幼馴染はツンデレ
恋愛は戦である。
例え複数の人物が一人の異性を好きになったとしても、最終的に結ばれるのは一人のみ。
日本の法律では、一部の例外を除いて重婚は認められていない。
故に、一人の者と結婚できるのは、基本的に一人だけ。
だからこそ、恋愛というものは戦うものなのである。
その一人の、特別な一人になるために、自分が勝つためには、時には誰かを蹴落とす必要もある。
いわば殺し合い。最後の一人が出るまで戦い続ける、バトルロワイヤルのようなもの。
そして、ここ私立リナリア高校では、不幸なことにも同じ男を好きになってしまった五人の少女がいた。
それぞれ、好きになった理由は様々。ただ、誰一人して負ける気はしていない。
思いの強さは、誰も負けていない。
時には知恵を、時には力を、時には地位を、時には体を使い、彼女らは戦う。
桜舞い散る、青い春。恋する乙女による、一人の男を懸けた戦いが幕を開ける。
* * * * * *
桜が綺麗な四月の中旬。高校生活二年目になる、秀刀悠斗は授業も聞かずに窓を眺めていた。
彼こそが、今回のバトルを引き起こした元凶。
見た目は、なかなかのイケメン。黒色の髪に、赤色の髪が混じったような髪をして、長い前髪が若干両目にかかっている。スタイルは抜群で、美少年という言葉がよく似合う。
性格は一言で言えばクール。なんだか、近寄りがたい雰囲気を出しており、その結果、男子の友達が一人もいないという悲しい事実。
ただ、それはあくまで客観的に見た時の感想であり、秀刀自身は、思いやりのある心優しい少年であり、友達が少ないところをどこか気にしている。
「ねぇ悠斗。良かったら、昼ごはん一緒に食べない?」
いきなり勝負を仕掛けたのは、秀刀の前に座る一人の女子生徒。
名前は、神里藍莉。秀刀の幼馴染で、保育園の時からの仲である。
肩にも届かないほど短い、水色の髪。鋭い目つきで、周りからは少し怖がられている。
それは、秀刀も同じで、いつも自分の気持ちに素直になれない藍莉は、秀刀に冷たく当たってしまう。
いわゆるツンデレ。言わなくてもツンデレ。
それ故に、秀刀は藍莉に嫌われていると思っており、過ごした時間が一番長いのにもかかわらず、一番戦況が不利と言っても過言ではない。
「そ、それは、藍莉と一緒にということ?」
恐る恐ると言った感じで、秀刀は藍莉に聞く。
「当たり前でしょ。どうせ、誰かと食べる予定なんてないんでしょ?」
「い、いや、そりゃそうだけど。でも、良いの?」
「良いのって、何が?」
何を躊躇うことがあるのかと藍莉は思う。
秀刀は言いづらそうに、次の言葉を口にする。
「ほら、俺と一緒に食べて、変な噂とかされたら藍莉も嫌だろ?」
そう思うのも無理はない。秀刀は、藍莉に嫌われていると思っている。
故に、そこら辺の心配をせざるを得なかった。
いや、それ以上に、藍莉にご飯に誘われるとか、何か裏がありそうで怖いという気持ちもあったのかもしれない。
「べ、別に、悠斗となら、噂されてもいいけど……」
藍莉の顔は、俯いていてよく見えないが、耳まで真っ赤である。
ツンデレの藍莉には特に珍しいデレの時。さあ、これに秀刀はどうでる。
「いや、ダメだろ。高校生の噂をなめるなよ?すごいからな。一瞬で全生徒に広まっちゃうよ。お前が良くても、俺が嫌なの」
やはり……秀刀は鈍感なのだ。そんな秀刀が、藍莉のデレに気づくわけがない。
もっと大胆なデレならもしかするかもしれないが、今のデレは秀刀を刺激するには少し物足りなさすぎる。
「もういい!勝手に一人で寂しく食べてれば良いじゃない!」
散々、高校生の噂の怖さを永遠と語る秀刀に、痺れを切らした藍莉は、授業中ってことを忘れて席を立ち上がり、涙目になりながら叫んだ。
やはりツンデレ。デレよりも、ツンが多いいツンデレ。
みんなからの視線に気づき、今が授業中だということを思い出す。
顔を真っ赤にさせながら、藍莉は慌てて自分の席に座る。
そして、秀刀の方に一回振り返り、
「べー」
舌を出し、目の下を手で下げながら。アッカンベーのポーズで藍莉は言った。
正直、秀刀以外の男子が見れば、今ので藍莉に恋に落ちただろう。
それほどまでに、藍莉のアッカンベーは可愛かった。
ただ、それすらも秀刀の前では無意味な者となる……かと思っていたけど、秀刀の頬は少しだけ赤かった。それなりに、効果はあったらしい。
ただし、戦況が不利なことには変わりがない。普通の女子ならば、今ので秀刀と昼ごはんの約束を勝ち取ることに成功していただろう。
しかし藍莉は、そのチャンスを自ら逃した。それが、今後の勝負にどう影響してくるのか、勝負というものは、案外些細なもので決まる時もある。
そして、その光景を見ていた一人の少女が、秀刀と昼ごはんを食べるために動き出す。