3Day:ハーレム主人公
瑞希に連れられて、悠斗がやってきたのは本屋だった。
道中で、二人とも趣味が同じだということが判明した二人。瑞希からの提案で、本屋に行くことになった。
「やっぱり、この本屋って大きいですよね」
街で唯一の本屋と言っても良いこの場所。大きさだけで見たら、そこら辺の都会にも引けを取らない品揃えを誇る。
ライトノベルに漫画、雑誌に小説などなどが、新品から中古までこれでもかと揃っている。
「ああ。ここはな、別に用事がなくてもつい足を運んでしまう」
「分かりますそれ。本屋には人を寄せ付ける謎の何かがありますよね」
「まあ、ただ単に私たちが本好きってだけだと思うんだがな」
「え、ちょ、これの新刊出てたんですか!?」
入り口近くにある新刊のコーナーをみて悠斗が叫ぶ。
暗い雰囲気を残しながらオレンジ色の照明が本を照らす店内。
恐らくこれが、本を読みやすい明るさなのだろう。
「ん?ああ、ヒロインが十人いるって言って話題になってたラブコメか」
「すごいですよね。ヒロインが十人って」
「まあ、君もそのくらいいるのだがな」
「こういう漫画読んでると思うんですよ。ハーレム羨ましいとか、俺もそんな可愛い子たちから迫られたいって言う人いるじゃないですか」
瑞希の声は悠斗には届かなかったらしく、まるで独り言のように悠斗は続ける。
「でもですよ。こんなに沢山の女子から想いを寄せられても。結局、一人としか結ばれないわけじゃないですか。大変ですよ。一人一人にそれぞれの思いがあるわけですし。行って仕舞えば、それを裏切る行為をしなくちゃならない。ほんと、並の人間なら逃げ出しますよ」
「じゃあ、もし君が何人もの女性から好意を寄せられたらどうする?」
「俺がですか?ないですよ、そんなこと」
言って、悠斗はアハハと自虐的に笑って見せる。
ただ、瑞希は聞きたかった。この質問の答えを。
「もしもの話だ。聞かせてくれ」
「まあ、もし俺のことを好きだと言ってくれる人が何人も現れたなら……」
悠斗は考えた。
それは、悠斗にとっては夢物語のようなもの。
それでも、悠斗はまるで漫画の主人公になったつもりで真剣に頭をひねる。
「しっかりと、全員と向き合うと思います。逃げません。いや、そこで逃げるような人にはなりたくありません」
その瞳は、覚悟が見えた。
それほどまでに、感情移入をして考えてくれたのだと瑞希は思う。
そして、その答えは瑞希ら五人にとって、とても大事なことになる。
「そうか。なら良かった」
瑞希は安心したと、ほっと胸を撫で下ろす。
理解をしていた、したくなくてもしていた。必ずしも、自分が結ばれるとは限らないと。
それに、悠斗がもしかしたら逃げ出すかもしれない。もしかしたら、全員に手を出す最低野郎かもしれない。いや、そんな人ではないと瑞希は知っている。
「まあ、もしもはなしですし。そんなことないですけどね」
「いや、意外とあるかもしれんぞ?君の容姿は優れているからな」
「はは。容姿だけでモテるほど、この世界は甘くないんですよ」
また、ガックリと項垂れる悠斗。
「じゃあ、君はモテるだろう」
「だから、容姿だけじゃっていうか、俺は容姿も普通ですよ」
「君は……。謙遜も行きすぎると嫌味になるからな」
「まあ、ハーレム主人公は大変だってことですよ。あくまで俺の意見ですけど」
「君は、いつになったら自分が主人公だって気がつくんだろうか」
人混み溢れる本屋の中、瑞希が呟いた言葉は悠斗には届かなかった。
何故だろうか。悠斗の表情は、切なそうに思えた。




