1Day:後悔
恥ずかしさや嬉しさなどの、色々な感情が押し寄せてきてどうにかなってしまいそうな藍莉は、悠斗を連れてショッピングモールに来ていた。
さすがゴールデンウィークと言うべきか、朝早くにも関わらず、まあまあの数の人が歩いている。
「それで、どこに行く?俺は特に行きたいところがないから、藍莉の行きたいところでいいよ」
「え!?行きたいところって言われても、そんな簡単に思いつかないんだけど」
悠斗に話しかけられたことで、なんとか冷静さを取り戻した藍莉は答える。
まあ、悠斗のことで頭がいっぱいだったのに、悠人に話しかけられて冷静になるのも、なんだかおかしな話ではあるけど。
「なんかないの?買いたいものとか」
「うーん。特に……ないかなぁ」
「じゃあ、観たい映画は?」
「今は何がやってるの」
「えーと。感動系のアニメとか、純愛系の実写とか、まあ色々だよ」
「なんだか、ピンとくるやつがないわね」
今やってる映画を調べてるのか、頭を捻ってスマホを見つめる藍莉。
「じゃあ、少し子供っぽいけどゲーセンとかどう?」
「ゲームセンター?まあ、いいけど。行って何するの?」
「行けばなんか楽しくなるでしょ」
言って悠斗は、子供のような純粋な笑みでゲームセンターへと歩き出した。
それを、藍莉は懐かしいと思いながら後を追う。
* * * * * *
ゲームセンターは二階の一番端っこにあり、色々なゲームのジャンルの最新機種が揃っている。
故に、子供から大人までに大人気で、県外からわざわざこのゲームセンター目当てにやってくる人もいるのだとか。
ただ、今日は朝一ということで人は少なく、大抵のゲームが並ばずにプレイできる。
「すげーな。クレーンゲームだけで何台あるんだよ」
「まあ、遊べる台の種類が売りみたいなところがあるらしいからねー。このゲームセンター」
「奥はあれか、プリクラとかメダルゲームのコーナーか」
「メダルゲームって、すごいなつか……」
藍莉の声が止まった。それと同時に、足も止まる。
見つけたのは、可愛いくまのぬいぐるみだった。
ガラスの奥で、愛くるしい表情でこちらを眺めてくる、くま(ぬいぐるみ)。
それはまるで、助けてーと頼んできているように藍莉には見えた。
「なんだ。これが欲しいのか?」
横からふらっと現れると、藍莉の横に立ちガラスの奥のくまを眺める悠斗。
「べ、別に、欲しくないから。さっさと行こ」
藍莉はそのぬいぐるみがある台から、何歩か距離を取って言う。
それを見た悠斗は、呆れたようなため息をつく。
それはまるで、またかよと言うような。何度もこの光景を見たことがあるかのようなため息
「いや、なんでここで意地になるんだよ。お前も一応女子なんだから、こういうぬいぐるみに興味が湧いたって不思議じゃない」
「だから、興味なんてないって言ってるでしょ?」
「ああもう!分かったよ。じゃあ、このぬいぐるみは俺が欲しいから取る」
言って悠斗は、肩にかけていた鞄の中の財布を取り出して、くまのクレーンゲームに100円を入れる。
途端に、陽気な音楽が流れて横に刺された矢印のボタンが光り出す。
それを押して、グラグラゆっくりと、アームが動いていく。
悠斗は慣れた手捌きで、きっちりとぬいぐるみの真正面にアームを設置するのに成功した。
後は、ぬいぐるみの真上にアームを置けるか否か。
落ち着けと一旦深呼吸をした後、今度は真っ直ぐに向かれた矢印のボタンを押す。
さっきと同じように、グラグラゆっくりと動いていくアーム。
ここだ!と言うかの如く勢いで、悠斗はボタンから手を離した。
それは、さっきと同じように最高の場所。
ぬいぐるみの真上にアームを置けることに成功した。
後は、このアームの力を信じるだけ。
見たところ、このくまのぬいぐるみは相当サイズがでかい。
まあ、それに合わせてアームも大きくなっているんだけど、しっかりと掴めるかどうか。
そんな、二人の心配も束の間。
でかでかと開かれたアームはきっちりと、くまのぬいぐるみを掴んで運んでいた。
ぐわんぐわんと運ばれたぬいぐるみは、しっかりと取り出し口につながる穴のところで落ちてくれた。
それを、冷静な表情で取り出す悠斗。
後ろでは、藍莉がとても嬉しそうな笑顔で見つめている。
ばっと悠斗が後ろを向くと、藍莉は慌ててそっぽを向く。
それを、呆れたような表情で見た後、悠斗はぬいぐるみを持って藍莉の方へ歩いていく。
「ほら、あげるよ」
「べ、べ、別にいらないわよ!」
言ってることと、表情がまるで合っていない。
それは、悠斗にも伝わってることで。
「だから、何でそう意地を張るんだお前は。昔からだけど。欲しいものは欲しいって言わないと後悔するぞ?」
「うるさい!もう分かったよ!貰えばいいんでしょ貰えば!取ってくれてありがとね!別に嬉しくないけど!」
頬を赤らめながら、必死にぬいぐるみを欲しがっていることを否定するが、藍莉の瞳はぬいぐるみに対してキラキラに輝いている。
それを確認した後、悠斗は少し安心したような表情を浮かべて歩き出す。
瞬間だった。藍莉の表情は、一気にシュンとしたようなものに変わる。
そして、歩く悠斗の背中に向けて一言呟いた。
「もう、私は後悔してる」
その声は、悠斗には届かなかった。




