1Day:幼馴染みは先手を仕掛ける
「兄さん。起きてください。朝ごはんができましたよ」
ゴールデンウィークの初日。気持ちよさそうに眠る悠斗を起こしに来た菜乃葉。
起こす前に、可愛いと呟きながら悠斗の寝顔を眺めていたのは秘密。
「ああ、おはよう……菜乃葉」
体をさすられた悠斗は、目を擦りながら上体を起こす。
日頃から親がいない秀刀家の家事のほとんどは、菜乃花の役割で、悠斗はたまにその手伝いをしている。
以前に、俺にも家事をやらせろ!と菜乃花に頼んだことはあったが、結構真面目に断られたため、たまに手伝うというので、心に残る罪悪感を抑えている。
「さあ、朝ごはんができましたよ。今日は、兄さんの好きな目玉焼きと食パンです。リビングで待っていますから、早く来てくださいね」
言うと、菜乃花は一階へと階段を降りていく。
それに続くように、悠斗も重い腰と足を上げる。
* * * * * *
サクッという食パンをかじる音がリビングに響く。
食卓に並ぶは、バターたっぷりの食パンに、綺麗な半熟の目玉焼きに、彩り豊かで新鮮なサラダ。
ザ・朝食。と言った感じの一般的な朝の風景だ。
「やっぱり、菜乃花の作るご飯は美味しいよ」
「兄さんにそう言ってもらえると、とても嬉しいです」
頬を赤らめながら、嬉しそうな笑顔ではに噛む菜乃葉。
それは、まるで小動物のように可愛く。キラキラと輝いていた。
「お、おおそうか。それと、なんか手伝うことがあったら言ってくれよ?」
「大丈夫です。手伝って欲しい時は、ちゃんと言いますから」
「そうか。ならいいけど」
言って、悠斗はご馳走様と手を合わせて食器を片付ける。
自分で食べた皿は、自分で洗う。これが、秀刀家の一つのルール。
最初は、全部の皿を菜乃花が洗っていたが、半ば強引に悠斗がそのルールを作り上げた。
そうでもしないと、手伝う隙すら与えてくれないと思ったから。
皿を洗い終わり、棚にかけてあったタオルで手を拭くと。悠斗は自分の部屋へと帰るべく階段を上がろうとした時だった。
ピンポーンと家のインターフォンが鳴った。
「誰だ、こんな朝から」
悠斗はポッケのスマホを取り出して、画面を見ると、時間は9時30分と表示されている。
確かに、休日の朝だと考えれば早い。
悠斗は、ゆっくりと玄関まで歩く。
「はいはい。誰ですかー。新聞なら間に合ってまーす」
「お、おはよう。悠斗」
顔を上げるとそこには、可愛くお洒落をして、隠し切れてない羞恥心に顔を赤くする神里藍莉が立っていた。
「おはようだけど……。藍莉は何しにきたの」
「え!?いや、その、えっと、わ、私とデートをしなさい!!!」
ビシッと指を刺して、キッパリと言ったが足はガクガクと震えている。
顔も耳まで真っ赤。ただ、藍莉の性格を考えれば、よく言ったと褒める方が正しいだろう。
まあ、本人はプランも何も考えずに、ただ一直線に悠斗の家に朝一に駆けつけたんだけど。
それも、藍莉自身の作戦のひとつかもしれない。愛梨の家は、悠斗の家の隣にある。
故に、悠斗の家まで行く速さは群を抜いている。
だからこそ、速さ勝負。他の人が、仕掛ける暇もないほどに、悠斗を奪い去る。
確かに、彼女らしい作戦ではある。
「デ、デート!?」
「そうよ!言っとくけど、あんたに拒否権はないんだからね!」
「いやまあ、デートって言っても、遊びに行くだけでしょ?なら別に良いけど」
「わ、分かったなら、早く準備をしなさいよね」
悠斗の格好はまだパジャマだ。
「オーケー。じゃあ、10分くらい待っててくれない?あ、良かったらあがって待ってて」
言って、悠斗は藍莉を部屋へと案内する。
こんな感じで、ゴールデンウィーク一日目は幕を開けた。
一見。今日は、藍莉一人の独壇場に見える。
ただ、そんな簡単に行くほど、彼女たちは甘くはなかった。
秀刀悠斗の、波乱のゴールデンウィークは、まだ一日目の朝だ。