん……」
「レェティ……どうしてこんな所に……」
「どうして、いつも私を置いていくの!どうして、全部一人で抱え込もうとするの!頼ってよ!家族でしょ!」
兄の体は震えていた。
こんなにも追い詰められていた兄の苦しみを思えば、どれほど自分は身勝手だっただろう。
「レェティ……僕は許されない事をしたんだ……その罪は償わなければならない……」
兄は己の罪をその命を持って償おうとしている。
兄の決意は固い。
ならば、私も一緒に背負おう。
兄さんがいれば何も怖くない……
「じゃあ、一緒に償いましょう……私も傍にいるわ……大好きよ、兄さん……」
独りは寂しい。
兄さんがいなくなったら、もう何も私には残らない。
そう思ったレェティエールの脳裏にある少年の顔が浮かんだが、頭を振って強引に消した。
そしてレェティエールは涙を零しながら、目を閉じた。
メイベルとレェティエールに刃が向けられる。
二人が斬りつけられる瞬間、二人を包み込むようにして庇った一人の人間がいた。
レェティエールは振り返って、悲鳴を上げる。
「咲!どうして!」
そこには二人を庇って背中を深く斬られた咲がいた。
メイベルは再び斬りかかろうとする男を殺すと咲を抱き起こした。
咲は痛みに脂汗を浮かべながら、必死に二人に言い募る。
「生きなさい……勝手に……死のうと……するな……例え行く先が……地獄でも……生きろ!レェティエール……あなたの命は……私が救った……勝手にそれを……捨てるなんて……この私が……許さない。」
そう言うと咲は意識を失った。
「咲……咲!」
まだ、息はある。
咲はまだ、生きている。
それ確認し、心から安堵したレェティエールの目から涙が溢れて止まらない。
最初から咲はそうだった。
どうして、そんなに私達を守ろうとしてくれるの?
メイベルが咲を支えて、立ち上がろうとしたその時。
馬の蹄の音が響き渡った。
大勢の騎士が現れ、人々を取り囲む。
混乱する民衆を他所に、その中心から現れた一人の人物にレェティエールは目を見開いた。
「女王様……」
そこに居たのは我らがトゥレスの女王だった。
トゥレスの女王は民から絶大な人気を得ており、みんなその顔を知っています。
トゥレスの女王に楯突く人はいません。




