終わり
翌日の火曜日、華はいつも通り仕事をした後、翔吾とビルの会議室の中に入る。
「電話で話した通り、ここは2人しかいませんし、部下に外を見張ってもらっているので、今からビデオで会話を撮影することは誰にも話さないでください」
室内は誰もいないので翔吾の声が響く。
「工事現場での出来事が仕組まれていたことだったとしたら、正直、何が起こるかわかりません。僕の身に万一のことが起きた場合は、ここで撮影する会話の映像を警察に出してください」
「そんな。笹間さんをそんな危険な目に巻き込むわけにはいきません」
華は慌てて言う。
「大丈夫です。そうならないように部下に協力してもらって、手は打ってあります」
翔吾は笑う。
「万が一の話です。2人で問題を解決しましょう」
「本当にありがとうございます」
華は頭を下げる。
そして2人は会話する。
その夜、仁は翔吾について調べさせた資料を見ていた。
・・・笹間翔吾か。厄介だな。
仁は冷夏にメールする。そして、数時間後に冷夏から電話がかかる。
「用件は?」
冷夏の機嫌の良さそうな声が聴こえる。
「あと少し協力してもらいたいことがあるんだけど」
「どんな内容?」
「華さんに近づく男を落としてほしい」
冷夏は笑う。
「そういう話なら他を当たって。私はこれ以上関わらないわ。陽太さんを失いたくないもの」
「それに、あんたサシでの勝負に勝つ自信ないの?」
冷夏は馬鹿にするような声で言う。
「確実に勝ちたいだけだ」
「とにかく、一番厄介な壁は取り除いてあげたんだから、後は自分でやりなさい」
冷夏はそう言い、電話を切る。
仁はため息をつく。
東の人材派遣で頼む手もあるが、仁から見ても翔吾の男としてのレベルは高く、人材派遣で派遣される女性では攻略が難しいと感じていた。
・・・となると。
仁は電話番号を押す。
「ひさしぶりね」
冴子の声が聴こえる。
「母さん、協力してもらいたいことがある」
「何かしら?」
「ある男を落としてもらいたいんだけど」
「ふふっ・・・それは無理な願いよ。秀一さんとの家庭が壊れる可能性のあることは絶対にやらないわ」
「・・・だよね」
仁は電話を切る。
・・・仕方がない。
仁は電話番号を押す。
翌日の水曜日、仁の拠点に一人の女性が来た。
「やっほー! 仁、久しぶり」
滝中久美がリビングに入ってくる。
仁が知る中で、久美は冷夏と冴子に次いで男を落とす力があると仁が認めている女性だ。
「男を落とすって、どんな男?」
仁は事情を話す。
「なるほどね、わかったよ。でも条件が一つだけある」
久美はテンション高めだ。
「何?」
「あたしも今後協力してもらいたいことがあったら、お金と人材を提供してくれる?」
「ああ、約束するよ」
「OK。契約成立」
久美は笑顔で言う。
「わかってると思うけど、確実に攻略するには情報があるだけあった方がいいわ。これまでのあらましを説明してちょうだい」
「ああ」
仁はこれまでの経緯を話し始める。
二日後の金曜日、翔吾は会社から帰宅するために外を歩いていた。
「笹間翔吾さんですよね?」と後ろから声がかかる。
翔吾が声の方に振り向くと、端正の顔立ちの若い女の子が立っていた。
土曜日になり、公園で華が一人でベンチに座ってスマートフォンを見ている。
仁は公園の通りに来る。
?・・・・雛ちゃんは?
仁は不思議に思い、華のもとへ歩いていく。
「こんにちは、華さん。雛ちゃんは今日いないんですか?」
仁は華の近くに行き、声をかける。
華はベンチから仁を見上げ、立ち上がる。
そして華は手を振り上げる。
・・・ああ、終わった。
仁は無表情になる。
次の瞬間、激しい音とともに仁の右頬に痛みが走った。
仁はビンタされた体勢のまま、観念したような表情になる。
「陽太に会わせてください! 和村仁さん!」
華は真剣な顔で仁を見据える。
仁はわずかに微笑み、つぶやく。
「・・・和村って苗字は嫌いだから、七海という苗字を名乗ってるっていう理由を、説明する機会がなくなっちゃったな」
そして、仁は儚げな表情で華を見て、「わかりました」と言ったのだった。
華は、街中を歩いていたどこか元気のない陽太が目に入る。
「陽太・・・」
華はつぶやく。
「華・・・」
陽太も気付く。
「陽太!」
華は陽太に抱き着く。
「どうして?・・・」
陽太は驚いている。
「もう、大丈夫。全部終わったから」
華は泣きながら陽太を見つめて言う。
その2人の姿を陰から見ている仁と翔吾。
「一つ聞いていい?」
仁は2人を見ながら翔吾に聞く。
「何だ?」
「あんただって華さんのことが好きだったんだろ。うまくやれば俺と旦那さんを排除できて華さんを手に入れることもできたはずだけど、何でしなかったの?」
「・・・好きな人には、その人が一番望む形で幸せになってもらいたいもんだろ」
「・・・・・」
仁は華を見つめる。
「一発、殴るぞ」
翔吾はそう言うと拳を構えた。
「どうぞ」
仁は無表情で翔吾を見る。
仁は翔吾に殴られ、地面にあおむけに倒れ、青空を見上げる。
翔吾は立ち去る。
「・・・・理解できないね・・・・やっぱり人それぞれだなー」
仁は空を見ながらつぶやく。
仁は起き上がり、街中を歩き始める。
すると、仁の前に久美が立っている
「やっ!」
久美は手を軽くあげる。
「理由を聞きたいな。どうして?」
仁は薄ら笑いを浮かべる。
「元カノからの逆襲」
久美は笑う。
「・・・俺たちドライな関係だったよね? そういうのに執着しないタイプだと思ってたんだけど?」
「そう演じていただけ。あたしは君にいつかリベンジしてやろうと企んでた」
久美は笑って仁の横を通り過ぎる。
仁はため息を小さくつき、歩き始める。
その夜、仁はビルの屋上で片膝を立てて座った姿勢で夜景を眺めていた。
後ろに人の気配を仁は感じる。
仁の顔が険しくなる。
「どうして?」
非難の色を含んだ声が仁の耳に届く。
仁の後ろには、冷たい光を目に宿した冷夏が腕を組み睨んで立っていた。




