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先輩は生徒会長

 時は流れ放課後。帰りの準備をする秀刀に先生が声をかける。


「ねえ、秀刀くん。今日のアンケート生徒会室まで持って行ってくれない?先生、今日は会議があって持っていく時間がないのよ」


 先生の両手にはクラスのみんなが書いたアンケートの束がある。

 普通の高校生なら嫌な顔を見せるのは普通。


「はい。良いですよ!」


 ただ、ここで嫌な顔一つ見せずに、間髪入れずにイエスと言う秀刀は普通の高校生ではないのかもしれない。

 先生から大量のアンケートを受け取った秀刀。準備中のカバンを机に残したまま、生徒会室へと向かった。

 


* * * * * *


 生徒会室は本校舎の三階にあり、名の通り、リナリア高校の生徒会が活動する部屋である。

 アンケートといっても、普通なら届ける場所は職員室のはず。なのに、生徒会室に提出しなければいけないのは、このアンケートを作ったのが生徒会だからである。

 この学校について、生徒会に実施してほしいことや、改善してほしいこと、その他生徒会への要望を全校生徒から聞き出すためのアンケート。

 それを持った秀刀は、部活や家に帰る生徒の波をきれいにかわして、生徒会室の前へとたどり着いた。


「すいません。生徒会のアンケートを持ってきました」


 コンコンと二回ノックをした後、秀刀は中にいるであろう人に尋ねる。


「いいぞ。入ってきたまえ」


 中から、低いクールな女性の声が聞こえてくる。

 秀刀は、失礼しますと一言添え生徒会室の中に入る。


「よく来たな。秀刀悠斗よ」


 その声が聞こえたのは、秀刀の隣からだった。

 扉の横の壁に寄り掛かった一人の女子生徒。

 名は、黒綾瑞希(くろあやみずき)。秀刀の先輩の三年生で、この学校の生徒会長を務めている。

 腰まで伸びた長い黒髪、いつも落ち着いた笑みを浮かべ、滅多に感情をあらわにする事はない。

 これぞクールといった感じ。いや、クールというよりかは、ミステリアスと言ったほうが正しいかもしれない。

 スタイルは抜群で、なんでも胸の大きさは他の四人に比べても、一番大きいのだとか。


「アンケートを持ってきましたよー。先輩」


 瞬間だった。カチャという、扉の鍵が締まったような音が聞こえた。


「え?今、なんかカチャって音が聞こえたような……」


「何のことだ。それより、アンケートを渡してくれ」


「で、でも、今……」


「そんなことより。アンケートを渡してくれ」


 あからさまに話を逸らす瑞希。様々な、疑問が残りながらも秀刀は仕方ないといった感じでアンケートを瑞希に渡す。

 

「さて、本題に入ろうではないか」


 玉座のような生徒会長専用の椅子に座った後、落ち着いた笑みを浮かべて瑞希は言った。

 

「ほ、本題?」

 

 アンケートを渡すことが本題ではないのかと秀刀は思う。

 さて、もう察している人もいるかもしれないが、この状況は全て瑞希が作り出した。

 本来、このアンケートは夏休み直前の七月に行われる予定だった。

 しかし、今日はまだ四月と、七月には程遠い日付である。

 それに、一年生が入学してからまだ二週間ほどしか経っていない。

 生徒会への要望とか言われても、ピンとこないだろう。

 なのに、生徒会のアンケートは今日という日に行われた。

 そう、それは何を隠そう、この生徒会長。黒綾瑞希が仕組んだものである。


 作戦はこうだ。

 まず、朝に生徒会のアンケートを配る。その時のアンケートを、四月にしても違和感がないように調整する。

 そして、アンケートを今日に配ったというのも重要だ。

 今日は、月に一度の職員会議が行われる。故に、先生が生徒会室にアンケートを持ってくる時間はない。

 そして昼間。どうしようかと悩んでる先生に、瑞希はそっと一言声をかけた。


「秀刀悠斗という生徒に頼めば、嫌な顔一つせずに引き受けてくれると思いますよ」


 そして、先生がそれに乗ったところで、瑞希の計画は成功。

 後は、他の生徒会役員を帰らせて、生徒会室で秀刀と二人きりになるための状況を整えるだけ。

 そう。今のこの状況は黒綾瑞希が、生徒会長という地位を大いに使って作り出したものなのである。


「秀刀悠斗。お前に聞きたいことがある」


「聞きたいことですか?」


 ゴクリと固唾を飲む秀刀。聞きたいこととは何だろう。

 不安か期待か分からないような、ドキドキする心臓を抑える。


「えっとだな、お前、ゴールデンウィークは暇か?」


 予想外の質問だった。今は、四月中旬。ゴールデンウィークまで約二週間ほどある。

 今から予定を聞くのは、早すぎる気もする。

 いや、先手必勝か。先に攻めた方が勝ちと、どこかの戦国武将も言っていたような気がする。


「え、いや、まあ暇だとは思いますけど」


 戸惑いながらも、秀刀は答える。


「そ、そうか!じゃ、じゃあ、二日ほど予定を開けといてくれないか?」


 一気に純粋無垢な笑顔を見せると、子供のように身を乗り出して瑞希は言う。


「え、良いですけど。こんな早くから予定を立てるって、なんか凄いことでもするんですか?」


「凄いこと……まあ、そうとも言えるかもしれない」


「は、はあ。じゃあ、ゴールデンウィークの二日間は必ず開けておりますから」


「ああ。そうしてくれるなら。今日はもう帰って良いぞ」


 満足げな表情を浮かべると。瑞希は帰って良いぞと促す。

 それに従うように、秀刀は生徒会室からゆっくりと出て行った。

 

 あれだけ緻密な計画を立てて、得た成果はゴールデンウィークの二日間。

 これが、割りに合うかはどうかは、その二日間の瑞希の戦果による。

 

夜に妹編を投稿します

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