後輩はギャル
ご飯を食べ終えた昼休み。平沢と別れた秀刀は、一人で校内を歩いていた。
別に、なにか行く場所があったわけではない。ただ、じっとしているのも退屈だし、適当に歩いて時間を潰すかという単純な考えから来るものだった。
無論。そんな、一人で無防備な時を一人の少女が狙ってきたのは言うまでもなく。
「せんぱーい。一人でなにしてるんですか?」
言って、秀刀の右腕にするりと腕を絡ませてきた一人の女子生徒。
名前は愛倉悠輝。秀刀の後輩にあたる。
腰まで伸びた長い金髪。可愛くて小さい顔に、胸元ギリギリまで開けられた制服のボタン。
手が隠れる萌え袖に、上目遣いで小悪魔的な表情と口調。見た目は、完璧にギャルでビッチ。
ただ、愛倉は今までに彼氏の一人すら出来たことなく、初恋は秀刀であり、正真正銘の処女である。
あざとく、積極的に秀刀に迫る仕草を幾度となく見せており、それに秀刀はいつも困っている。
「一人だけど。いきなり、腕を組むな!」
「えー。いいじゃないですか?先輩。彼女いないんでしょ?」
そう言うと、更に組んでいる腕を強くして、距離を狭める愛倉。
すでに、腕だけでなく体すらも秀刀に触れていて、秀刀の心臓はバクバクである。
「いや、いないけど。そういう問題じゃなくてだな」
冷静になれ、冷静になれと秀刀は心で自分に言い聞かせる。
ただ、そんな自己暗示で冷静になれるほど、秀刀は女性慣れしているわけではない。
「なんて言ってますけど。先輩、顔が真っ赤じゃないですか?意外と、まんざらでもなかったり?」
うふふーと笑いながら、更に腕の力を強める愛倉。
「ちょ、本当にやめろよお前!そういうのは、色々と段階を踏んでやるものだ!」
「え、じゃあ、私と段階を踏むことは良いってことですか?」
急に、我になったかのように真顔になる愛倉。
確かに、段階を踏む=付き合うという捉え方もできなくはない。
「段階というか、それを踏むか踏まないかは置いといて。そういう行為をするのであれば、ちゃんと段階を踏んだ人同士がやるものだ」
墓穴を掘ったと焦りながらも、冷静に修正する秀刀。
その言葉に、ぶーと少し不機嫌になりながらも、愛倉は一段と組んでる腕の力を強める。
「でも、私は先輩と段階を踏みたいんですよ?先輩と一緒に、大人の階段を登りたいです」
「大人の階段?」
思わず聞き直してしまった秀刀。直後に、それを後悔することになるまでに、一秒もかからなかった。
「例えば、エッチなこととか」
そう、耳元で囁かれた。ゾクゾクする体。こんな可愛い子が、可愛い声で、そんな単語を耳元で囁く。
それに、ドキドキしないわけがなく。秀刀の顔は真っ赤に染め上げられる。
「お、お前!?」
勢いで、組んでる腕を引き離す。
すると愛倉は、さっきと一転上機嫌そうに、舌舐めずりをしてこう言った。
「先輩って。やっぱ可愛いですね」
腰を少しだけ落として、上目遣いの愛倉に秀刀の心臓はヒートアップ。
これは、愛倉にとって凄い戦果である。
秀刀が、今日という日を思い出すとするならば、最初に出てくるのが愛倉になったからだ。
それもそうだ、こんなに刺激的なことをされたんだ。印象が強すぎる。
ただ、この時の秀刀は知らなかった。
この印象を更に上回ってくる出来事が起こることを……。
残るは二人。明日投稿します。楽しみに待っててくれたら嬉しいです。