宣戦布告
それは、悠斗が菜乃葉と二人で帰ってる頃。
部活動も徐々に終わりを迎え、完全下校時間が迫ってきている学校の二階と三階を繋ぐ階段の下で、二人は出会った。
それは、いずれ交わる運命であり、避けては通れない出会い。
お互い、それぞれの情報や行動は知っていた。
敵。恋敵。自分が勝つために蹴落とさなければいけない人で、絶対に負けることが許されない人。
今日、この日。黒綾瑞希と、愛倉悠輝は出会った。
「あなたが、黒綾瑞希ですか」
愛倉の口調。声の低さは、悠斗と会話する時とは天と地ほどの差がある。
その、威圧的な態度も悠斗には見せたことがないだろう。
「そうだが。私に何のようだ」
愛倉がいるのは二階の廊下、瑞希がいるのは二階と三階の間の踊り場。
だからなのか瑞希の表情は、余裕に満ちた笑みだった。文字通りの、高みの見物である。
「とぼけないでくださいよ。知ってるんですよ?あなたが先輩に色目を使ってるの」
「先輩とは、一体誰のことだ」
こればっかりは、本当に分からないと困惑の表情を浮かべる瑞希。
「秀刀悠斗。この名前は、黒綾先輩にとっても聴き馴染みのある名前だと思いますよ?」
「ふふ、そうか。それで、君は私に何が言いたい」
瑞希は一つ笑ってみせる。そして、相変わらずの余裕の表情で愛倉に問う。
「別に、ただ宣戦布告に来ただけです」
その表情にはメラメラ燃える情熱と、私が絶対に勝つという、自信が見受けられた。
「宣戦布告。君が私にか?」
それを見た瑞希の表情も、一気に真剣なものに変わる。
さっきまでの余裕の笑みはない。
人の一人くらい余裕で倒せそうな、鋭い眼光が愛倉へと向けられる。
「そうですよ。私は負けません。必ず、先輩を私のものにします」
「そうか。まあ、好きにすればいい。既に、私の計画は完璧なものだ」
またもや見せる余裕の笑み。いや、今の瑞希の笑みは、強者の笑みだ。
「いいんですか?計画なんて言っちゃって。私が破壊しますよ」
その声の冷たさ。これが、愛倉悠輝の本性だと言えるだろう。
できれば、自分の本性を先輩には見せたくないと愛倉は思う。
でも、愛倉は知っている。いつかは、自分が秀刀悠斗という人物を好きでいる限りは、必ずどこがで、自分の本性を見せなければいけない時が来る。
彼が、そんなもので関係を断ち切るような、心のない人じゃないことは分かっている。
でも、関係を断ち切ることと、関係が進展するのは別の話。
「言っただろ。私の計画は完璧だ。そんじょそこらのギャルに壊されるほど欠陥ではない」
「良いですよ。今はそうやって、高みから余裕の笑みでもしててくださいな。でも、覚えておいてください。いつか必ずあなたの表情を、絶望に満ちた表情に変えて見せます」
愛倉は舌舐めずりをした。
これからが楽しみになったからだ。秀刀を攻略する以外にできた一つの目的。
黒綾瑞希を倒す。
「ふふ。まあ、頑張りたまえ。だが、ここで私が言えるのは、絶望に満ちるのは、必ず君だと言うことだ」
二人は見つめ合った。その中には、嫉妬や恨みなどの負の感情がほとんどだったが。
確実に、楽しいと言う感情が二人の心の中にはあった。
そして、同時刻。誰もいない教室で、二人の少女が火花を散らしていた。