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LOVE奪取  作者: AuThor
4/20

接近

お昼ご飯が終わり、控室から出て、華はレジに立つ。


そして、客が少なくなる時間帯になり、いつものように仁がカゴを持ってきた。


「いらっしゃいませ」

いつもと同じように笑顔で華は挨拶する。


「こんにちは」

仁はさわやかな表情で挨拶を返す。


華は大量の駄菓子をスキャンしながら仁とたわいもない話をする。


しかし、頭の中で先程の控室での会話が駆け巡り、華はぎこちない動きになってしまう。


「でも、高級料理とか食べてそうな上司さんが駄菓子を好きなんて意外ですよね」

華は気になって聞いてみる。


「ははっ・・・。確かに言われてみれば意外に思えますね。でも、料理とお菓子は違うしなー。それにお菓子っていうのは高い安い関係なく、人の好みがあると思います」

仁は笑う。


「そうですよね」

華は納得できるような気がした。


しかし、ネット通販で買わずにスーパーで大量の駄菓子を買う理由が気になる華。


「ネットの通販とかなら、もっと色々な種類の駄菓子が買えるんじゃないですか?」



仁は少し間を置き口を開く。

「・・・実はパワハラなんですよね」


「?・・・パワハラ?」

まったく予想外の言葉に反応が遅れる華。


「よくあることですよ。自分の力を示したいからって上司が部下に無意味なことをさせるのは・・・」

仁はにっこりとした表情をする。


「え?・・・これ無理矢理買わされてるんですか?」

華は驚く。


「駄菓子が好きだから、スーパーでたくさん買ってこいって。あのスーパーが気に入っているから貢献してこいって・・・むちゃくちゃでしょ?」

くすくすと笑う仁。


「あ・・・ひどいですね」

どう言葉をかけたらいいかわからず華は戸惑う。


ええー。そんなの今でもあるんだ・・・。


「でも、今では良かったって思ってるんです」

仁は笑んで真剣なまなざしで華を見る。


「え、どうしてですか?」

華はちらっと顔を上げ、商品をスキャンしながら仁を見る。


「波木さんと出会うことができたから」


「私と・・・?」

華はきょとんとする。


「はい。俺はパワハラに嫌気がさして会社辞めるかどうか迷ってたんですけど、波木さんのレジでの対応に救われたんです」


「ええ? おおげさですよ」

華は照れる。


「いや、決して誇張なんかじゃなく、波木さんのカードの受け渡し、レジ袋を渡してくれる瞬間、何かすごく気持ちを込めてるのが伝わってきて、頑張ろうと思えます」


「あ、ありがとうございます」

華は面と向かってそんなことを言われたことに少し恥ずかしさを感じ、照れる。


カードの受け渡しの時に、仁は1万円札を募金箱に入れる。


「1万円とかじゃなくて、もっと少額でもいいんじゃないですか? ご自分のために使われた方がいいんじゃ?」


「いいんですよ。波木さんと話すと凄く気持ちよくなれて、なんか自分も誰かのために何かをしたいなって思うんです。俺がそんなふうに思える時はあまりないので、この時ぐらいしか、自分が誰かの役に立ってるって実感がないんです。金額が大きいほど誰かの役に立ててるって感じることができます」


「そうなんですか」

華は納得する。


「はい、華さんは俺にいろいろなものを与えてくれてます。いつも感謝の気持ちでいっぱいです」


「私が役に立ててるならよかったです。お仕事頑張ってください!」

華はレジ袋を前に掲げる。


「はい! 頑張ってきます!」

笑顔でレジ袋を受け取り、去っていく仁。


・・・すごくいい人だな。

華は仁が去っていく姿を見て思うのであった。


仁はスーパーからホテルの一室に戻る。そして、いつものように大量の駄菓子が入ったレジ袋をゴミ箱に捨てる。


・・・初めっから華さんのレジに大量の駄菓子を持っていった理由とか、客が少なくなる時間帯にスーパーに寄る理由とか、聞かれなかったな。まあ、ちゃんと理由を用意してたけど。

仁はソファに深く腰掛ける。


そして翌日の土曜日、華は雛と2人で自宅の近くの公園にいた。


「明日はパパとママと一緒に温泉だよねー!」

雛は嬉しそうに、はしゃぐ。


「そうね。3人で温泉行けるね」

華は微笑む。


「楽しみだなー」

雛は待ちきれないと言わんばかりの顔だ。


そんな2人の姿を、気づかれないような場所から変装した姿で見る仁。


・・・まだ早い。5日間、店で顔を合わせた程度で、偶然を装い休日に近づいては警戒心を抱くおそれがある。あと5日間、店で会い、来週の休日に近づこう・・・。

仁は密かに華を見つめるのであった。


日曜日になり、華と陽太と雛は温泉に行く。


雛は大はしゃぎで華と陽太2人と手をつなぐ。


家族は楽しく温泉に浸かり、館内で過ごす。


仁も変装して温泉の館内に入り、3人を見ている。

陽太の姿を自分に置き換えて・・・。


そして、いつもどおり平日が始まり、月曜日から金曜日まで仁は華のレジへ行き、とりとめのない会話を楽しくする。


スーパーの控室で昼食時に、華が仁に聞いたことを芳恵と寧々に話し、2人とも納得する。


そして、日曜日となる。


華と雛は2人で公園にいた。陽太は仕事である。


「ママ、お城できたー!」

砂場で山なりの土を指差す雛。


「上手ねー」

ベンチに座って笑う華。


「あ! 波木さん?」と前方から声がして、華は前に視線を向ける。


公園沿いの通り道に、鞄と袋を持った仁がいた。


あ・・・あの人だ。

仁の名前は知らないが、2週間近く毎日平日に顔を合わせているので華は仁だと気づく。


「あ、こんにちは」

華は立ち上がり、笑顔を向け会釈する。


「偶然ですね」

仁も笑顔を向け会釈する。


そして、仁は華のもとへ歩いていく。


あれ?・・・こっちにくる。

華は仁がそのまま立ち去らず、こちらに向かってくることを若干不思議に思う。


「誰ー?」

雛はきょとんとして仁を見る。


「ママのお店のお客さん」


仁はしゃがんで雛に顔を向ける。


「こんにちは、お名前はなんて言うんですか?」


「雛!」

大きな声で雛は答える。


「雛ちゃんかー! いい名前だねー」

笑う仁。


「うん!」

雛は笑顔になる。


そして、仁は立ち上がり華に笑顔を向ける。


「会社から息抜きで外出してるんですけど、ご一緒してもよろしいですか?」


あ、会社の休憩時間か・・・。


「ええ、どうぞ」と笑顔で華は応じる。


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