1Day: finish
「見つけた」
それは、三人がファミレスでご飯を食べた後、のんびりと座って雑談をしていた時。
はあはあと、肩で息をしながらとても怖い顔を浮かべて走ってきたのは、神里藍莉だった。
「藍莉じゃん。帰ったんじゃないの?」
「は?私がいつ帰るって言ったのよ!!」
藍莉の感情は怒りで埋め尽くされている。
ただでさえ、目が合うだけでゾッとしてしまうのに、今の藍莉を前に、流石の愛倉と瑞希も動揺を隠し切れていない。
「ど、どうするんすか。来ちゃいましたよ幼馴染」
「そうだな。まあ、ここで私たちが取るべき行動は一択だろう」
「そうですね」
二人が考えることは同じ。いや、誰がこの状況でも考えることは一つだろう。
悠斗を連れて、
「「逃げる!!」」
そう叫んで、悠斗を連れて走る二人。釣りは要らないとレジにいた店員に、瑞希が一万円札を渡していたのは褒めるべきなのか……。
運動神経が特別高いわけではない藍莉は、女子高生の平均より少し上の体力しかないため、ショッピングモールをほぼ一周走り回った後に、逃げていく人を追いかける気力があるわけもなく。
愛梨の思考は、次というものに変わっていた。
「あいつら。必ずやり返してやる」
その瞳は燃えていた。そして誓う。必ず、悠斗を自分のものにして見せると。
それを、バイト中の平沢は陰から見ていた。
* * * * * *
次第に、息が切れてくる三人。
ここまで来ればいいだろうと、瑞希が言った後三人は止まる。
「というか、藍莉帰ってないじゃないですか!」
息を整えた後、悠斗は若干怒り気味で瑞希に対して言う。
「いや、まあ、そんなことより。君に言いたいことがある」
「言いたいこと?」
あからさまに話を変えられたことを不満に思うも、瑞希の言いたいことというものが気になってしまい、悠斗はつい聞き返してしまう。
「いや、その前に」
言って、瑞希は隣で喋れないほどに息を切らす愛倉の方に体を向ける。
「愛倉悠輝よ。君との共闘は、まあ、楽しかったと言っておこう。ただ私は、共闘するとは言ったが、その時間は指定していない。故に、ここで私はお前との共闘をやめる。約束は忘れないでくれよ」
「え、ちょ、何を言って……」
愛倉の表情が、歪んでいく。この先に起きることを察したからだ。
瑞希の、勝ったと言わんばかりの表情。それは、悠斗には見えないように愛倉だけが見ることができた。
「では、秀刀悠斗よ……」
「な、なんですか?」
悠斗が感じるのは、ただならぬ雰囲気。オーラ。
瑞希が纏うのは、闇そのもの。この一瞬、瑞希の本性が出たのかもしれない。
彼女は、とんでもないほどに性格が悪く、腹黒い。
それを、悠斗が知るのは、いつになるのだろうか。
それとも、その天才的な演技で瑞希が隠しとうすことができるのか。
それは、誰にも分からない。
瑞希は、悠斗の腕をガッと掴むと、さっきまでとは非にならないほどの速さでショッピングモールを駆け抜けていく。
愛倉悠輝を、その場に残したまま。
* * * * * *
「さて、ここまで来ればいいだろう」
「よ、良かったんですか?愛倉は」
「ああ。なんか、疲れたんで帰りますって言っていたような気がする」
「そ、そうなんですかね……」
納得がいかなくても、納得するしかない。愛倉がいた場所から、とても離れた場所まで来てしまった。
それに、瑞希のあのスピードで走りまわされたんだ。
そんな体力が残っているわけがない。
「まあ、いいだろう。あいつは」
「先輩って、愛倉と知り合いでしたっけ?」
「知り合いと言えば、知り合いだな」
「そうですか。なら、仲良くしてあげてください。あいつ、友達作るのとかすごい苦手なんで」
少し、照れくさそうに悠斗は言った。
そのとき思い出したのは、愛倉と初めて会った時のことだった。
それを語る時は、今ではないだろう。
「ふふ。実に、君らしい願い事だな。ま、多分。あの子とは、それなりの付き合いになりそうだよ」
「なら、良かったです。……それで、さっき先輩が言ってた言いたいことってなんですか?」
「ああ、そうだったな。前に、君にゴールデンウィークの予定を二日ほど開けといてくれと言ったのは覚えているか?」
「覚えてますけど」
「じゃあ、明日と明後日。私に時間をくれ」
「明日と明後日ですか。いいですよ!」
「そうか。じゃあ、詳細は追って連絡する」
「わかりました……って、もうこんな時間!?」
悠斗の視界に入った時計の針は、17時を指し示していた。
外は、すでにオレンジ色に染まり切っている。
「確かに。帰るにはいい時間だな。じゃあ、私はここらで失礼するよ」
「あ、はい!明日と明後日は楽しみにしてます!」
「ああ、私もだ」
こんな感じで、悠斗のゴールデンウィークの一日目は幕を閉じた。
でも、この時の悠斗は知らなかった。明日と明後日で、黒綾瑞希との関係が、劇的に変わるということを。
明日から二日目です。黒綾瑞希中心になります。




