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LOVE奪取  作者: AuThor
15/20

愛人

「どうしたの? 何か仕事で困ったことあった?」

陽太は冷夏の席に歩いていく。


「はい・・・。ここでは、あまり話せるお話ではないので、少し歩きませんか?」


陽太はカフェで話すとばかり思っていたので、予想外の事態に戸惑う。


そして冷夏は会計を済ませ、2人で街を歩き始める。


「ごめんなさい。深夜勤務の後にお呼びしてしまって」

冷夏は申し訳なさそうに言う。


「気にしなくていいよ。明日は休日だし」


「で、話って何だろう?」

陽太は歩きながら聞く。


「ごめんなさい。こういった人の多い場所では話せるお話じゃないので」


・・・人けのない場所に行くつもりなのか?

陽太は不安になる。


大丈夫だよな・・・間違いを起こす気はないし。さすがに、密室に入ろうとか言われたら断ろう。


「どこに行くの?」

陽太は聞いてみる。


「私の家です」


「いや、家はちょっと行けないよ。嫁さんに誤解されるようなことは避けたいから」

陽太は慌てて言う。


「そうですか・・・じゃあ、人が少ない通りでお話しします」


そして、冷夏と陽太は路地に入っていく。


陽太の中で、万が一ではなく、冷夏の話というのが、告白の類のようなものであるという確信が強まっていく。


「もう、ここでいいんじゃないのかな? 人、周りにいないし」

陽太は路地の奥へさらに進もうとする冷夏に声をかける。


「・・・そうですね」

冷夏は立ち止まる。


冷夏は振り向き、陽太を見つめる。


「波木さん・・・」


「うん?」

陽太は話を聞こうとする。


「私、波木さんのことが好きです。私と付き合ってください」

冷夏は陽太を見つめて言う。


「え? 俺が結婚してるって知ってるよね?」

陽太はドキドキしながら答える。


「はい、知ってます。でも陽太さんが好きです。奥さんと別れてください」


「ごめん・・・俺は妻と娘を愛してるから、そんなことはできないよ」

陽太はしどろもどろと答える。


「じゃあ、愛人でいいです」


「は?・・・いや、愛人って・・・」

陽太は予想外の言葉に反応が遅れる。


「二番目でもいいので、私を愛してください」

冷夏は陽太に抱き着く。


「いや、困るよ。妻と娘を裏切ることはできないから」

陽太は心臓が高鳴ったまま、冷夏を引き離そうとする。


冷夏は強く抱きしめ、離れようとしない。

「もう、この気持ち、抑えることができないんです」


「キスしてください」

冷夏は陽太に抱き着いたまま、陽太の顔に自分の唇を近づける。


「ごめん。本当に無理だ」

陽太は顔を背けて言う。


「・・・・・」

二人は沈黙する。


冷夏は陽太を抱きしめていた手をほどき、うつむく。


「私じゃ・・・だめですか?」

冷夏はつぶやく。


「だめとかじゃない! 和村さんは魅力的な女性だよ。でも、俺には妻と娘がいて、2人を裏切りたくない」

陽太は必死に言う。


「・・・そうですか。お時間とらせてしまってごめんなさい。もう、帰っていただいて大丈夫です」

冷夏は陽太に背を向ける。


でも、こんな人けのない場所で女性を一人にするなんて・・・。


「行こう」

陽太は冷夏に近づく。


「一人にしてください」


「路地からは出よう、危ないよ」


「これ以上、みじめな思いをさせないでください」

肩を震わせて冷夏は静かに言う。


陽太は冷夏の後ろ姿を見つめる。


「ごめん」

陽太はそう言い、路地を抜けるために歩いていく。


陽太は苦渋の表情を浮かべる。


告白されたのは初めてだ。だから告白を断るのも初めてだ。どうにもできないやるせない気持ちを陽太は味わっていた。


冷夏は陽太の足音が遠ざかり聴こえなくなると、不敵な笑みを浮かべていた。


ええ。・・・想定内。・・・これは布石。

これで落ちるようでは冷めていたかもしれないわ。

次が本番。

次は・・・逃れられない!!

冷夏は邪悪な微笑みを浮かべる。



仁は拠点であるマンションの室内で、冷夏が玄関のドアを開く音を聴く。


「どうだった? 愛人宣言計画」

仁は笑って聞く。


「予想通りよ。これで第一段階はクリア確実ね」

冷夏は笑む。


「そっか。じゃあ、俺も次で実行しないとな」


その後、冷夏は老人ホームで陽太とシフトが一緒になる日は、あからさまに精神的ダメージを受けているような様子で振る舞う。

それでも、陽太を時折見つめたりして、自分の視線に気づかせる。



愛人宣言計画が実行された3日後の土曜日。


華は雛と公園で過ごしていた。陽太は仕事である。


「おはようございます」と前方から仁の声がして華と雛は顔を向ける。


鞄と透明な袋を持って、こちらに向かってくる仁。


「あ! ケーキのお兄ちゃん!」

雛は仁に駆け寄る。


・・・もう雛は七海さんの常連客だ。

華は雛を見て苦笑する。


そして、3人はケーキを食べ、雛は砂場に仁を誘うが、「仕事が残ってるから、ちょっとだけ待っててね」と仁は笑顔で言い、華と仁は2人で座って、雛は砂場で遊ぶ。


仁はノートパソコンに映る、難しそうな画面を見ながら操作している。


「旦那さんは幸せ者ですね」

仁はつぶやく。


「え?」

華は仁を見る。


「華さんと雛ちゃんがいる家庭だなんて、もう楽園じゃないですか」

仁は笑う。


「いくらお金があっても、そういうものは手に入れようとして、手に入れられるものでもないからなー」

仁は遠い目をする。


「仁さんはきっと素敵な人と出会えますよ」

華は笑う。


「華さんみたいな人と結婚したいな。知り合いにいません? 華さんみたいな人」

仁は華を見つめる。


「え? 私?」

華は驚く。


「お金はもう十分いらないほど稼いでるんで、あとは華さんみたいな人と結婚して、仕事を辞めて幸せになりたいです」

仁は華を真剣に見つめ続ける。


「私みたいな人って・・・仁さんならもっと素敵な女性に出会えますよ」

華はぎこちなく笑う。


「俺は華さんのような女性と家庭を築きたいんだけどなー」

仁は笑む。


「あはは、えー?」

華は苦笑いする。


何?・・・口説かれてる感じがするのは気のせい?

華は動揺する。


「雛ちゃんと遊んできますね」

仁は笑顔でそう言い、雛の元へ歩いていく。


華は不思議に思いながら仁と雛を見ていた。



冷夏が勤務し始めて、2ヶ月ほど経った夜。


陽太はビルの屋上に来ていた。


ビルの屋上の一番奥に冷夏が立っている。


「和村さん?」

陽太は驚く。


「波木さん・・・」

冷夏はそう言い、強風でも吹けばビルから落下してしまう場所に立っている。


堀峰が一身上の都合で退職することになり、送別会をおこなったあと、陽太は堀峰にメールで屋上に呼び出されて来たのだった。


「堀峰さんを利用しちゃいました。彼には悪いことしたなー」

冷夏は茶目っ気に言う。


「・・・どうしたんですか?」

陽太は戸惑っている。


「私、どうしても波木さんのことが好きで忘れられなくて、でも一緒になることができなくて、苦しくって、死のうか迷ってたんです」


陽太は固まる。


「早まっちゃだめだ!」

陽太は駆け寄ろうとする。


「来たら、飛び降ります!」

即座に冷夏は右手を前に出す。


陽太は立ち止まる。


「私の自殺を止める方法は1つ。私を半年間あなたの愛人にしてください」

冷夏は陽太を見つめて言う。


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