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友と書いてライバルと読む

 そこは、悠斗と藍莉と平沢が通う二年一組の教室。

 藍莉は、机の上にノートを広げて今日の反省会をしていた。


「もう!なんで私はこうも素直じゃないの!」

 

 自分の性格に嫌気がさし、頭をわしゃわしゃとかきむしる藍莉。

 他に悠斗のことを好きな人がいるのは知っている。

 その中では、確実に自分が悠斗と過ごした時間は長い。

 でも、だからこそ、悠斗に自分を異性として意識させることが難しい。

 いっそ、あいつの前で脱いでみるかと考えては、その光景を想像して顔を真っ赤にする。

 どうすれば、あいつに自分が女の子だと意識させることができるのか。

 難しい。藍莉は、大きなため息を吐くと、ぐてーと机に身を倒す。

 ほんとなら、今日の昼ごはんはあいつと食べれたんだけどなー。

 あーあと。藍莉はしても意味ない後悔をする。

 

「悩んでるねー」


 そんな声が聞こえたのは、教室のドアのところからだった。

 藍莉はゆっくりと体を起こし、声が聞こえた方へ顔を向ける。

 そこにいたのは、平沢涼香だった。

 寄りかかっていたドアから体を離すと、ゆっくりと藍莉のところへ歩き出す。


「なんだ、平沢さんか。びっくりしたよ」


 平沢の顔を見るなり、安心した表情になる藍莉。

 

「驚かせたなら謝るよ。帰ろうとしたら、教室に神里の姿が見えたからさ」


「あっそ。それで、なんのよう?」


「ちょっとお礼を言いたくてさ」


 言って平沢は、藍莉が座る机に手を置いて上から目線の態勢になる。


「お礼?平沢さんに何かをした記憶はないんだけど」


 藍莉の表情は、戦闘態勢へと変わる。これは、友達同士がやるような世間話ではないと気づいたからだ。

 それを感じるほどの圧を、平沢は藍莉に向けていた。


「いや、私に秀刀と昼ごはんを食べるのを譲ってくれてくれてありがとうってさ」


 平沢は不敵な笑みを見せた。それは、勝者の余裕からくる笑みで、藍莉の心を揺さぶるには十分だった。


「あっそ。良かったわね。まあ、今のうちに無駄な好感度でも稼いどきなさい。どうせ、勝つのは私なんだから」


 藍莉は、机の上に広げられていたノートと筆箱をカバンにしまいながら言う。


「随分と余裕だな。ま、お互い似たような悩みを持ってることだし。私はお前を、一番のライバルだって思ってるんだぜ?」


「ライバル……ね。正直、私は一匹狼を貫こうかと思ってたんだけど、あなたに言われたら仕方ないわね。絶対負けないから」


 言って藍莉は、カバンを肩にかけながら立ち上がると、握手を求めるように手を差し出した。

 その目は、絶対に負けないという確固たる意志がメラメラと燃えている。

 

「ああ、良いぜ。私だってぜってー負けねー!」


 平沢はその手を力強く握る。お互いは見つめ合った。

 それはまるで、バトル漫画のようにバチバチと火花が散っているような気がした。

 お互いの表情は、清々しく何か憑物が取れたような綺麗で爽やかな笑顔。

 握っていた手を離すと、藍莉はくるりと振り返る。


「じゃあ、私は帰るから」


 そう言って、藍莉は出口に向けて歩き出したその時。


「まあまあ、待てよ。一緒に帰ろうぜ」


 平沢が藍莉と肩を組んで、言った。


「は?」


「そうだ!パフェ食べに行こうぜ!パフェ!美味しい店知ってんだよ!」


 まるで、友達かのように接してくる平沢に藍莉は動揺を隠せない


「いや、あんた今ライバルって言ったよね?パフェって……なんでそんな友達みたいなこと……」


「良いじゃん別に、私はお前と友達になりたいと思うぜ?それにさ……」


 言った平沢の表情が変わる。

 それは、真剣というかなんというか、なんだが悲しい雰囲気の表情だった。

 藍莉はその変わり切った表情を、真剣に見つめる。


「もしさ、最後にあいつが選んだのがお前だった時、友達だったら、良い気分で負けれるだろ?」


 それは、誰もが考えなければいけないことで、誰もが考えたくなかったこと。

 例え、どれだけ思いが強くとも、相手に思わられなければ、意味がない。

 最終的に、悠斗の隣に入れるのは一人だけなんだ。

 その未来を、平沢は考えてしまった。

 もし、最後にあいつの隣にいるのが、私じゃなかったらと。

 だからこそ、今のうちに保険をかけたかった。自分が選ばれなくても、悲しい気持ちにならないように。

 

 藍莉は、平沢に見えないように優しく微笑んだ。


「あーあ、ほんと期待外れ」


 組んでる肩を外し、一歩二歩と平沢の前を歩きながら言った。


「……え?」


「もう負けた時のことを考えてる人が、私のライバルなんて片腹痛いわ。もっとしっかりしなさいよ。さっきの威勢はどうしたの?あんたも、あいつの事が好きなら、当たって砕けろって気持ちで望まないと勝てないわよ」


 藍莉は呆れたと言った感じで言った。ただ、その声には、隠しきれてない優しさが入っていた。


「ふふ、お前に言われたくねーよ」


 溢れかけていた涙を拭いて、俯いていた顔を上げると、それはさっきよりも綺麗な笑顔だった。

 今、この瞬間。平沢の中にあった、ネガティブな感情が消え去っていく。

 

「あんた。私のライバルを名乗るなら、もっとしっかりしなさいよね」


「分かった。今のは無し、忘れてくれ。もう決めた。絶対負けない、全員蹴落としてやる。必ず私が、あいつの隣で笑ってやる」


 その言葉は、平沢の心に深く刻まれ、文字となる。

 藍莉はそれをみると、また穏やかな優しい笑みを見せる。


「よし、じゃあ行こっか」


「行くって……どこに?」


「パフェ。美味しいところに連れてってくれるんでしょ?」


「え、良いのか?」


「良いよ。ちょうど、私もお腹空いてきたし」


「そ、そっか。じゃあ、行こうぜ。案内してやる」


「お願いね。それで、その場所は有名なの?」


 そうだなと平沢は呟いた後、ポッケからスマホを取り出して、ネットの評判を確かめようとする。

 どれどれーと藍莉が興味深そうに平沢のスマホをのぞいた時だった。

 タップミスで、平沢のメモアプリが起動してしまう。

 それに、書いてあった予定というページに、秀刀とパフェを食べに行くという文字があるのを藍莉に見られてしまった。


「ちょ、何よこれ!どういうこと!」


「あ、いや、これはだな……」


「悠斗と食べに行くって……つまり、デートってこと!?」


「……あ、ああ、そういうことだ!デートだデート!悪いか!」


 開き直った。まあ、勝負ってことだから、別に見られてダメってことではないだろうけど。

 

「なに開き直ってんのよ!それに私も連れていきなさいよ!」


「嫌だよ!そもそも、あんたが誘えないのって自分のせいだろ!」


「そうだけど!ちょっと、待ってよ!」


 走って逃げ出す平沢。運動神経が良い平沢の足に、藍莉が追いつけるわけもなく。

 とまあこんな感じで、平沢と藍莉は、お互いをライバルとして意識するようになった。

 ちなみに、この後一緒にパフェは食べたらしい。仲が良いのか悪いのか。よく分からない関係になっていきそうだ。


 

 

 


 

 



 

 

 

 

深夜にもう一本投稿する予定です

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