自覚
シアはアルトよりも魔力が上のため、アルトがかけた色彩認識阻害の魔法が破られました。
そのため、シアは咲の銀髪と緑の瞳をしっかりと認識しています。
心地よい風が頬を擽り、銀の髪が靡く。
「……シア」
例え成長していても分かる。
何故なら忘れる事なんて出来ないからだ。
……私のファーストキスを奪った憎っくき男!
シアは咲に優しく微笑み掛けたが、咲は思いっきりシアを睨みつけた。
「久しぶりの再会なのに、そう睨むな。」
そう言って苦笑し、近づいてくるシアに咲は木の棒を拾い構えた。
「こないで!このケダモノ!よくも……よくも私の初めてを奪ってくれたわね!」
咲の言葉にシアは目を丸くした。
「お前……初めてだったのか。」
「そ、そうよ!悪い?私はあなたと違って好きな人としかしたくないの!」
涙目で叫ぶ咲にシアは罰の悪そうな表情をした。
いつの間にか近くに来ていたシアは咲を慰めようと手を伸ばしたが、咲はそれを思いっきり振り払った。
「私に触らないで!」
キスに夢見て何が悪い。
咲はそのままシアを無視して家路に着こうとしたがシアが進路を塞いだ。
再び咲はキッとシアを睨みつけた。
「どいて。」
「……送って行く。」
この男、性懲りもせずにと、また咲が怒鳴ろうとした時、草がガサガサと揺れた。
咲はビクッと肩を震わせた。
「もう暗くなる……夜の森の中は一人では危険だ。」
「……わかった。」
暫し咲は迷ったが、その言葉に渋々ながらも返事をして、シアと共に歩き始めた。
「お前、好きな人はいるのか?」
その突然の問いに咲は面食らったが、答えは決まっていた。
この男に素直に答えるのは癪だが、間がもたないから仕方あるまい。
「……いないわ。そもそも、恋愛感情というものがよくわからない。」
恋愛、そんなもの元の世界でもこの世界でも一番遠い存在だ。
シアは咲を見ると男らしい笑みを浮かべた。
「そんなに深く考える必要なんて無いだろう。キスしたいと思う相手、キスされても嫌じゃない相手、それが好きな相手だ。」
そんなに雑に纏めるのかと内心呆れたが、案外そうかもしれないとも思う。
そこで、突然アルトの顔が浮かび咲は慌てて頭を振った。
その様子を見ていたシアは可笑しそうに笑う。
「誰かいたのか?キスしたい相手。」
「そんなんじゃな……い」
そう言う咲に本当に?と心の中の声が問いかける。
ーーアルトに触れられて喜んでいた癖に。
違う。
ーーずっと傍にいて欲しいと、私だけのものになって欲しいと思っていた癖に。
……ちがう。
『幸せですよ、咲。』
そう言ってふわりと微笑むアルト。
愛しい、愛しくて堪らない。
これは親愛?
……いいえ、違う。
これは恋慕の情。
咲、貴方はアルトに比翼連理を請うている。
……自覚した、気付いてしまった。
私はアルトが好きなのだと。
容姿だけでなく、性格も何もかも。
あなたの全てが私を魅せる。
親愛なんかじゃない。
でも……
咲は己の胸元に手を置いた。
自覚してしまったら苦しいじゃない。
愛してもらえなかったら辛くて胸が張り裂けてしまう。
……恋愛という意味で愛してもらえなかったら……私はどうすればいい?
「着いたぞ。此処だろう?」
悶々と考え込んでいた咲はその言葉にハッと顔を上げた。
そこには見慣れた家があった。
「送ってくれてありがとう。」
早鐘のように脈打つ心臓を抑えて咲が家に入ろうとした時、不意に手を引っ張られた。
胡乱げにそちらを見やったが、咲は途端に目を見開く。
シアが咲の手の甲にキスをしていたからだ。
「な、何を!」
「麗しい白銀の令嬢。また貴方に出逢える事を祈っています。」
そう言ってシアは不敵な笑みを浮かべると去っていった。
「二度と会うかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
前回と同じく、今回も咲の絶叫が森に響いたのだった。
次回から物語が動き始めます。
次回も読んでくれると嬉しいです。




