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LOVE奪取  作者: AuThor
2/20

和村ファミリー

クラシック音楽が流れる部屋の一室で、仁と冷夏は無言で互いの顔を見合う。


「好きになった女って、人妻?」

冷夏は噴き出して笑う。


「ああ」

仁は冷夏の近くへ歩いていく。


「この男を落としてほしい」

陽太を盗撮した写真をデスクに置く。


冷夏は写真を手に取り、眺める。


「いかにも凡庸そうな顔ね」と興味なさげに言う。


「写真ではわかりにくいけど、実物はもっと優しそうな顔してる」


「はっ・・・だから何?」

冷夏は小さく笑う。


「私、今、忙しいし、他あたってくれる?」


「俺、この前、あの女の子を精神的に追い詰める協力したよね? あれ、結構めんどかったんだけど」


「・・・・・」

冷夏は無言で目を瞑る。


「絵画の盗品が出品されるオークションの情報でどう?」


「!・・・どうやって、その情報手に入れたの?」

冷夏は目を見開く。


「情報通の友人がいてね」


「ふーん」

冷夏は考え込む。


「わかった。じゃあ、その情報と、その友人を紹介してくれたら請け負うわ」と冷夏は笑む。


「・・・・・」

仁は苦笑いを浮かべる。


「絶対に成功させたいから、私に頼みに来たんでしょ?」

冷夏は小さく笑む。


「・・・わかった。じゃあ、成功報酬はそれでいいよ」と仁はため息をつく。


「交渉成立ね」

冷夏は笑う。


仁は陽太に関して知ってることを冷夏に話す。

「俺がその男について知ってる情報は今、話したことだけ」


「介護士で、老人ホームに勤務。暮らしぶりは裕福でもなく共働きで、5歳の娘がいて、妻一筋の優しい男か・・・」

冷夏は陽太の写真を手に取って見る。


「それじゃあ俺、帰るね。方法はそっちに任せる」

仁は椅子から立ち上がる。


「できれば、その男を虜にして、自分から離婚を切り出すような感じにしてほしい。完全にその男に幻滅できるような別れ方」


「・・・・・」

冷夏は目を瞑る。


仁は思い出したように口を開く。

「あ、それと。父さんから明日集まれないかっていうメールが今日届いたよ」


「パパが?」

冷夏は仁を見る。


「明日限定の、面白いものが手に入ったって」


「詳細は?」


「秘密だって」


「いつもの俺たちを集めたい常套手段でしょ。そうでもしなきゃ俺たちが集まらないから」

仁は笑う。


「くだらないものであることの方が圧倒的に多いけど、時々、本当に凄いものもあるから、迷うわね」

冷夏は目を瞑る。


「明日か・・・特に予定もないし、行くわ」


「携帯、壊れたんなら修理するまで仕事用でも代用でもいいから連絡先教えといてくれる? これからは連絡を密にとってかなきゃいけないし」

コートを着る仁。


「明日修理に出す予定。あとで連絡先を送っておくわ」


「それじゃ、よろしく」

冷夏に背を向け、仁は玄関に向かって歩き出す。


「今回は本気なんだね」

冷夏は薄ら笑いを浮かべて言う。


「本気じゃなきゃ、あんなふざけた報酬は認めないよ」と仁は玄関から外に出ていく。


玄関の扉が閉まったあと冷夏は小さく笑って、再び目を瞑って音楽を聴くのだった。



翌日の夜、仁と冷夏は豪邸の中に入っていく。


そして、豪邸の中の一室の扉の前に2人は立ち、ドアを開ける。


ドアの先には両親が席について待っていた。


「久しぶりだな。仁、冷夏」

和村秀一わむらしゅういちは久し振りに見る息子と娘に笑顔を向ける。


「久しぶり、父さん」


「久しぶりね、パパ」


「2人とも元気にしてた?」と和村冴子わむらさえこはワインの入ったグラスを口につける。


「特に変わりないわ」と冷夏は言い、椅子に座る。


「俺も特に変わりないよ。母さんは?」

仁も冷夏の隣の椅子に座る。


「私も特に変わりなく幸せな日々を送ってるわ」

冴子は一口ワインを飲み、グラスをテーブルに置く。


「面白いものって何?」

冷夏は秀一を見る。


「ああ、昨日、借りることができて、明日返さなきゃいけないものなんだけどな」

秀一はテーブルに置いてあるリモコンを手に取り、操作する。


すると、4人だけがいる室内に音楽が流れ始める。


4人はその音楽を聴き、心地よい気持ちに浸る。


しばらくして、曲が終わる。


「凄くいい曲ね。秀一さんが言った面白いものって音楽だったのね」

冴子は感嘆の表情を浮かべる。


「素晴らしかったわ。この曲、一度も聴いたことがない。誰の曲?」

冷夏は興味を持っていた。


秀一はしてやったりという顔になる。

「ある有名音楽家の未発表の曲だ」


「誰の曲かは教えられないの?・・・まあ、いいわ。後で音源ちょうだい」


「いや、音源は渡せない」


「何で?」

怪訝な顔になる冷夏。


「そういう条件で借りたからだ」


「コピーしても、ばれないわ」


「いや、ダメだ。ばれないとかの問題じゃなく、信頼を積み上げて交わしたそういう約束は守らなければいけない」


「じゃあ、もう一回だけ聞かせてくれない?」

冷夏はそっとポケットに手を忍ばせる。


「それも駄目だ。録音される可能性もあるからな。一度だけの再生というのも借りる際の条件の一つだった」


冷夏は苦虫を噛み潰したような顔になる。


「よく、借りることができたね」

仁は不思議そうな顔をする。


「普段から誠実に信頼関係を築いているからな」

自信たっぷりに秀一は言う。


「おまえたちも、もう20代だが、真摯に人と向き合うように心がけて生きることを大切にしろ。まちがっても人を陥れるような方法で成功を掴もうとするなよ。そういうやり方では決して幸せを手に入れることはできないぞ」

秀一は仁と冷夏を見る。


「そうね」

冴子も同調する。


・・・滑稽だな。

仁は小さく笑む。


父さん・・・父さんの隣に座ってる人は、父さんの元恋人だった幼馴染を陥れ、結果父さんを奪い取って、今も幸せを満喫してるよ・・・。

仁は冴子に視線を移す。


・・・その事実を知らない父さんに、そんなこと言われても全然説得力がない。

仁は目を閉じる。


4人で食事をとりながら、たわいのない会話をする。


そんな中で、仁は胸の内で語る。


そう、俺たちの母は、人を陥れて父の愛を勝ち取った。

昔、父は子供の頃から親しかった幼馴染の女性と付き合っていた。父は顔立ちが良く、誠実で、あらゆる分野の才能を持ち、将来大成することが約束されたように誰もが感じる人だったらしい。その幼馴染も顔立ちや性格は良く、人当たりのいい、まさに誰もが憧れる美男美女のカップルだったようだ。

でも、ある時、父は母と出会ってしまった。母は極めて優れた美貌を持ち、魅惑的なボディも持っていたようで(40代である今も、年齢を20代と偽っても通るだろう)、そして同時に悪魔的な策略家だった。

母は父に惚れ、恋人と別れさせるために、巧妙な罠でその幼馴染を陥れて2人を別れさせた。そして父の恋心を奪い取ったのだ。

そんな母に育てられた俺と姉が、こんな人間になるのもあたりまえだ。

母からその話を聞かされた時は、そのあまりに酷い策略に身震いし、その幼馴染に深く同情したものだ。むろん、その話は家族の中で母と俺と姉だけの秘密であり、父は知らない。

その話を聞く以前に、母は俺たちに幼いころから、「現実はドラマと違い、良い悪い関係なく、うまくやった者が幸せを掴みとる」と常々言ってきた。なので、そんな母の過去を聞いたところで、大して驚かなかった。

俺と姉は父と母の遺伝もあり、ルックスやスペックに恵まれていた。そして、父が大成して財力もあったので、それらを駆使して、幼いころから悪い手段を厭わず、思い通りに欲しいものを手に入れてきた。

昔の母とは違い、お金も十分に使える環境にあるので、策略や手段の幅も広い(まあ、だからこそ、十分なお金のない状況下で母が父を手に入れるために巡らせた策略は、恐ろしく緻密に計算され練られたもので、母には到底勝てないと思った)。

俺と姉は欲しいものを手に入れるために都合が悪いことがあれば、人を陥れたりもして、あらゆるものを手にしていく中で、母の言っていることは正しいと確信した。

悪い方法を用いて不幸になるのは、うまくやれなかった者だ。政治家にしても汚職が発覚して不幸になるのはうまくやれなかった者、違法な手段で大金を手にして豪遊する人生を送り、不幸な目に合わずそのまま老衰する者も現実には数えきれないほどいるだろう。

結局は、どんな手段を用いたとしても、うまくやれるか、やれないか。それが全て。


仁は心の中での一人語りによる回想をやめ、席から立ち上がる。


「俺、これから用事があるから、そろそろ行くね」


その仁を見て、「私も」と冷夏も席から立ち上がる。


「そうか。たまにはお前たちの方から顔を見せにこいよ」


「ああ、時間ができたらね」


仁と冷夏は扉を開け、部屋の外に出て、廊下を歩いていく。


「例の計画だけど、双眼鏡でベランダが見える位置の高層マンションをもう借りた。そこを拠点にしよう」仁は歩きながら冷夏に言う。


「わかったわ」

冷夏は気怠そうな顔をする。


「夫の方のシフト表も手に入れたから、後で拠点の場所と一緒にメールで送っとく」


「明日はシフトが入っているの?」


「ああ、10時から入ってる。家を出るのは8時だ」


「じゃあ、明日からさっそく始めるわ」

豪邸から外に出た冷夏は夜空を見上げた。



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