1Day:刺客
「あんた強すぎ。ちょっとは、手加減してくれても良かったじゃん」
「いや、藍莉に手加減したら負けるから。というか、手加減しなくても負けるし」
ゲームセンターを後にした二人は、先ほど熱戦を繰り広げたエアホッケーの感想を言い合っていた。
結果は、会話から察する通り悠斗の勝ち。だが、スコアは十対十一と接戦で、白熱した勝負を行っていた。
「というか、あのゲームに制限時間とかあったんなんて知らなかったし。それ知ってたらもうちょっと意識してやってたのに」
「いや、制限時間なしだったら無限にやれちゃうじゃん」
「そこはさ。何点取ったら終わりとか、そんな感じのシステムがあると思ってたわけ私は」
「そうですか。じゃあ、また来た時に再戦と行こうぜ。今日はもういいだろ」
「……」
「どうした。なんだ、俺の顔になんかついてるか?」
藍莉は驚いた顔で、悠斗の顔をじっと見つめる。
「い、いや、また一緒に来てくれるの?」
照れ隠しをするように俯きながら、呟くように言った藍莉。
珍しいと言っていいのか、ツンデレの性格が顔を出さなかった。
本人は無意識だろうが。これは、大チャンスと言っても過言ではない。
「え、別に、藍莉が良いなら。俺は良いよ」
特に恥じることもなく、淡々と悠斗はその言葉を口にする。
鈍感と言うべきか……悠斗と藍莉の間にある、幼馴染という巨大な壁が邪魔をする。
「わ、私は、また悠斗ときたいな」
「い、いや、それは別に良いんだけどさ。もう既に次の話をしてるけど、まだ時間は一時とかだからね?これ、多分帰り際とかにする会話でしょ?」
「そ、そうね。あはは、なんだかお腹空いてきちゃった。昼ごはん食べに行こ」
かれこれゲームセンターで三時間以上遊んでいた二人。
時間忘れて遊んだその瞬間は、まるで小学生の頃に戻ったようで、二人はとても懐かしい気持ちになっていた。
昼ごはんを食べに行こうと言った藍莉、先ほど貰ったこのモールの地図を見ながら頭をひねる。
「なに食べる?藍莉の好きなもので良いよ」
「それ。なに食べるの相談してる時の一番困る言葉、なんでも良いよ。とほぼ同じ意味だからね」
「いや、そういうつもりじゃなかったんだけど」
「それは分かってるんだけど。今日はあんたの好きなもので良いわよ。えっと、まあ、このぬいぐるみのお礼も兼ねて」
言うと、藍莉は胸元でぬいぐるみを両手でギュッと抱きしめた。
俯きながら、頬を赤らめる姿は恋する乙女のそれ。
「そう?じゃあ、遠慮なく。選ばせてもら……」
地図を見ながら、鼻歌に乗せながら発したその言葉を。悠斗は最後まで言うことができなかった。
気づくと、自分の体が二人の誰かに引っ張られてる感覚。
片方の手を一人ずつに掴まれ、走ってどこかに連れてかれる。
「愛倉悠輝よ。もっと頭の良い作戦は思いつかなかったのか」
「こんな見た目の人が。頭良い作戦を考えられると思いますか?」
「確かに。君に期待した私が浅はかだったよ」
「へー。期待してくれてたんですか。それは、とても光栄ですねっと」
「いや、ちょっと待って。どういう状況なのこれ。俺は今どうなってるの!」
「先輩。なんだか久しぶりですね!」
後ろを振り返り、あざとく挨拶する愛倉。
「は!?なんでお前が……」
「ほんと。私はあまり運動が得意ではないのだから。もっとペースってものを考えてはくれまいか」
「って!?黒綾瑞希先輩!?」
疲れたと言わんばかりの表情を浮かべながら、悠斗の手を掴んで走る瑞希。
ただ、悠斗の腕を掴む力はとても強く。悠斗が振り解こうとしても離れないほど。
「ほほう。君が私をフルネームで呼ぶとは。相当焦っているようだな」
「焦るも何も……どこまで走るんですかぁーーーーー」
一方、悠斗を連れ去られ一人で置いてかれた藍莉は、未だその場から一歩も動けずにいた。
すると、頭上にひらひらと紙切れが舞い落ちる。
それを、両手で受け止めるように拾って、中身を見ると。
「あなたの好きな人は頂いた。byあなたの好きな人が好きな後輩」
その紙を、一瞬で粉々に破ると。
「どういうことだあああああああ!!!!!!!」
藍莉は、心の底から腹の奥から思いっきり叫んだ。
人の目を気にすることもなく、ただただ湧いてくるは怒りのみ。
そして藍莉は心に決める。
「必ず悠斗を取り戻す」
次で一日目は終わりです。明日公開します。




