疑惑
さっきから華は陽太に何度も電話しているが、つながらない。
「何? どういうこと?」
混乱している華。
陽太があんなこと言うわけない・・・何があったの?
たぶん、あんなことを言わなければいけない事情があった・・・。
それってどんな状況?
・・・誰かに言わされてる?
でも、何のために陽太にそんなことを言わせるの?
陽太にそんなことを言わせて起こりそうなことは、私が傷つくことか、私たちの離婚。
・・・私を傷つけるためだけにそんな回りくどいことはしなくていい。
じゃあ、私たちの離婚を望んでる人がいる?
それを望む人って、結婚してる私を邪魔に思ってる、陽太のことを好きな人がやってるってこと?
華は陽太からの電話以降、その日はぐるぐると考え続け、陽太は帰ってこなかった。
陽太からの電話があった翌日の土曜日、郵便受けに陽太が記入済みの離婚届が入っていった。
「パパは?」
雛が華の近くに駆け寄る。
「パパはお仕事で帰ってきてないから、今日は家で遊ぼうね」
「公園に行きたい」
「ママがちょっと忙しいから、今日は公園には行けないわ」
「はーい」
雛は家の中のおもちゃで遊ぶ。
華は今日、陽太の勤務先に電話したが、一方的な退職願の電話があったことを聞く。
そして、陽太と電話は一向につながらない。メールも昨日から送っているが、まったく返信がない。
・・・あの時、言わされてたとしても、どこかで本当の事情を連絡してきてくれると考えたけど、今日になっても何の連絡もない。
それができない状況・・・つねに見張られてるってこと?
それって、凄く危ない状況じゃない?・・・警察に相談した方が・・・。
でも、何も証拠なんてないし・・・。
華は夕方にもう一度郵便受けを見に行くと、1枚のDVDが入った封筒が届いていた。
そのDVDに対して華は観る前から嫌な予感しかしなかった。
それでも、そのDVDに何か手がかりがあるかもしれないとも華は思い、雛が眠った後にDVDを観て、華は衝撃を受ける。
そのDVDの中身は陽太と女性が行為の最中の映像だった。
電話の声で信じられないことを聞くのと、映像で視覚的に信じられないことを見るのは衝撃が全く違う。
華はめまいがした。そして、その夜は一睡もできなく翌日の日曜日となる。
仁は華が公園に来ないことで心配していた。
郵便受けには取りにいってるようだけど、大丈夫かな?・・・。
俺がわかりやすくアプローチしてるから、希望がまったくないという状況でもないし、今日公園で攻めようと思ってたんだけど・・・予定狂っちゃたな。
と仁は時計を見る。
仁が時計を見ている時、華は憔悴していた。
雛が陽太のことを聞いてきたが、昨日と同じように答え、家で遊ばせる。
たぶん・・・陽太は無理矢理させられているんだと思う。
そう華は思ってはいたが、その映像を観たことはさすがに精神的にこたえていた。
映像には相手の女性の顔は映っていなく、どうにかしようにも何の手立てもなく、自分だけではどうにもできないと華は思っていた。
頼れる人がいないか考えてみたが、問題が一般的ではなく特殊な感じがして、相談できる人が思い浮かばなかった。
私は陽太を信じる・・・愛する人を何があっても信じる。
華は陽太との日々を頭に浮かべてそう思うのだった。
その頃、陽太は冷夏のマンションの部屋に冷夏と2人でいた。
陽太はうなだれて座っている。
冷夏はそんな陽太を見つめる。
「大丈夫、私が全て忘れさせてあげるから」
冷夏は微笑む。
華はあまり眠れなく、月曜日を迎えて雛を保育園に連れていき、スーパーでレジに立つ。
「おはようございます、笹間さん」
華はレジに来た翔吾に挨拶する。
「おはようございます」
翔吾も笑顔で挨拶を返す。
そして、いつものように華は商品をスキャンしながら翔吾と会話をする。
翔吾は華の様子が、いつもと少し違うように思えたが、そういう日もあるだろうと思い、いつものように笑顔で袋を華から受け取る。
「あの!」
華は翔吾が立ち去っていく姿を目にした時、思わず翔吾を呼び止めていた。
「はい」
翔吾は振り返る。
「あ・・・・・相談したいことがあるんですけど、お暇な日とかありますか?」
「波木さんは今日、何時に仕事が終わります? よければ、その時間に僕も合わせて、その時に聞きましょうか?」
「ありがとうございます。14時に終わります」
「じゃあ、14時に入口の近くで待ってます」
翔吾は笑顔で言う。
「ありがとうございます」
華は頭を下げる。
「いいですよ。波木さんにはいつも元気もらってるし」と翔吾は言い、歩いていった。
その後、仁もレジに来て、いつも通り会話する。
「波木さん、ちょっと元気がないように見えますけど、何かありました?」
仁は心配そうに聞く。
「あ、そうですか?」
「何かあったら、いつでも相談してくださいね! 何でも力になりますから」
仁は笑顔を向ける。
「ありがとうございます」
なぜか華は仁に相談しようとは思えなかった。
そして、華は仕事が終わって翔吾と会い、翔吾は華の相談が簡単なものでないことを少しの会話から察し、密室ではない、人に話を聞かれないような場所に2人で移動する。
「・・・それは、たしかに変ですね」
翔吾は華の話を聞き、口を開く。
「別れさせ屋のような手口にも感じます」
「別れさせ屋・・・」
華はうつむいてつぶやく。
「はい。最近、波木さんに近づいてきた男とか思い当たりませんか?」
「最近ですか・・・」
華は考える。
「プライベートの時に近づいてきたり、やたらと接近したりしてこようとする男とか」
「・・・・・」
華は仁の顔が思い浮かぶ。
「七海さんという方が、公園に娘と一緒にいる時、よく来られます」
「でも、その方はかばってくれたり、守ってくれたりした人で、とてもそんな悪い人には思えないです」
「その人の話を詳しく聞かせてください」
そして、華は翔吾に仁のことを話す。
「・・・怪しいですね」
翔吾はつぶやく。
「え?」
華は思わず驚く。
「毎日大量の駄菓子だけを購入して、1万円札を募金する。公園で偶然に会ってから、時々ケーキを持って来るようになる。お客さんのクレームからかばった翌日に会食がキャンセルになり波木さんを誘い、その日に改装工事現場で危険なことが起こり、2人を守る・・・。そして陽太さんが一緒にいる休日には一度も公園に来たことがない」
翔吾は華が長々と仁について話したことの中のいくつかの出来事を、ピックアップして並びあげる。
・・・そういうふうに言われると、ちょっと変な感じもする。
華の中に疑念が芽生える。
「パワハラって・・・そんな少人数の投資家の集まりで、同じ稼ぎ仲間に時間を無駄にさせるようなことするのか疑問です」
「その男、もしかしたら旦那さんの件に関わっているかもしれません。絶対にこちらが怪しんでいるようには思われないでください。その男が旦那さんへの唯一の糸口かもしれません」
翔吾は華を見る。
「はい・・・」
華は深刻な表情でうなずく。
「もうそろそろ保育園で預かってもらうのも限界の時間じゃないですか?」
翔吾は時計を見る。
「そうですね、今日はありがとうございました」
「あとは電話で話しましょう。僕も調べたり、いい方法を考えたりしてみます」
「よろしくお願いします」
華は頭を下げる。
「波木さん。何があっても、今まで通り旦那さんを信じていいと思います」
翔吾はにっこりと笑う。
「はい、ありがとうございます」
華は翔吾の言葉に泣きそうになる。
翔吾は歩きながら思う。
・・・もし、工事現場の件も意図的にやったとすれば、かなりヤバいな。
こんな状況になっても、まだ波木さんと接触するってことは、狙いは旦那さんじゃなくて波木さんかもしれない・・・。
華は家に帰ると、華と雛がいない間に誰かが家に入った可能性に気付く。陽太に関するいろいろな物がなくなっていたのだ。華は翔吾と電話とメールアドレスを交換していたので、その夜に家で連絡を取り合って、さらに詳しく話し込む。




