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LOVE奪取  作者: AuThor
6/20

回想

和村ファミリーが一堂に会した日の朝、陽太は布団の中で寝ていた。


前日のシフトが遅番で、さらに残業が発生し、帰りが深夜だったため、朝遅くまで眠っている。


華と雛はスーパーと保育園に行っていた。


マンションの廊下をブラシで掃除する音が聴こえて、眠りから覚める。


バケツの中の水で廊下をぬらし、ブラシでこする音が聴こえる。


・・・こうして布団の中で横になって、廊下を掃除するブラシの音を聴くと、華との出会いを思い出す。


陽太は布団の中でブラシの音を聴きながら、華との出会いを回想する。


8年ほど前――


マンションに一人暮らししていた陽太。


そして、午後出勤だったので、朝遅くまで眠っていると、ブラシの音が聴こえてきた。


あ・・・この人だ。

ブラシの音を聴いて陽太は気づく。


バケツで廊下に水をかける音、何よりもブラシで床をこする音のリズムが心地よく感じる。


当時、陽太は毎日午後出勤だったので、朝に布団の中で廊下を掃除する音を聴くことは多かった。


・・・廊下を掃除する人によって、ブラシの音が違うんだよな。

陽太は耳を澄ます。


この人は、いつもブラシでこする音がすごくリズムよく、荒くなくて、丁寧に掃除していると感じる。


・・・どんな人なんだろう。

陽太は時々聴く、心地よいブラシの音を奏でる人の顔を見たくなった。


布団から起き上がり、1階のポストにチラシを取りに行くという名目で玄関のドアを開ける。


すると、ブラシで床をこする一人の女性の姿が目に飛び込んできた。


「あ、おはようございます」

華は陽太に笑顔で会釈する。


「・・・おはようございます」

陽太も会釈する。


陽太は驚いた。てっきり、男の人か、40代くらいの女性をイメージしていたので、自分と同じくらいの年齢の女性だとは予想していなかったからだ。


なんか、いいな・・・。

陽太は廊下を歩きながら、どこと言えばいいのかわからなかったが、華に対して好印象をもつ。


それからは、華の掃除する音が聴こえた日には、チラシを取りに行くという建前のもと、玄関のドアを開けた。

この頃の陽太はなかなかシャイであったため、会話を積極的にはできなかった。

しかし、ほんの一言二言の会話でも、華の動きや話し方に気持ちが込められているような感じがして、思わず見入ってしまい、しばらくすると恋に落ちていた。


そして、普段寄らないスーパーに偶然行った時に、華がレジにいるところを見かける。


華のレジに並ぶ陽太。


「いらっしゃいませ」

華は陽太を見る。


陽太に気づく華。

「あ、こんにちは」


「ここでも働いてるんですね」

陽太は店内を見回す。


「はい、掛け持ちです」

華は笑う。


そして華の誰に対してもおこなっている、レジでの一つ一つの動作に真心が込められているような感じの対応に好感を持つ。同時に、華に恋人がいるのか気になった。


陽太は華と顔見知りとなったので、以前よりレジやマンションで会話をするようになる。


ある朝、マンションで華の掃除する音が聴こえた時に、陽太は勇気を出して玄関から出た。


「あの、松本さん。これ、よければ読んでください」陽太は華に手紙の入った封筒を渡す。


「あ、はい」

華は封筒を受け取る。


マンションの中やレジだと人の目や耳があり、告白しにくかったので、メアドと友達になりたいということを書いた手紙だ。もちろん、都合が悪かったり、嫌だったりすれば断ってくれてもいい、メールしなくていいということも書いており、そうじゃなければ3日以内にメールを送ってほしいということを書いた。


そして、手紙を渡してから数時間後にメールが届き、陽太は心から喜んだ。


それからは、陽太と華は友達として外で会ったりした。

華が陽太に対して、初めて出会ったときから、陽太の優しそうな顔や雰囲気に好印象を抱いていたということを後になって陽太は華から聞いた。


陽太は困っている人を見かけたら、何か自分が力になれないか率先して動くことを心掛けていた。そのように心掛けるにようになったのは、尊敬する先輩の姿に影響されたからだ。


陽太は先輩に会うまでは特段そのようなことをしていなかった。

ある時、仕事のミスで陽太に残業が生じたとき、残業代が出ないのに先輩が長時間手伝ってくれたので、陽太は先輩に好印象を持ち一緒に行動することが多くなる。

先輩は陽太が社内の同僚だから手伝ったのではなく、街中であっても困っている人を見かけたら即座に力になれないか行動するところを陽太は見て、目の前で困っている人がいたら助けようとする人なのだと陽太は気づく。

そして、自分も先輩と一緒にいることで人助けを手伝う機会もあり、そのたびに感謝され、うれしかったし、先輩を純粋にかっこいいと思えた。

先輩も最初からそのようなことをするタイプの人間ではなく、大学生の時に海外旅行で道に迷い、英語が通じず途方に暮れていた時、親切な外国人が30分ほど一緒に歩いて目的地まで道案内をしてくれ、本当にうれしく思い、お礼のお金を渡そうと思ったらそれを受け取らずに笑顔で去っていく外国人の姿を見て、自分もそういうことができる人になろうと思ったのだそうだ。

先輩は転職して別の仕事についた後も陽太と交流を持ち、陽太と華の結婚式にも来てくれ、その5年後に、先輩は綺麗で人柄の良い女性と結婚して、陽太と華は一緒に結婚式場で先輩を祝った。今も幸せな家庭を築いている。


陽太は先輩を見習い、日常的にそのように心掛けて行動することによって、優しい顔つきや雰囲気が徐々に形成されていき、華はそこに惹かれることになる。


陽太は華と友達として数カ月一緒に過ごした後、告白して2人は恋人となる。


陽太は華と付き合いはじめ、華が一つ一つの所作に対して大切に気持ちを込めておこなうようになったきっかけとなったドラマを観たが、華ほど影響を受けなく、しかし華の動作を見て、自分もそのような動作ができるようになりたいと思って実践してみたが、常に意識してやろうとすることを面倒に感じ、継続する意欲が持てなく、しばらく頑張ったが、やめてしまった。


華も目の前で困っている人を助けようとするきっかけとなった先輩の話を陽太から聞いたが、陽太のように自分から率先してやろうとまでは思えなかった。もちろん、道に迷った人が自分に声をかけてくれば地図で案内するが、陽太のように自分から、困ってそうな人に声をかけたり、目的地まで距離があっても一緒に歩いて道案内したりするようなことまではしない。(陽太と一緒に行動しているときに、陽太がそのような行動をすれば、華も協力するし、そんな陽太が好きだった)


陽太は華の動きや振る舞いが結婚してからも増々磨きがかかってきているように感じた。


華も陽太の顔や雰囲気が結婚してからも増々優しさに溢れていくような感じがした。


陽太と華は、それぞれ自分が日頃から心掛けていることのおかげでお互いが巡り会えたと思っており、陽太は困っている人の人助け、華は大切に気持ちを込めた所作、それらをやってて本当によかったと2人は感じ、これからもずっとその行いを続けていこうと思うのであった。



陽太は布団の中で回想を終える。


そして心地よい気持ちで布団から起き上がり、背伸びをする。


今日は休みだ。洗濯や掃除をしなくちゃな。明日は10時からだから、8時に家を出よう。

陽太はリビングへ歩き出す。


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